一般冒険者の俺は静かに暮らしたい〜ギルドに現れた新人(転生者)によって俺の生活は崩れ去る

妄想メテオ

第1話 異世界転生した俺はギルドに登録する

 毎朝行われる依頼書争奪戦。騒がしく熱気を帯びた勝者が受付カウンターに列を成している。


 ギルドの片隅ではどんよりとした空気が支配していた。ハズレの依頼書ばかりが残った掲示板を見つめ唸る奴。隅で頭を抱えた奴。喚き散らかす奴。大体見慣れた顔ぶればかりだ。


 「ようルカ!今日はサボりか?」


 テーブルに突っ伏した俺の肩にゴツい手が置かれる。顔を見なくてもわかる声に、力なく手で返事を返す。


「もう草取りしか残ってねーよ。あとは全部ハズレしかねぇ」


 この依頼書争奪戦はパーティを組んでいる奴らが確実に有利だ。だから俺みたいなソロはお溢れを狙うしかない。

そこからも溢れると常設依頼の薬草採取、通称草取りくらいしか選択肢はない。

 

 仕方がなく顔を上げると、薄ら赤みを帯びた顔のザックが片手にエールを持っていた。


「……お前こそ本気でサボりか?」

 

「ちょっと腰やっちまってよ……」


「……歳なんじゃね?」


「ちげぇって!最近草取りばっかなんだよ!」

 

 その時、ギルドの扉が軋む。

 反射的に視線を向けると、見慣れない奴が入ってきた。

 この辺りでは珍しい黒髪、上質だが奇抜な服装、腰にはどこかで拾ってきたような小汚い鞘に収まった長剣。


 そんなチグハグな印象を持つ少年は無表情ではあるがどこか興奮した様子であたりを見回している。

 

「なんだあいつ?」


 ザックも同じことを思ったらしく観察しているようだ。少年がそのまま受付カウンターに向かったのを見て恐らく冒険者登録に来たのだと察した。


 よくわからない奴には関わらない方が無難だと思い視線を戻す。しかし、目の前の人物は違う事を考えたらしい。

 

「ちょっと行ってくるわ」


 そう言うと、ザックはエールを流し込み少年の方へ向かう。その横顔は今から悪戯を仕掛ける悪ガキそのものだ。


 ギルドの悪習――新人潰し。

 誰もが経験し、誰もが泣かされる。冒険者の厳しさを教えるという建前のもと行われる暇つぶし。


 奇妙な格好の少年に何故か嫌な予感を感じたが、そのままザックを送り出す事にした。

何故かガニ股で少年に近づいて行く。なにかしきたりでもあっただろうか。


「おい坊主!こんな所で冒険者ごっこか?」


 ザックは笑い混じりに少年の肩を掴む。

 力は加減しているだろうが、馬鹿力の癖に力加減がそんなに得意ではない。見るからにめり込んでいる。


 周囲の奴らもイベントの始まりを察し、注目し始める。冷ややかな視線を向ける奴もいれば、楽しそうにしている奴もいて……こういう所で性格がでると思う。


 少年が振り向く。

 困惑しているように見えるが、どこか余裕もあるような顔をしている。


「えっと……ここで冒険者登録が出来ると聞いてきたのですが」

「ははっ!そんな形で冒険者やるのか?とんだ命知らずだな!」


 ザックは掴んだ肩を揺らして煽るように笑う。

 少年は揺られながらも一歩も引かず、何かを測っているような目つきでザックを見返した。


「あの……あまり無理しないほうがいいですよ?」

 

「ああ? なんだと?」


 煽りとも取れる言葉にザックが声を荒げる。


「腰……痛めてますよね? 昨日、重たいものでも持ちました?」


「なっ……?」


 予想外の言葉にザックの動きが止まる。

 風向きが変わり始めた事に周囲も感じているようで固唾を呑んで様子を伺っているようだ。


「あれ、変なこと言いました?」


 少年が申し訳なさそうに頭を下げた瞬間、ザックは癇に障ったのか、腰の剣に手をかける。


 それはさすがに不味いと思い、俺は席を立とうと――した、その瞬間。


「っ!?」


 ザックは後ろに弾き飛ばされ、入り口近くにあったテーブルに突っ込む。派手な音と共にテーブルは見るも無惨に真ん中で割れた。


「武器に手をだすならやられる覚悟を持って下さいね」


 何事もない顔で少年は床に落ちたザックの長剣を拾い、ザックに投げつける。

 

「落としましたよ? 危ないので返しますね」


 顔のすぐ近くに突き刺さった剣を目にしたザックはそのまま気を失ったようだ。

 ギルド内に異様な空気が包むが、少年は受付カウンターに振り返る。


「冒険者登録がしたいのですが」

 

 静まり返ったギルド内にその一言だけが響く。

 一瞬止まっていた受付嬢が、若干引き攣った笑顔で自分の仕事に取り掛かる。

 

「…………あーあ」


 誰かのつぶやき。

 それを合図に時間は動きだす。

 

「あいつ先月も壊してなかったか?」

「この間は酔ってジョッキを握りつぶしてたぞ」

 

 白目で伸びているザックの事を心配する奴はいないようだ。そんな中、俺だけは心配した。


 そこに受付嬢のセレンが歩いてくる。

 背筋が伸びていて、表情だけは笑顔だが、ギルドの誰よりも恐い存在。


「ザックさん。テーブル修理の請求書おいておきますね」


 ザックは気を失って動かない。

 請求書だけが、ひらりとその頭に落ちた。


 ……心配しているよ。ザックの財布を。

 

 俺はため息をつきながら、受付カウンターに視線を戻すとそのままセレンが冒険者登録を終えた新人をギルドマスターの部屋に連れて行く所だった。


 ギルドはいつの間にか日常に戻っていたが、何か変化が起きる予感を――。

 この日常に異物が混ざったように感じた。

 

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