導入部 2019.11.19

 この物語は僕の個人的な記録に過ぎない。言ってみれば、僕の記憶を辿るためのリハビリみたいなものだ。頭の中の引き出しには、僕だけの記憶が、もっと乱暴に言えば、自分だけの真実がそこにあった。しかしそれを取り出そうとすると、頭の中の何かが、意思を持って僕の本質に鍵をかけてくるのだ。そんな感覚が頭から離れなかった。だから僕はこの物語を整理する必要があった。少々拗れてしまった事情というものは、時が経つにつれて、さらに大きく捻れてしまうものなのかもしれない。捻れてしまっている分、僕の物語は十五年前まで遡ることが必要になった。


 残念だが僕の記憶は頼りなく、物語は曖昧で、本当の意味では真実ではないのかもしれない。だけど、僕には自分の記憶が正しいとしか言いようがない。自分の記憶は正しい。もちろん、それがひどく歪んでいたとしても、だ。それはいつだって、どんなに拒んだって、自分自身であることと似ている。僕らは自分でしかいられないから。


 この物語が始まるとき、僕の真実はゆっくりと動き出す。しかし、僕の方向感覚なんて全く当てにはならない。方位磁石が示しているのが君ならいいのに。そう思った。


 僕がここで言いたいことは、概ねそういうことだ。曖昧な記憶すら、自分の真実なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る