創造神の孫、最強国家を建国す

グリゴリ

プロローグ:神界の記憶

純白の光が世界を包んでいた。


ここは神界――全ての神々が住まう、天上の世界。


広大な宮殿の庭園で、一人の少年が木剣を振るっていた。外見年齢は八歳程度。漆黒の髪と深い紺碧の瞳を持つ、端正な顔立ちの少年だ。


その名はユート。創造神アルティメアの孫にして、この神界でも特別な存在として知られている。


「もう一度です、ユート様」


少年の前に立つのは、銀白色の長い髪を後ろで一つに束ねた美しい少女だった。外見年齢は十代半ば。深紅の瞳には凛とした光が宿り、手にした木剣の構えには一切の隙がない。


武の女神アルティナ。彼女はユートの世話係であり、剣の師でもあった。


「はい、アルティナ!」


ユートは再び木剣を構える。


アルティナの剣が、風を切って迫る。速い。だが――


カンッ!


ユートの木剣が、アルティナの一撃を正確に受け止めた。


「やりますね」


アルティナの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。だが彼女の攻撃は止まらない。二撃目、三撃目と、容赦なく繰り出される。


ユートは必死に防ぎ、時には反撃する。


(不思議だ...剣を振るうのが、こんなに自然に感じられる)


ユートの中で、何かが呼応していた。それは生まれ持った才能なのか、それとも神の血がそうさせるのか。彼自身にも分からない。


だが確かなことが一つある。


剣を振るうことが、楽しい。


「そこまで!」


アルティナが木剣を下ろす。


「今日の稽古はここまでです。...ユート様、また成長されましたね」


「本当?」


「ええ。この調子なら、あと数年で私を超えるかもしれません」


アルティナの言葉に嘘はなかった。彼女は武の女神として、無数の戦士を見てきた。だがユートの才能は、それらの誰よりも抜きん出ている。


(この子は...特別だ)


アルティナの胸に、温かな感情が芽生える。それが何なのか、彼女自身もまだ理解していなかった。ただ、ユートと共にいる時間が、何よりも大切に思えた。


「ありがとう、アルティナ。君の指導のおかげだよ」


ユートが屈託なく笑う。


その笑顔を見て、アルティナの頬がかすかに赤く染まる。


「そ、そんな...私は当然のことをしているだけです」


アルティナは顔を背ける。だが彼女の心臓は、いつもより速く鼓動していた。


(この気持ちは...何なのでしょう)


自分でも分からない感情に、アルティナは戸惑っていた。


***


夕刻。


宮殿の大広間には、豪華な食卓が用意されていた。


テーブルの上座には、威厳に満ちた男性が座っている。純白に金色が混ざる神々しい髪、全ての色を内包する虹彩の瞳。腰まで届く長い髪は丁寧に整えられ、その存在そのものが神聖さを放っている。


創造神アルティメア。全ての神々の始祖にして、この世界を創造した最高神だ。


その隣には、床に届くほどの桜色を帯びたプラチナブロンドの髪を持つ女性が座っている。優しいエメラルドグリーンの瞳、母性に満ちた微笑み。


慈愛の女神メルシア。アルティメアの妻にして、全ての生命を慈しむ女神だ。


そして向かい側には、若々しい夫婦が座っていた。


一人は、短く逆立てた深紅の髪と金色の瞳を持つ、筋骨隆々とした男性。戦神グランディオス――ユートの父だ。


もう一人は、腰まで届く美しい紫の髪と紫水晶色の瞳を持つ、知的な雰囲気の女性。知恵の女神エリディア――ユートの母だ。


そしてユートの隣には、アルティナが控えていた。


「ユート、今日の稽古はどうだった?」


グランディオスが、力強い声で尋ねる。


「はい、父上。アルティナのおかげで、少し上達したと思います」


「そうか。だが油断するなよ。真の強さとは、日々の積み重ねから生まれるものだ」


「はい!」


父の厳しくも愛情深い言葉に、ユートは力強く頷く。


「あなた、食事の時くらい優しくしてあげてください」


エリディアが、穏やかな声で夫をたしなめる。


「む...すまん。だが息子には強くなってほしいのだ」


「分かっています。でも、ユートはまだ幼いのですよ」


両親の微笑ましいやり取りを見て、ユートは胸が温かくなるのを感じた。


(この家族が...大好きだ)


