愛されない妻は新婚百日目に抱かれる
白羽鳥
1日目
「君を愛する事はできない」
新婚初夜に、この世の終わりのような顔で寝室に入ってきた夫にそう告げられ、私はこう思った。
(これは……アレか?)
巷で流行っている恋愛小説のジャンルの一つ、夫に愛されないお飾り妻というやつ。結末は白い結婚からの離婚、夫との誤解が解けて元鞘など様々だ。とは言え――
(私たち、幼馴染みなのよね)
私の名はクレイ。昨日まではダンデリオン伯爵家の娘だった。夫の名はオーガス=グォリア。実家は私と同じく伯爵家だが長男ではないので騎士になり、現在は若くして騎士団長にまでのし上がっている。
王都の屋敷は隣同士で、いわゆる幼馴染みなのだが、ガキ大将で口も悪かったオーガスの第一印象は最悪だった。それでも何だかんだの腐れ縁で付き合いは続き、お互い成長したし他に相手もいないから……と夫婦になったのだ。
馴れ初めがざっくりし過ぎだが、別に嫌々結婚したわけじゃない。オーガスは出会って早々泣かせてしまったお詫びにと毎日花を一輪届けてくれたし、暴言も撤回してくれた。根は素直なのだろう、それまでのガキ大将ぶりを悔い改め、女の子に優しく頼もしい騎士様を目指すようになる。それで本当に騎士団長にまでなってしまう努力家なところは尊敬するし、プロポーズだってちゃんと好きだからこそ受けた。
そう、オーガスからプロポーズされているのだ、この結婚は。家族間の親密さはもちろん、式だって滞りなく終わったのに。
「なにかあったの? 体調が悪いとか」
「……」
俯き、ドアの前で突っ立ったまま動かない夫を心配し、頬に手を伸ばそうとすると――不意に、抱きしめられる。
「クレイ!! 本当にごめん、俺のせいで……!」
「どうしたの、オーガス? 痛いよ……」
落ち着かせようと声をかけてもぎゅうぎゅうにきつく抱きしめるばかりで……いや本当苦しい。昔から馬鹿力の上に『ゴリラ騎士団』なんて揶揄されるほど毎日訓練してるから。
「し、死ぬ……」
「!! わ、悪かった。死ぬなクレイ!」
ぐったりした私をベッドに横たえ、オロオロする夫。彼が幼少期ガキ大将だったなんて、図体以外では想像もつかないだろう。ケホケホと咳き込んだ後、私は問い質す。
「式の間は何事もなかったじゃない。急にどうしたって言うのよ?」
「気付いてしまったんだ。愛せば君を殺してしまうと」
「はぁ??」
「ついさっき、身をもって思い知っただろう?」
つまり、うっかり怪力で殺してしまわないか怖気づいたらしい。まあ確かに苦しかったけども。そんな一晩中、窒息するほど力任せの抱擁だけするわけでも。
その時、独身時代の付き合い方に思い当たった。オーガスの距離の詰め方は丁寧と言うか慎重で、特に婚約してからもキスまで持っていくのにやたら時間がかかっていた。奥手なのかと思えば、学生時代は何人かと付き合っていたのだから意味が分からない。
「殺さないように、気を付ければいいんじゃない?」
「無理だ……夢中で我を忘れそうなのが怖い」
この人、そこまで私の事好きだったっけ? てっきり幼馴染み故の気安さで選ばれたのかとばかり。
「そうは言っても、じゃあどうするの? 初夜なのに何もなしってわけにもいかないでしょ。それとも別れたい?」
「嫌だ!! クレイと結婚するためにどれだけ苦労したと思ってるんだ。でも君の命を思えばそうするしかないのか……」
怖っ!! 初夜で絞殺されるの決定なの私? 冗談なのに深刻に受け取られてもなぁ……ともあれ思いつめたままの夫をすぐに説得など出来そうにない。
「とりあえず寝ましょう? 式の後だし、あなたも疲れてるのよ。明日になれば頭も冷えてるでしょうから」
「すまない……俺は、夫失格だな」
うーん、これは手強そう。
おずおずと同じベッドに入ってきた夫の手に触れると、ビクッとして振り払われるかと思いきや、逃すまいと絡めとられる。
何だかおかしな事になってしまったと思いつつも、こうして私たちの初夜は終わったのだった。
愛されない妻は新婚百日目に抱かれる 白羽鳥 @shiraha
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