promise of the dead

@2Zhiroaka

俺と死んでください

異形の化け物が蔓延る世界に、一体なにを望めるというのか。醜悪で汚染された街を見下ろしながら俺は笑みを浮かべた。


つい数時間前、ネット上に投稿された動画は瞬く間に世界に浸透した。内容はおぞましくグロテスクでとても見れたものじゃなかったが、今となっては眼前にその光景が映るのだから嫌でも目に入る。

――世界にゾンビが現れた。

厨二病の拗らせぶりを晒している訳では決して無い。冷静に事実を確認し、ゲームや漫画の知識を加味して端的にまとめた結果、現実離れした文章になってしまったのだ。夢やそれこそ重度の厨二病を発動させているならばどれほど良かったことか。

目に映る光景は三百六十度どこから見ても自身のちっぽけな創造性で補完できるものでは無かった。


殺し、殺され、殺し返す。

某ゾンビ映画、又はアニメ漫画と同じく、ゾンビに噛まれることで感染し、ゾンビの頭を潰せば殺すことができるようだ。そして某主人公は策を巡らせ、仲間を集めて生き残るのだが、生憎俺は主人公にもなれる気がしないし、その主人公にも会っていない。つまりはモブだ。

主人公かその友達、あわよくばヒロインの前で殺される噛ませと言ったところ。


―と、このように現実逃避することでしか平静を保てないほどに、俺は動揺していた。

例の主人公をみて、これくらいなら俺も。と考えたことは1度や2度ではない。しかし今となっては、それがとても甘い考えだということを知った。

友達も、家族も、知り合いも。目の前で食われた時の絶望は、想像を絶するものだった。人生の全てが不条理な生物に食い殺されていくのを見て、いっそ死んでしまった方が楽だと本気で思った。


では何故、今も生きているのか。

それは、約束があるからである。高校三年生の冬。卒業を控えた今日に、俺は愛する人に思いを伝えることに決めた。登校中、襲われるまではそれが確実に実現するはずだった。

助けを求め戻った家で家族と共に死んでも良かった。それをしなかったのはこの現状に抵抗するため、何より男を見せるために希望を持とうとしたからだ。彼女は義理堅い女だ。きっと、あの教室で待っていてくれる。


「はぁっ、はぁっ」


血が滴る腕を抑えながら、学校の中を無我夢中に走った。アドレナリンが出ているせいか、腕の感覚はないし、走っている感覚ですら朧気だ。自分は今、走れているのだろうか。だが、目が見えていればそれは些細なことだった。彼女の姿だけを求め、それを気力にして走った。


「あ」


やっと教室に着き、その姿を目にした。紛れもなく、彼女だった。良かった、と安心してその場に崩れ落ちる。なんてかっこ悪い。でも、もう立てそうになかったため、教室の壁にもたれかかりながら彼女に言った。


「きみが、好きだ。だから……っ……おれ、と付き合って、くれ」


―あぁ。なんてかっこ悪い。

走りすぎたあまり、息切れして声が出ないではないか。一世一代の告白を自分でそう批評しながら、嘲笑した。でも、言えた。叶えた。


「あ、あぁ……お……」

「……ごめん、なんて、言ってるか……分からないや……あはは。耳が、少し、聞こえずらくて……もう、1回。言って欲しい……な」


彼女は、なんて言ってくれたのだろう。どんな表情で、どんな気持ちで……と頭がふわふわする。きっと気持ちが昂っているせいだろう。

すると、うなじの辺りに何かが当たった感覚がする。それは多分人の形で、彼女だ。


「ん……?は、ぐして……くれてるの……?」

「あぁ……うー」

「……お、れ……今、とて…も…幸せ、だ……」


この目で彼女の姿を見られないことが残念でならない。自分の意識が遠くなるのと同時に、内側から気持ち悪いものが込み上げる感覚がした気がした。


彼はその日。希望を抱いたまま、その世を去った。

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