メルシアが優しく微笑む。


「ユート、たくさん食べてくださいね。大きく強くなるためには、栄養も大切ですから」


「はい、おばあ様!」


食卓には、神界の恵みが並んでいた。どれも人間界では決して味わえない、神々の食事だ。


笑い声に包まれた、温かな夕食の時間。


ユートにとって、それは当たり前の日常だった。


だが――この幸せな日々が、永遠には続かないことを、この時の彼はまだ知らない。


***


夕食の後、アルティメアがユートを書斎へと呼んだ。


「祖父さん、何か話があるんですか?」


ユートは少し緊張していた。祖父が二人きりで話をしようとするのは、珍しいことだったからだ。


重厚な扉が閉まり、広大な書斎に二人だけが残される。


アルティメアは窓の外を見つめていた。神界の空には、無数の星々が輝いている。


「ユートよ」


アルティメアが、ゆっくりと口を開いた。


「お前に...話しておかねばならないことがある」


その声は、いつもの優しさに加えて、どこか厳粛な響きを含んでいた。


「はい」


ユートは背筋を伸ばす。


「お前は神として生まれた。それは祝福であり...同時に、大きな責任でもある」


アルティメアが振り返る。その虹彩の瞳は、深い慈愛と、そして――決意を宿していた。


「神は時に、人間界で学ぶ必要がある」


「人間界...ですか?」


ユートの心臓が、大きく跳ねた。


「そうだ。神界は平和で、苦しみもない。だがそれゆえに...真の強さを学ぶことが難しい」


アルティメアは、ユートの肩に手を置く。


「苦難を経験することで、人は成長する。喜びだけでなく、悲しみも知ることで、真の優しさが生まれる。強さだけでなく、弱さも知ることで、真の強さが生まれるのだ」


ユートは、祖父の言葉を噛みしめる。


(祖父さんは...何を言おうとしているんだろう)


不安が胸をよぎる。だが同時に、祖父の瞳に宿る深い愛情も感じ取っていた。


「ユートよ、お前には...人間界へ転生してもらいたい」


その言葉は、静かに、しかし確かにユートの心に届いた。


「転生...」


「そうだ。人間として生まれ、人間として生き、そして...試練を乗り越えてほしい」


アルティメアの声には、迷いがなかった。


「辛い試練が待っているだろう。理不尽な仕打ちを受けることもあるかもしれない。だが――」


祖父の手が、ユートの頭を優しく撫でる。


「お前なら必ず乗り越えられる。そして真の創造神として覚醒するのだ」


ユートの心は揺れていた。


神界での生活は幸せだった。愛する家族がいて、優しいアルティナがいて、何不自由ない日々。


それを捨てて、人間界へ行く。


不安がないと言えば嘘になる。


だが――


ユートは祖父の瞳を見つめた。


そこには、深い慈愛があった。孫を突き放すのではなく、孫の成長を信じる、祖父の愛が。


「...分かりました」


ユートは、静かに頷いた。


「祖父さんを信じます。必ず、試練を乗り越えてみせます」


アルティメアの顔に、穏やかな笑みが浮かぶ。


「ありがとう、ユート。お前は私の誇りだ」


そして祖父は、ユートを優しく抱きしめた。


「辛い時は、私たちを思い出すのだ。お前は決して一人ではない。神界から、いつも見守っている」


「はい...」


ユートの目から、涙が一筋流れた。


それは悲しみの涙ではなく、祖父の愛に対する感謝の涙だった。


***


数日後。


神殿の転生の間に、ユートと神界の家族たちが集まっていた。


部屋の中央には、巨大な魔法陣が描かれている。それは転生の儀式を行うための、古代から伝わる神聖な陣だ。


「ユート...」


メルシアが、孫を抱きしめる。その目には涙が浮かんでいた。


「おばあ様...」


「辛かったら、すぐに帰ってきてもいいのですよ。無理はしないでくださいね」


メルシアの声は震えていた。


彼女は、これから孫が味わうであろう苦難を予見していた。それを思うと、胸が張り裂けそうになる。


(アルティメア様...本当にこれで良いのでしょうか)


