ノイズとアリア

Tom Eny

ノイズとアリア

Ⅰ. 音羽湊はデモテープを再生した。ノイズの中に、七瀬糸の声があった。 湊は彼女を指名した。タイトルは『フィフス・ストリング』。 当日、糸は黒いコートで現れた。左手の薬指に銀の指輪が光る。 「プライベートは持ち込まないで」 糸は一蹴した。 歌声は交わらない。一曲目は、すれ違うだけの記録となった。


Ⅱ. 九ヶ月が過ぎた。 湊はブースの隅にハーブティーを置いた。言葉は交わさない。そのまま立ち去った。 二曲目は『メビウスの輪郭』。 湊は一歩後ろを歩くように歌った。糸は孤独をなぞるように歌った。 レコーディングが終わると、糸はすぐに消えた。


Ⅲ. 糸の生活が破綻した。「普通」を強いる恋人を、彼女は捨てた。 三度目の企画が、彼女の独立直後に動き出す。 湊は歌詞を渡した。 「君が決めてくれ」 タイトルは『愛の糸』。 マイクの前で、糸の仮面が剥がれた。声が震え、嗚咽が録音された。 それは、彼女が選んだ運命の音だった。


「――ああ、うるさいほどの、光」


Ⅳ. 屋上。 「あなた、重い男ね」 「知っている」 湊は否定しなかった。彼女の声がなければ、彼の世界は完成しない。 新しいアルバムのクレジット。 Vocal & Produce: 音羽 湊 Lyric & Muse: 音羽 糸 二人の名は、隣り合わせで記された。


[Recording Log: 2026.01.02 / Studio "ARIA" / Take 101]


Liner Notes: 「このノイズを、愛と呼ぶことにした。」 — M. Otowa

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ノイズとアリア Tom Eny @tom_eny

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