第2話

ルミアとロックが歩いていくと、巨大な食堂が見えてきた。

ここは毎日、人でごった返す。

この地区の戦士たちは全員がこの場所で食事を取る。味のない粗雑な食事だが、この戦時下にまだ食べるものがあたるだけありがたい。


入り口に着くと、いつもにまして騒がしかった。歓声も悲鳴も混じって聞こえる。


何かあったなと、ルミアは直感した。


中に入る。騒動の原因はすぐにわかった。食堂の中央付近だけ円形に人がはけている。そしてその中心には1人の男。さらには、足元に4人、血を流して転がっていた。


「トーガだ……」


横にいたロックが呟いた。トーガ。たしか入軍したのは最近だ。しかし、その異常性からすぐに噂が広まっていた。


「何があったの?」

ルミアが近くにいた男に事情を聞く。

「知らねえよ。肩かなんかぶつかったらしい。そしたらあっという間にあれだ。いかれてるぜ」


トーガは耳障りな笑い声を上げながら、足元の男の胸ぐらを掴み持ち上げた。片手一本で、大柄な男の身体が軽々と宙に浮く。


「もう……勘弁してくれ……」

「悪りぃなぁ俺はサディストだからよ。そういうこと言われるともっと殴りたくなるんだよなぁ。けけ」


心底嬉しそうに言いながら、拳が握られる。

その拳を、ルミアが掴んだ。


「あ?」

「いい加減にしたら?」


はるか下から、トーガの顔を睨みつけてルミアが言う。細いが、異様なくらいに背が高く、目つきは鋭い。まるで蛇だ、ルミアは思った。


「なんだおまえ?俺はフェミニストじゃねえ。女でも関係ねえぞ」

「あんたの話は聞いてない。食事がまずくなるのよ。黙っていられないの?」


それを聞いたトーガは、またにやっと笑って、簡単にルミアの手を振りほどいた。


「かわいい顔しておもしれぇ女だな。女殴んのも悪くねえ。容赦しねぇよ」


そう言って、掴んでいた男を放り投げてルミアの方を向く。ルミアも、覚悟を決めて戦闘態勢を取った。


「なにやってる?」


後ろから懐かしさすら感じる声が聞こえた。


「リト……」


スッと、ルミアを隠すように、リトは前に出る。その顔はいつもの陽気な彼のものではない。氷のように冷たい視線を、トーガに向けていた。


「なんだおまえは」


リトが低い声で言う。


「へぇ~こいつは。英雄様のお出ましかい。気に入られねぇな。なに気取ってんだか知らねえがよ。俺の邪魔だきゃするんじゃねえよ」


階級がはるか上のリトに対しても、トーガは一向に引かなかった。向かい合うと、リトも決して小さくはないが、トーガの体躯は一回り大きい。


一瞬の静寂があり、緊張が走る。トーガは、握りしめた拳をそのままリトに叩きつけた。


目で見えたのはそこまでだった。リトがその後、何をしたのかは、わからない。しかし、殴りかかったはずのトーガは、自らが倒した男たちと同じように、その場で横たわっていた。


「そこで寝てろ」


吐き捨てるように言う。そしてこちらを振り向いた。何かと思ったら、太もものあたりで、グータッチを求めていたので、返した。他のみんなにばれないように、小さく。ロックにも同じようにしていた。


このグータッチは、ルミアたち同期の儀式だった。何か良いことが起こると必ず行う。暗号のようなものでもある。


ルミアは嬉しくなった。リトは、リトのままだ。

そして驚いた。4人を殴り倒したあの狂人さえ、リトの相手にはならないのだ。

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