地味な法務書記官令嬢、王弟殿下に選ばれる
@Rose0547
1話 法務書記官フェデリカ
フェデリカ・ベアトリーチェ・チェレスティーニ伯爵令嬢は、アウローラ王国の法務書記官として働いている。彼女は今日も裁判記録を取るために法廷に座っていた。
原告、被告として争う商人たちは、顔を紅潮させながら互いにまくしたてている。
「わたしが先に港へ運び込んだ! 契約を反故にしたのはそちらだ!」
「馬鹿を言うな、あの荷はうちの契約分だ!」
法廷で言い争う声が響きあい、重なってぶつかる。フェデリカは机に向かい速記用の羽根ペンを走らせていた。
『原告:先に荷を港に運び込んだと主張
被告:荷は自分の契約分と主張』
法廷の場でどんな証言がなされたか、どのような証拠が出たのか。彼女はそれを要約して記載する。途中ズレたメガネの位置を直しながら、細かな証言のニュアンスまで逃さぬように彼女は速記をこなす。本日の争点があらかた終わり、裁判は閉廷となった。フェデリカは裁判記録を判事に提出する。
「おお、あれほど荒れていた裁判だったのに、よく要約されているね」
「ありがとうございます」
「君は判例保管庫に戻るのかい? なら、参考になりそうなものを見繕ってほしいのけど」
「承知しました」
彼女はぺこりと頭を下げると保管庫に戻った。この保管庫には建国以降に行われた裁判の判例が保管されている。
(今回の事件の争点は荷の所有権。ということは……)
フェデリカは膨大な書棚の間を縫い、商人の争いについての判例が保管されている書棚へ向かう。そして、事件名や主な争点をパラパラと確認しながら似た事件をいくつかピックアップした。そこに先ほどの判事が様子を見にきた。
「チェレスティーニ嬢、いい判例は見つかったか?」
「こちらでいかがでしょう?」
判事は判例を流し見で確認すると、「うん、これらは参考になりそうだな。助かったよ」と答えた。
彼が立ち去った後、フェデリカに「すみません、チェレスティーニ嬢でしょうか」と声をかける者がいた。彼は税務官の制服を着ている。
「何かご用でしょうか?」
「脱税の簡易裁判の記録を見たいんです」
「脱税の簡易裁判ですか。ご参考までに閲覧理由を確認しても?」
「えっと、簡易裁判ではどんな証拠が出て、どう扱われたのか確認したくて。今度監査をする予定がありまして……」
「かしこまりました。監査対象の立場はどのようなものでしょうか?」
「平民上がりの男爵です」
「なるほど。ではこちらがわかりやすいかもしれません」
彼女はそう言って3年前の男爵に対する簡易裁判の判例を渡した。税務官はさらりと判例を確認して「あ、平民時代の脱税の証拠も載ってる。これなら分かりやすそうだ」と呟いた。
「『判例のことはチェレスティーニ嬢に聞け』と言う噂通りですね。これなら仕事が進みそうです。ありがとうございました」
「お役に立てたようでよかったです」
彼女は眉ひとつ動かさずさらりと答えた。税務官は「それでは失礼します」と言って保管庫を立ち去った。
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