競馬だけ覚えてる俺のやり直し人生

杜司

第1話:目が覚めたら、人生やり直しでした



 ……うん、知ってた。

 この三連単は外れる。


 なのに、なぜ俺――桐生こういちは買ったんだろうな。


 スマホ画面に映るゴール前。

 本命馬は粘っているが、外からとんでもない脚で二頭が突っ込んでくる。


「はい四着。解散」


 自分でも驚くくらい冷静な声が出た。

 外れ馬券を見つめた、その瞬間。


 胸の奥が、ぐしゃっと潰れた。


「……あ、これ死ぬやつだ」


 視界が暗転して――


 *


「……さむ」


 目を開けると、やけに懐かしい天井があった。

 ギシッと鳴るベッド。

 実家特有の、ちょっと古い空気。


「え……?」


 跳ね起きて、机を見る。

 学生用のリュック。

 教科書。

 ガラケー。


 嫌な予感がして、壁のカレンダーに目をやる。


 2009年4月。


「……は?」


 声が裏返った。


「俺、今いくつだ?」


 鏡を見る。

 クマのない顔。

 若い。若すぎる。


「十八……?」


 心臓がバクバク鳴り出す。


「逆行……転生……?」


 いや、落ち着け。

 夢かもしれない。


 そう思って頬をつねる。


「いっっった!!」


 現実だった。


 *


 机の上に置かれた競馬雑誌が目に入った。

 何気なく開く。


「……皐月賞」


 ページに並ぶ馬名を見た瞬間、記憶が一気に蘇る。


「ああ……そうだ」


 勝ち馬。

 展開。

 最後の直線。


「全部、知ってる」


 手が震えた。


 財布の中身は三千円。

 ラノベ主人公にしては心許ない資金だ。


「ま、最初はテストだな」


 俺――桐生こういちは、

 未来を確かめるように、単勝を一点だけ買った。


 *


 数時間後。


『先頭は――◯◯◯◯!』


「……来た」


 完璧だった。

 記憶通りの展開。

 記憶通りの勝利。


 払い戻しは、たいした額じゃない。

 でも。


「はは……」


 笑いが漏れた。


「これ、ガチじゃん」


 未来を知っている。

 競馬の結果を知っている。


「……人生、やり直すには十分だな」


 桐生こういちは決めた。


 派手にはやらない。

 でも、確実に勝つ。


「目指せ、堅実億万長者」


 そんな軽いノリで、

 俺の第二の人生はスタートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る