第4話 虚構の栄光


 映画『コードネーム:アリア』のプロモーションが始まった。


 街中のバス停やビルの壁面に、華やかなポスターが貼られる。

 そこには、監督、主要キャスト、および脚本家として【イザベル・ロドリゲス】の名前だけが、大きく記載されていた。


 アダムは、500万ドルの前金で借り直した、清潔だが殺風景な高層アパートのテレビで、そのニュースを見ていた。


 インタビューに答えるイザベルが、誇らしげに語っている。


『この物語は、私の生い立ちと経験の全てです。私の声を信じてくれたスタジオに感謝します』


 アダムの心に、報酬では埋められない疼きが走った。


 自分の「血と肉」が、他人の「声」として世に出ていく。

 名誉を奪われた痛みと、最高の物語を世に送り出せたという歪んだ満足感が、彼の内部で激しくぶつかり合っていた。


     *


 一方、イザベルもまた、成功の光の中で苦しんでいた。


 彼女は、ハリウッドの丘に買ったばかりの豪華な新居で、自分の初期稿と、アダムが改稿した完成稿を並べていた。


(私は、本当にこれを書いたのか?)


 自分の「声」が、知らないうちに、もっと巧みで、もっと冷徹な「何か」に書き換えられている。


 しかし、世間はその「何か」をこそ絶賛している。

 自己欺瞞の苦しみが、彼女を苛み始めていた。


(真実を知りたい。あの『コンサルタント』は、一体何者なの?)


 アダムのPCに、リチャードからメールが届く。

『最終報酬(400万ドル)の支払準備が整った。NDAの再確認を』


 無機質な通知だった。


 同じ頃、イザベルはリチャードに電話をかけていた。


「リチャード。素晴らしい脚本をありがとう。……ところで、例の『構成のコンサルタント』に、直接お礼が言いたいの。彼に会わせてくれない?」


 影の才能と、公の旗。

 二人の運命を分ける秘密が、今、表面化しようとしていた。


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