異世界転生したら転生前の自分がテロリストになっていた件!(意味不明) そんな自分と体が入れ替わる!「心体分離転生」

ハンザキ・さんだー

第1話「二人のサナ」

▪️第1話 「二人のサナ」


 あ、ありえない。どうしてお前がここにいるんだ。

 リンクスは恐怖に足がすくんでその場に座り込んでいる。しかし目の前の凄惨な光景の中で最も衝撃を与えたのはその凄惨な光景ではなかった。


「よぉ随分久しぶりだな。私はお前に会える日を楽しみにしていたんだ」

 そう言った女の手には畑から引き抜かれた大根のように、脊髄をぶら下げた男性の頭部が掴まれている。


 すでに息絶えた男は苦悶の表情を浮かべながら舌をだらしなく伸ばし、滴る血液を床に垂らしていた。


 だが12歳の少年リンクスにとってその光景よりも、目の前の女の方が遥かに異質に感じられた。月光に照らされた柔らかく薄い水色の髪の毛が汗で額に張り付いて目にかかったが、驚愕に見開いた眼窩は瞬き一つ許さない。


「な、なんで、どういうことだ」

 動揺を隠さず、リンクスは言う。


「全くこの世界で生まれた私は随分可愛らしくなっちゃったね」

 何も持っていない方の手で女は自身の黒髪をかき上げた。


 何かの間違いないではないのか。リンクスの脳裏にはそんな言葉が立ちこめる。その疑念を晴らすため12歳の少年リンクスは弱々しく言葉を吐き出した。

「お前、僕なのか」


「そうだよ。それ以外にどう見える?」

 あっけらかんとして穏やかに響くその声とは裏腹に、女の不敵な笑みが背後の夜の中から浮かび上がった。


「……平道佐奈」

 リンクスは恐る恐るそう呟いた。


「フフフッ身分証明を求められたらどうしようかと思ったよ。こっちには区役所も住民基本台帳もないからね」


 どうやら本物らしい。リンクスは久しぶりに聞いた単語に懐かしさと驚きと確信を同時に得た。



ーー時は1時間遡る


 それは普段と変わらない一日だった。港町ターシェの学校から徒歩で1時間の村クリフに帰宅したリンクス。リンクスは帰宅してすぐ妹の体調に変化がないか尋ねた。


「アイネ。起きていていいのか?」

 アイネはリビングの椅子から立って、暖炉に薪をくべていた。透き通るような白味がかった水色の長い髪に母さん譲りの灰色の瞳。背丈は同世代よりも少し小柄。素材の色そのままのワンピースにエプロンを身につけている。


「うん。大丈夫。まだ身体は重いけれど、何もやる気がないからと言って、本当に何もしないと身体が石になってしまう気がするの」


 1ヶ月前アイネは港町ターシェで集団魔力消失事件にあった。その後遺症で身体にあまり力が入らなくなってしまっていたのだが、最近は徐々に気力を取り戻しつつある。


 だが取り戻しつつあるのは気力だけで、魔力そのものは全く気配を感じない。

 リンクスは以前ならアイネの活発な魔力の躍動に自分も鼓舞されるような気持ちで鍛錬に励んでいたのだが、その気配を感じなくなってしまい心を痛めていた。


 村の人間は直接言ってはこないが、近年アイネのように突発的に魔力を失う人間がいる。特に貧民層や飼育民に多いことから、村の人間の一部にはアイネを飼育民のようだと言う声があるのをリンクスは知っていた。


 アイネもそういった声があるのは知っていたが気に留めないという態度を貫いている。そのためリンクスは自分が弱気になってはいけないと自分に言い聞かせていた。


「そうか。でもほどほどにするんだよ。今日の食事は僕が作るから」

「兄さん。今日は私の番よ。父さんと母さんが帰るまではいつも順番にやる。これは家族の大事なルールでしょ」


「それはそうだけど、何も体調の悪い時までやらなくていいと思うよ」

「違うの、私はやりたいのよ。家族のことだから、特別扱いしないで、ちゃんとやりたいの」


 まだ10歳になったばかりのアイネは平坦な声色で言った。まるで感情の篭っていないような響きだったが、その一言には紛れもなくアイネの決意が滲み出ていた。

 リンクスはそれを察知し、アイネの要望を聞き入れた。


「わかったよ。でも辛くなったら必ず言うんだよ」

 リンクスはアイネが自分の身体のことで特別扱いをされることを拒んでいるのだと思った。だからその気持ちを優先させることにしたのだ。

 そしてリンクスが掌を暖炉にかざすとアイネのくべた薪がバチっと燃え始めた。


 リンクスは薪から立ち昇る炎を見つめながらアイネのことが頭から離れない。

 この世界で魔力のない人間にどんな価値があるだろうか。


 ここでは基本的には誰でも魔力を有し、行使する。魔力があれば使用できる魔道具の発達も著しい。なのに肝心の魔力を失ってはこの世界が形成する社会では価値がないとみなされてしまうのではないか。そんな疑問が頭をよぎった。