メルシアは夫を見る。アルティメアは静かに頷いた。


(信じましょう...夫を、そしてユートを)


メルシアは涙を拭い、笑顔を作る。


「必ず...必ず無事で帰ってきてくださいね」


「はい、おばあ様。約束します」


次にグランディオスが前に出る。


「ユート」


「父上」


「人間界では、多くの困難が待っているだろう。だが忘れるな――真の強さとは、他者を守るためにある」


グランディオスの金色の瞳が、真っ直ぐにユートを見つめる。


「力を持つ者は、その力を正しく使う責任がある。決して、力におぼれるな」


「はい!」


ユートは力強く答える。


グランディオスは、息子の肩を叩いた。


「お前なら大丈夫だ。私の息子だからな」


その言葉には、父親としての誇りと信頼が込められていた。


エリディアが、静かに近づく。


「ユート、これを」


母は、美しい紫色の水晶のペンダントをユートに手渡した。


「これは?」


「お守りです。辛い時、これを握ってください。そうすれば...私たちの想いが、きっと届きます」


エリディアの声は穏やかだったが、その目には深い愛情が宿っていた。


(息子よ...あなたが辿る道は、決して平坦ではありません)


エリディアは知恵の女神として、未来を予見していた。


(暗黒神の呪い、家族からの冷遇、そして数々の試練...でも)


彼女は息子を信じていた。


(あなたなら必ず乗り越えられる。そして、真の創造神として覚醒するでしょう)


「ユート、知恵とは武器にも盾にもなります。どんな困難も、知恵があれば乗り越えられる。それを忘れないでください」


「はい、母上」


ユートは水晶のペンダントを首にかける。それは温かく、まるで母の抱擁のようだった。


そして――


「ユート様...」


アルティナが、震える声で呼びかけた。


彼女の深紅の瞳には、涙が溢れている。


「アルティナ...」


「私...待っています。必ず...必ず神界で待っていますから」


アルティナは、もう言葉を続けられなかった。


(ユート様...お慕いしています)


その想いを口にすることはできなかった。だが、胸の奥底で、彼女は強く誓う。


(何千年でも、何万年でも待ちます。だから...だから必ず、戻ってきてください)


「アルティナ、ありがとう。君の剣技、忘れないよ」


ユートが微笑む。


その笑顔を見て、アルティナの涙が止まらなくなった。


「ユート様...ユート様...!」


彼女は駆け寄り、ユートを抱きしめる。


「必ず...必ず強くなって、戻ってきてください。そうしたら、私...私...!」


言葉にならない想いを、ただ抱擁に込める。


ユートも、アルティナを抱きしめ返した。


「約束する。必ず戻ってくるよ、アルティナ」


二人の間に流れる、温かな時間。


やがてアルティメアが、静かに告げた。


「...時間だ」


ユートは家族から離れ、魔法陣の中央に立つ。


「では...行ってきます」


ユートは深く一礼する。


アルティメアが手を掲げる。


「我が孫、ユートよ。汝に祝福を。創造の力を、守護の力を、そして――愛を」


魔法陣が、眩い光を放ち始める。


メルシアが、グランディオスが、エリディアが、そしてアルティナが――


皆、ユートを見つめていた。


光の柱が、ユートを包み込む。


家族の姿が、遠ざかっていく。


「皆さん...ありがとうございました!」


ユートの最後の言葉が、神殿に響く。


そして――


***


転生の光の中。


ユートの意識は、次元の狭間を漂っていた。


温かな光に包まれ、心地よい浮遊感。


(これが...転生か)


