第2話 【事務局へ】身に覚えのない出品を止めたい
3:名前なき匿名希望さん:202X/10/15(金) 13:40:05
講義が終わった瞬間にトイレに駆け込みました。
一番奥の個室に鍵をかけて、震える指で『カリモノ』の運営にお問い合わせを送っています。
――私の私物が、勝手に出品されています。
――私は出品していません。至急、削除してください。
でも、返ってきたのは、あの無機質な定型文。
【カリモノ事務局より】
お問い合わせありがとうございます。
ご指摘の件ですが、当アプリでは登録された端末からの出品を正当なものとして判断しております。
パスワードが漏洩している可能性がある場合は、設定変更をお願いいたします。
なお、取引成立後の自己都合によるキャンセルは、相手方の同意が必要です。
――自己都合。相手の同意。
ふざけないで。私が売ったんじゃない。
焦ってパスワード変更を試したけど、『メールアドレスが登録されていません』と出る。
ログインしているのに、私のアカウントが、私の知らない「誰か」のものになってる。
4:名前なき匿名希望さん:202X/10/15(金) 13:52:12
とにかく、口紅を。
出品画像があんなに鮮明なんだから、絶対に大学のどこかにあるはず。
一限の教室に戻る勇気はなくて、バッグの中身を全部ひっくり返しました。
財布、ハンカチ、モバイルバッテリー……ない。
でも、もし、この『カリモノ』の取引を、私が自分で『買い戻す』ことができれば。
キャンセルできないなら、私が最高値で落札すれば、これ以上の拡散は防げる?
そう思って、震える手で商品ページのリロードを繰り返しました。
そこで、気づいたんです。
商品画像が、一枚増えてる。
二枚目の画像は、口紅じゃない。『トイレの個室のドアらわを、外から撮った写真。
ドアの右上に、誰かがマジックで小さく『15』って書いてる。
私の口紅の色番号と同じ、15。
いつ?
私がここに入ってから、まだ数分しか経ってない。
外は、静かです。
誰もいない。
なのに、アプリの中の私だけが、着実に、誰かの手で更新され続けてる。
ねえ、誰か。
この『a_shi_no』っていう出品者、どうやったら止められるの。
警察に電話しても、証拠がないって言われたら終わりだよね。
まだ一品。たった一本の口紅なのに。
世界中から見張られているみたいで、個室から一歩も出られない。
【特定希望】フリマアプリに「今、私が着ている服」が出品されました。 冬海 凛 @toshiharu_toukairin
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