元旦の朝に

稲富良次

第1話 大晦日の支度

大晦日の中川邸では、準備というものがほとんど行われない。

それでも年は勝手に終わり、勝手に始まる。


善之は昼過ぎから帳場に座り、客帳を繰っていた。

記されている名は、半分が人、半分がそうでない。

それでも部屋割りは乱れない。誰が何であろうと、部屋は部屋だ。


「今年も満室ですね」


声をかけたのは小雪だった。

いつからそこに立っていたのか分からない。

足音もしなければ、障子を開ける音もしない。


「夜は長いからな」


善之はそう答え、帳面を閉じた。

摩耶山の向こうで、風が一段強くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る