第4話 友と やっぱ2人がいいね
「さてこれからどうしよう?」
そう思案していたとき、突然
「いなボー~、お~い、いなボー!」
翔一を呼ぶ声が聞こえた。
「えっ、どこ?」
翔一は、左右にキョロキョロと目をやった。
「ううん、いない…」
また聞こえた。
「いなボー、ここだよ~」
「あっ、後ろだ!」
翔一は何とか後ろを振り向いた。段ボールのバランスが崩れぐらりと揺れる。
さっちが叫んだ。
「俺も段ボール持ってるから、一緒に風に乗せてくれよ」
「えっ、って言っても俺も今できるようになったばっかだし、よく分かんないよ」
翔一が答える。
「いなボーは飛べてんだから、やり方分かんだろ。教えろよ。俺も飛びてえよ」
さっちは相変わらず乱暴だ。
「でも待てよ。さっちのバランス感覚は天才的だから、ひょっとしたらすんなり出来ちゃうかも」
翔一はそう閃いて、さっちに向かって叫んだ。
「いいよ、でもとにかく俺より前に来て。後ろ向くのきついから」
変な態勢で乗っていたから、翔一の段ボールは、揺れまくっている。取りあえず態勢を立て直そう。
正面を向いてバランスを取っている翔一の前に、さっちが走り込んで来た。
「おっ、さっち来たか。まずねぇ、段ボールをこうやって身体の前に付けるんだよ」
「おお、こうだな」
さっちは素直に翔一に従って、段ボールを胸の辺りに当てた。
「そう、それで強い風が、あっと、ちょっと待って」
翔一は風に流され、前へと進んでしまった。
数回煽られて、翔一の乗った段ボールが大きく揺れる。やがて段ボールは安定し、翔一はさっちの元へ戻ってきた。
「お待たせ。えっとどこからだったっけ?ああ、最初からだね。そのまま乗れそうな風、まあ結構強い風が来るのを待ってるんだ。焦っちゃダメだよ」
「よく分かんねえけど分かった」
さっちが半信半疑に答える。翔一は大事なことを思い出した。
「そうだ、乗れそうな風が吹くときは、空の高いところから『ゴオーーー、ゴオーーー』って音が聞こえてくるんだよ。それが合図だよ。」
「えっ、マジ?何かすげえな。でも俺そんなの分かんないかも」
さっちが自信なさげに呟く。
「じゃあ、俺が合図するよ。たぶん聞こえるから」
そう言って翔一は、さっちを励ました。翔一は、さっちの横を行きつ戻りつしながら、「ゴオーーー、ゴオーーー」というあの音(それはもしかしたら天の声なのかもしれないが。)を待った。
さっちは翔一にいわれたとおり、段ボールを胸に当てて緊張した面持ちで突っ立っている。
「走るときみたいにさぁ、もっと膝を曲げて腰を落として構えてなよ。それじゃあ後ろに飛ばされちゃうよ」
翔一は自分の経験を基にさっちにアドバイスをする。
「おう、分かった」
さっちはじっと前を見つめたまま、やや前傾姿勢をとった。やや強い風が吹いてきた。さっちがビクリとして翔一を見る。
「まだまだ」
翔一は黙って首を振った。翔一は空を見上げた。遥か高い青空に、二本の細い筋雲がうっすらと見える。
「あそこから聞こえるのか、あの音?、いや声?」
とさっちが叫んだとき、微かに風の流れが変わった気がした。
「ゴオーーー、ゴオーーー」
「おおっ、何だあれ!」
叫んだのはさっちだった。
「天の声だよ、さっち、構えろ!」
風が、いや空気全体が圧力を増した感じがした。うまく表現できないが、身体が浮きやすくなったようで軽く感じる。
「さっち、次大きい風が来たら乗るぞ。風に身体を預けて前に倒れ込むんだぞ、いい?」
「分かんないけど分かった」
前を向いたままさっちが答える。
翔一は少し身体を左に倒し、さっちの横に近づいた。さっちが掴んでいる段ボールの先端が上がり出した。
「今だ!」
翔一の叫び声にピタリと反応し、さっちは前に身体を倒した。いい風だ。風は更に勢いを増す。
「さっち、もっと前に倒せ!」
翔一が叫ぶ。
さっちは風の圧力に何とか耐えているが、地面に着けた両足は少しずつ後ろに滑り出している。
