因業の画家
白原 糸
〈出会い〉
無色透明の光が部屋に満ちる。
この時間帯は色のない光が満ちて、部屋の中に色をあるがままに淡く照らす。
木製のイーゼル、その前に置かれた木椅子。その傍にある大きな机を無色透明の光が淡く照らしている。
机の上は整然としていた。木製のパレットと大小様々な瓶が並び、絵筆が背の順に並べ置かれている。
そしてその背後の大きな棚には大きさの揃ったキャンバスが縦に並べられていた。
常に換気されているのだろう。不思議な程ににおいのない部屋だった。
扉が開く音が聞こえた途端、
緞帳の端から冬梧を案内した長身の屈強な体つきの男が現れ、次に一回り小柄な人が現れた。小柄な人は遠目からは性別が分からない。
真白な着物を締める白銀の
「大変お待たせいたしました。僕が軍専属の人物画家、
一見すると女性のように見えるその人は声から男性だと分かる。月古は柔らかに微笑んで、冬梧を見た。美しい二重の中にある彩雲のように様々な色彩の交じる淡い色の瞳が冬梧を観察するかのように見つめている。柔い雰囲気に似つかわしくない、射抜くような目を受け入れるようにして見つめながら、冬梧は敬礼の姿勢を取った。
「〈
「冬梧様。人物画を描くにあたり、譲れないことはありますか」
「……自分の顔を、黒い痣と共に描いていただきたいのです」
ですが――と冬梧は緞帳の中から出た。
無色透明の光の中で冬梧の姿があるがままに照らされる。菖蒲の徽章。開襟ネクタイ式の黒い軍装。膝まで覆う黒い軍靴。
常にしかつめらしい顔を貼り付けたような顔の右側は額、目、頬から口の端に少しかかるくらいの所までが黒々とした痣に覆われている。まるで黒い絵具をそのまま肌に沈めたような色を前にしても月古は顔色を変えなかった。月古の背後の従者も同様に顔色を変えない。冬梧はそんな彼らを見て、慣れているのだと思った。
「先にお聞きしているかもしれませんが、私の姿は絵画にも写真にも残ることはありません。何人もの写真師と画家が私の姿を残そうとしても駄目でした。それでも――私の姿が確かに絵画に残るまで描いていただけませんか」
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