だが、その時――


光の中に、闇が侵入した。


「クックック...創造神の血を引く者よ」


邪悪な笑い声が響く。


闇の中から、漆黒のローブを纏った人影が現れる。顔は闇に覆われて見えないが、その存在そのものが邪悪さを放っていた。


暗黒神ニクス。


創造神アルティメアの双子の弟にして、全ての闇を司る神だ。


「貴様の人生を、地獄に変えてやろう」


ニクスの手から、黒い光が放たれる。


「【永劫苦難の呪い】!」


黒い光が、ユートの魂に絡みつく。


激痛が走る。


「ぐあああああっ!」


ユートは叫ぶ。だが転生の光の中では、声も届かない。


「ハハハハハ! 苦しめ、もがけ! 創造神の孫として生まれた貴様の人生を、徹底的に破壊してやる!」


ニクスの哄笑が響く。


だが――


「ニクスよ」


荘厳な声が響いた。


光の中に、アルティメアの姿が現れる。


「兄上...!」


「その呪い、私が調整する」


アルティメアの手から、純白の光が放たれる。


それは黒い呪いを包み込み――完全に消すことなく、「致命傷にならない程度」に調整した。


「な、何を...!」


「ニクスよ、これもユートの試練とする。だが、命までは奪わせぬ」


アルティメアの声は穏やかだったが、そこには絶対的な意志が込められていた。


「貴様...!」


「いずれユートは、お前の呪いすら乗り越えるだろう。そしてその時――お前も救われる」


「黙れ! 私は救いなど求めていない!」


ニクスは叫び、闇の中へと消えていった。


アルティメアは、ユートの魂を優しく包む。


「ユートよ、辛い道のりとなるだろう。だが信じている。お前なら必ず、乗り越えられる」


祖父の声が、遠ざかっていく。


「そして――真の創造神として、覚醒するのだ」


光が、更に強くなる。


ユートの意識は、人間界へと引き寄せられていく。


神界の記憶が、徐々に薄れていく。


だが――完全には消えない。


心の奥底に、確かに刻まれている。


家族の愛、アルティナの想い、そして祖父の信頼。


それらが、これから始まる長い試練の中で、ユートを支え続けることになる。


光が最高潮に達し――


ユートは、人間界へと生まれ落ちた。


***


ウォーカー侯爵家の屋敷。


産声が響く。


「おめでとうございます。男の子です」


侍女が、生まれたばかりの赤子をエリザベスに渡す。


「まあ...」


エリザベスは、我が子を抱きしめる。


だが――


「この子...何か、変な感じが...」


宮廷魔術師が、赤子を調べる。


そして顔色を変えた。


「これは...暗黒神の呪い...!」


「何ですって!?」


部屋中が騒然となる。


ガルバートが険しい顔で近づく。


「呪いだと? どういうことだ!」


「恐らく...生まれる前から、暗黒神ニクスに呪いをかけられたのでしょう。この子の魔力は極めて不安定です。恐らく、まともに魔法を使うことはできないかと...」


その言葉に、エリザベスの顔から血の気が引いた。


「そんな...」


ガルバートは、赤子を冷たい目で見下ろす。


「...ユートと名付けよう」


「あなた...」


「だが、この子は家の恥だ。それは忘れるな」


こうして、ユート・ウォーカーは――


呪いと共に、人間界での人生を始めた。


これから12年間、彼を待ち受けるのは、虐げられた日々。


家族からの冷遇、兄姉からの虐め、使用人たちの蔑視。


だが――


その全てが、彼を真の強者へと成長させる試練となる。


そして12歳の誕生日、彼は追放される。


大魔境タルタロスへと。


だがそれは――


絶望の始まりではなく。


創造神の孫の、真の覚醒の始まりだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


最後まで読んでいただきありがとうございます。


『面白かった!続きが気になる!今後の展開が気になる!』と思いましたら


☆☆☆から、作品の応援をお願いします。


面白かったら☆三つ、つまらないと思ったら☆ひとつでも大丈夫です!


何卒よろしくお願いします。


また、他の作品(・その者、神羅万象の主につき~取り扱いに注意せよ~ ・元天才プログラマー、モンスター育成士になる ・新米農家、配信者になる。~家の納屋にダンジョンが発生したので最近ちまたではやっているダンジョン配信者になろうと思う~)も是非読んでみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る