 魔法は人々に希望を与えている。それはあらゆる生活、学問、社会システムの中に浸透しているなくてはならないモノだった。


「本当に、兄さんは2年前から随分と変わったね」

「そうかな?」

 リンクスはギクっとしてそう応えた。


「うん。元々魔力量は多かったけれど、今ほどじゃないし、詠唱も無しにそんなに早く魔法が使えるなんて高等魔法使いの中でも数える程しかいないって父さんが言ってた。それに、前よりずっと優しい……」


 2年前、リンクスはうなされて意識を取り戻すと自分がこの世界に転生していた。元の世界では平道佐奈という30歳前の女だった。それがどういうわけか、この世界ではリンクスという12歳の少年の中に宿ってしまったのだ。


「それは僕も成長期だからだよ。父さんや母さんだってあんなに強いんだ。僕だって強くなりたいよ」


「それもそうだね。二人ともS級の冒険者で魔法使いだもん。兄さんだってそうなるよ」

 そうアイネが言った瞬間。リンクスは自分がアイネを傷つけてしまったのだと思った。

  

 二人の血を引いているアイネも本来は魔法に長けていた。同年代に並ぶものがないほどだったのだそれなのに、魔力そのものを失ってしまった。アイネは口には出さないし、顔にもあまり出ない。でも、それでも全然悔しくないなんてことはないはずだ。


「あっいけない。兄さん。もう食料が底を尽きそう。申し訳ないのだけれど、買い出しに行ってもらえないかな?」

 棚の中を探っていたアイネがそう言った。

 

 外を見ると夕方の直線的な日差しが横なぎに一閃、世界を切り裂いているのが見えた。

「わかった。急いで買い出しに行ってくるよ」

「うん。お願い。兄さんなら往復で1時間もかからないでしょ?」


「全く無茶言うなー」とリンクスは苦笑いを浮かべた。

「でもなるべく早く帰るよ」

「うん。お願い」


 玄関を出て扉を閉めると、すぐに内側から声が聞こえてきた。

 アイネの咽び泣く声だ。


 リンクスはもうアイネの見ている前で魔法は使うまいと心に決めた。そして無神経な自分に腹を立てて出発した。


 徒歩では片道1時間の道のりだが、魔法を使えばそうでもない。

「たまにはやってみるか」

 リンクスはそう言うと魔力を足元に集中した。


 そして身体から重さを無くしていくのをイメージする。具体的には自分の重さを認識し、その重さが小枝、そして羽のようになっていくその過程を想像する。身体に風が吹いていくことを考える。


 そして同時にエネルギーの向きに意識を集中し、自分の身体にかかる重力の向きを逆にした。その瞬間、身体が一気に持ち上がっていく。


 魔法はイメージだ。加えてリンクスには前世の知識があった。

 その知識はリンクスに通常では魔法でもなし得ない柔軟な作用をもたらしている。


 リンクスの身体は上昇すると、港町ターシェに向かって飛ぶ。

 リンクスは考えていた。たまにはこうやって飛行訓練をするのも悪くないが、先程のアイネの咽び泣く声が耳に残っていた。これからはやはり家の近くで使用する魔法は最小限にしよう。


 ターシェの入り口につくと学生証を見せて門の内側に入った。この時間になるとなかなか街に入ってくる者はいない。学生証がなければリンクスでも怪しまれただろう。


 もうじき日が完全に落ちる。その前に買い物を済ませて家に帰ろう。リンクスはそう考えて食料の買い出しを一気に終えた。30分で必要なものは買うことができたがシードオイルだけが見つかっていない。しかしそのタイミングで市場のお店もほとんどが暖簾を降ろしていった。


 あたりの商人にシードオイルが売っているところを聞いてもこの時間では閉まっている可能性が高いとみなリンクスに言った。しかしその中の一人、肉屋の親父が、もしかしたら飯屋や宿屋にでも行けばシードオイルを売ってくれるかもしれんぞ、と教えてくれた。


 リンクスは肉屋の親父にお礼を言うと、迷わず宿屋に走った。この時間の飯屋は忙しいに決まっているからだ。

 早く買って家に帰ろう。背中に背負ったリュックを揺らしながらリンクスの走る足に力が入る。


 だが次の瞬間。目の前の港につけてあった商業船団の船が大規模な爆発を起こした。その爆風の中に一瞬黒い人影が映る。


 リンクスは冗談じゃないと言わんばかりにその場から離れて宿屋に向かった。

 ここからだと、裏路地を抜けた方が早い。リンクスはそう判断して裏路地に入る。港町の裏路地は倉庫や普段使用しない備品の保管場所になっている。


 路地裏を走り抜けるリンクス。軽快に走るリンクスだったが、地面から急に突き出してきたような障害物に足を取られた。


「痛っ」

 リンクスは思わず声が出た。

地面を身体が滑べる。リュックは投げ出されてしまった。


「よぉ少年。君はそんなに急いでどこにいくんだい?」

 声のする方を見ると、ローブのフードを目深に被った女が話しかけてきた。


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