「いなボー、足に力が入らなくなってきた~」
浮いてきている。 翔一はじっとさっちを見つめ、タイミングを図る。
と、さっちの段ボールに更にバーンと強い風が当たるのを見て取り、
「さっち、跳べ!」
翔一が叫んだ。
スッと、細身で華奢なさっちは軽やかに段ボールに跳び乗った。段ボールは大きく揺れたが、やがてやや斜め前に傾いて安定した。
「いなボー、俺足が着かねえよ」
「そうだよ、さっちは浮いてんだよ」
「うおっ、マジか?信じらんねえけど、すげえな!!で、この後どうすんの?」
「そのままバランスを取って。そのうち足の方がグワンって上がるから、そしたら前に倒されないように、段ボールの後ろに体重をかけるようにするんだよ」
さっちの横を漂いながら、翔一は息を切らせて説明する。
「このままでも気持ちいいな」
早くもさっちは楽しんでいる様子だ。
「うおっ、来たぞ」
さっちが少し前につんのめりながら叫ぶ。
「よし、後ろに体重をかけろ!」
と翔一は叫んだ。
しかし、さっちはそうはしなかった。お腹までは段ボールにピタリと着けているが、上半身は肘をピンと伸ばし、後ろに反り返っている。
「さっち、違うよ。それじゃ…」
翔一はさっちを注意しようとしたが黙ってしまった。
「きれいな形だ、俺よりも。風の上を滑っているようだ。あっ、そうか、ああやった方が風に上手く乗れるんだなぁ。でも、なんでさっちはそんなこと知ってんだ?」
翔一は、さっちの見事な段ボール捌きに感心しながらも訝しく思った。
それはさっちが持つ天性の勘だった。身体能力がズバ抜けて高い。ある種の天才なのだ。
もっとも、勉強はかなり苦手なようだが…。
翔一はさっちと同じ風に乗り横からじっと見守っていた。ふたりを乗せた段ボールは、正門まで近づくと、やがて大きな風に煽られて、後退し始めた。
「さっち、大丈夫か?」
「おお、面白しれえな!今後ろに流されてんな。やばくねえか?」
「大丈夫だよ。この風にうまく乗れば、また前に加速するから、落とされないように我慢して」
「了解」
翔一は、全身を段ボールに着けて風をコントロールしている。さっちも当たり前のようにそれをマスターしている。しかも少し力を抜いて、余裕すら見せている。
かなりゆり戻されてきた。二人は結構高い所でしばし漂っていた。
翔一は、何となく風の変わり目が来るのを感じた。
「さっち、そろそろ来るよ」
「ああ、バッチリ決めんぞ!」
言葉の意味はよく分からないが、とにかくすごい意気込みだ。
やがて段ボールを押す風の力がフワッと消えて、二人は無重力状態になった。
「来たな!!」
叫んだのはさっちだった。正に動物的勘だ。
二人の段ボールは、ほぼ同時に後ろが浮き上がり前に滑り出した。
さっちの方へ目をやると、笑みを浮かべさっきと同じポーズをとっている。翔一よりもややスピードが上がって徐々に翔一の前に進み出す。翔一もさっちと同じポーズをとってみた。
「こうやって、お腹までは段ボールに着けて、肘を伸ばして、後ろに反り返るんだな。おおっ、いい感じ!後ろから押してくる風の勢いを上手くスピードに変えられるような…。よく分かんないけど、いい感じだ」
既に自分の前を行くさっちを見つめながら風の乗り心地を楽しんだ。
と、突然さっちが目の前から消えた。
翔一は「あっ」と思って横に目をやると、右にいた。するとまた目の前に戻ってきた。
さっちは旋回できるようになっていた。
「よくできるよな、俺が何回も練習してやっと真っ直ぐ乗れるようになったのに、もう追い越されちゃったよ」
しかも翔一に向かって手を振っている。おっ、今度は何と1回転した!!
「もうついてけないな。まあいいか、俺は俺のペースで風を楽しめば」
翔一は鼻で笑った。
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