第2話 成人祝いのパーティーにて
貴族出身キャリア組とはいえ、新兵は新兵。本来、外回りのはずの身であるマーカスは、デビュタントの夜会の会場内警備を任されていた。
というのも、マーカスもデビュタントの年齢で、警備の仕事がなけれ参加者側だった。デビュタント年の新兵が居れば、交代で会場内警備に配属されるのは、元々騎士団にある配慮だ。
仕事なので、ダンスも料理も手につけることはないが、会場の雰囲気だけでも感じてささやかな成人の祝いを、ということらしい。
ざわりと会場がざわめく。目を引いたのは、オーキッドピンクの長い髪の男――レンドロだ。
背後に数人の令嬢を侍らせ、婚約者である第四王女と対峙していた。仲睦まじい、という雰囲気は微塵となく、険悪だ。
「マーガレット殿下、彼女は何も悪くありません。学生時代からの友人です」
「婚約者のある殿方に寄り添うなんて。浮気意外の何ものでもありません!」
「だから、違うんだ」
「学生時代なら多少の火遊びはと見逃して来ました」
「見逃す? 彼女たちの悪意のある噂を広めたのはあなただろう!」
「未婚女性が殿方を囲って浮気しているのですから、事実でしょう」
「事実無根だ!」
「何人もの令嬢と関係を築くあなたとは、今日で終わりです! 婚約破棄を言い渡します!」
ざわめきが大きくなる。
「待ってくれ!」
レンドロが去ろうとする第四王女の腕を掴もうと手を伸ばすところに、マーカスが飛び込んで押さえつけた。
「王女殿下に乱暴を働く気か!」
婚約者とはいえ、レンドロはいち候爵令息にすぎず、王族に乱暴を働くのは許されない。
「何事だ?」
国王陛下が騒ぎを聞きつけ、会場に姿を表す。
一斉に頭を垂れる。
「よい、みなおもてをあげよ。騒ぎの原因はなんだ?」
「陛下、わたくし、先ほど婚約破棄いたしました。浮気者とは結婚できません!」
国王陛下は片眉を上げ、婚約破棄されたのレンドロ、それからレンドロを抑えつけるマーカスを見る。
「その者、名は?」
「エンベル伯爵家が三男、マーカス・エンベルでございます」
「第四王女の婚約を破棄し、レンドロ・シローネ候爵令息を、マーカス・エンベルの婚約者とする! これは王命である!」
マーカスは頭が真っ白になった。
第四王女ではなく、男であるレンドロの方が婚約者とは。
とはいえ、王命には逆らえない。
夜会の途中、国王陛下に呼ばれて、謝罪され、狼狽えた。
「男であるマーカスにとられたとなれば、娘の名誉も守られるだろう」
「婚約者の居ない身の三男ですので、同性同士でも構いませんが……」
「国王陛下、マーカス殿、わたしが王女殿下を説得できなかったばかりに、申しありません」
「あの子は、思い込んだら手がつけられぬからの……」
国王陛下のそれは、浮気をして娘を裏切っていた男に対するものではなかった。
「詳細をお聞かせくださいませんか」
「それは、わたしから」
レンドロが言うには、侯爵家は女性向け商品を扱っていて、令嬢たちに使用感や新商品の詳細を聞かれたり、レンドロ本人も男性向け商品よりも女性向け商品に興味があり、同性より令嬢たちとの会話の方が弾むのだとか。
つまり。
本当に、浮気ではなく、商売をかねた友達付き合いをしていただけで、それを勘違いして妬んで令嬢たちをいじめていたのは、第四王女の方だという。
夜会でも、友人の令嬢に嫌がらせをしようとしたところを庇ったのだった。
「巻き込んでしまい、申し訳ありません」
あれだけの令嬢に囲まれて、一切手を出していなかったのなら、寧ろ誠実な男なのでは、とマーカスは思い始めた。
「こうなったのもなにかの縁、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
思い掛けず同性の婚約者が出来てしまったが、付き合ってみれば、男たちのやっかみ混じりの噂と違い、印象通り誠実な男でマーカスにとって良い出会いであったのは間違いない。
――了
【BL】婚約破棄場面に遭遇した 椎葉たき @shiibataki
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