落ちこぼれ転生皇子、実母の歪んだ愛に溺れながら世界を滅ぼす禁断の魔術に手を染める

【禁忌】しーば4【NTR】

第1話 象牙の耳かきと腐った百合の檻

硬質な象牙の感触が、耳孔の奥をゆっくりと撫でる。


背筋を冷たいものが這い上がる感覚に、私は身を強張らせた。


それは快楽などではない。


生理的な拒絶と、逃れられない甘やかな支配への諦念がない交ぜになった、ひどく不安定な感情だ。


「じっとして、アルヴィス。まだ奥に残っているわ」


頭上から降ってくる声は、蜂蜜のように甘く、そして氷のように冷たい。


私の頭は今、帝国で最も高貴であり、かつ最も恐れられている女性の膝の上にある。


皇妃エレノア。


私の実の母だ。


彼女の細い指が、私の髪を梳くように動くたび、百合の花を腐らせたような濃厚な香りが鼻腔を満たした。


「……母上、もう十分です。これ以上は」


「いいえ、まだよ。貴方は自分では何もできないのだから」


母の言葉には、絶対的な確信があった。


反論を許さない響きと、私の無力さを慈しむような歪んだ響き。


私は小さく息を吐き、視線を宙に彷徨わせる。


豪奢な天蓋付きのベッド。


分厚いカーテンに閉ざされ、昼夜の区別もつかない薄暗い寝室。


ここが私の世界の全てだった。


かつての人生、孤独な研究者として死を迎えた記憶を持つ私にとって、この状況は一種の地獄であり、同時に唯一の安息地でもあった。


魔法至上主義を掲げるこの帝国において、魔力を殆ど持たずに生まれた皇族など、塵芥に等しい。


本来ならば、産まれた瞬間に廃棄されるか、あるいは辺境の修道院へ幽閉されるのが定石だ。


だが、私はここにいる。


帝都の深奥、母の管理する離宮で、こうして飼われている。


「ああ、なんて可愛いのかしら。その怯えた瞳、震える唇……あの人にそっくり」


母の吐息が熱を帯びる。


象牙の耳かきを持つ手が止まり、代わりに彼女の指先が私の頬をなぞった。


あの人、とは今まさに病床に伏している父帝のことだ。


母は私を見ているようで、決して私を見ていない。


私という器を通して、若い頃の夫の幻影を愛撫しているに過ぎないのだ。


その事実に吐き気を催しながらも、私は彼女の手を振り払うことができない。


物理的な力の差ではない。


彼女の指先から流れ込んでくる、圧倒的な魔力の奔流に、私の魂が勝手に『共鳴』してしまうからだ。


私の身体は、魔力を生み出す器官が欠落している代わりに、他者の魔力を受け入れ、同化する性質を持っている。


乾いたスポンジが水を吸うように。


母の膨大な魔力が私の体内を巡り、血管を焼き尽くすような熱となって全身を駆け巡る。


「っ……、う、あ……」


口から漏れたのは、情けない喘ぎ声だった。


母の魔力は、あまりにも強大で、あまりにも毒性が強い。


「ふふ、熱いでしょう? アルヴィス。私の愛が、貴方の中に入っていくわ」


母が身を屈める。


豊かな胸元の谷間が目の前に迫り、彼女の長い睫毛が触れそうなほどの距離で、黄金色の瞳が私を射抜いた。


その瞳には、狂気的なまでの母性と、息子に向けるべきではない湿り気を帯びた情欲が渦巻いている。


「私の力がないと、貴方は息をすることさえ辛いのでしょう? 可哀想な子」


否定できなかった。


実際、彼女の魔力に満たされている時だけ、私は『生きている』という全能感を得ることができる。


無能な私がこの帝国で生きながらえる唯一の手段。


それは、この狂った母の愛玩人形として、彼女の魔力あいを貪り続けることだけなのだ。


耳かきという日常的な行為さえ、母にかかれば儀式へと変貌する。


私の内側を暴き、支配を確認するための、背徳的な儀式に。


「さあ、もっと啼いて。私にすべてを委ねなさい」


母の唇が、私の耳朶を甘噛みした。


背筋が跳ね、視界が白く明滅する。


理性という名の堤防が決壊し、私は母の腕の中で、あどけない子供のように、あるいは溺れる恋人のように、彼女の衣にしがみついた。


思考が溶けていく。


元研究者としての矜持も、前世から培った倫理観も、母の歪んだ愛の前では無力だった。


私はただ、この底なしの沼へと、自ら沈んでいくしかなかった。

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