犯人は主人公

@tyouorenosyousetu

第1話 俺が来た日、この国は三回壊れたωω


 異世界に召喚された瞬間、俺は全力で腹を押さえていた。


「おえぇ……!」


 光。魔法陣。詠唱。拍手。


 そして胃痛。


「成功じゃ! 勇者召喚は成功じゃぞ!」


 拍手してる場合じゃない。腸が限界だ。腹が信号機なら今まさに赤点滅。


「ちょ、ちょっと待ってください……!」


 俺は魔法陣から一歩踏み出し、周囲を見回した。豪華な部屋。赤絨毯。玉座。王様っぽい人。騎士。魔法使い。全員が期待の眼差しでこっちを見ている。


「……トイレ、どこですか」


 沈黙。


 魔法使いの婆さんが眉をひそめた。


「勇者よ。まずはこの国を救う使命を――」


「無理無理無理無理!!」


 俺は走った。


 説明? 使命? 後だ後!

 人間、腹が限界のときは文明を裏切る。


 廊下。階段。扉。


「広い! 城デカすぎ!」


 適当に開けた扉。


 ――玉座の間(別)。


「違う! 戻る!」


 次の扉。


 ――会議室。


「違う!」


 その次。


 ――祭壇。


「トイレどこだよこの国!!」


 そして、最後に開けた扉。


 そこは、**玉座の“正面”**だった。


 さっきより偉い感じの国王が、真正面に座っていた。


「……勇者?」


「違います」


「?」


「今は勇者じゃないです」


 俺はベルトに手をかけていた。


「待て」


「無理です」


「待て!」


「漏れる!!」


 結果だけ言おう。


 俺はこの国で最も神聖な場所に、放尿未遂をした。


 未遂だ。大事なところだ。


「衛兵! 捕らえよ!!」


「待って! トイレをだな!」


「言い訳が下品すぎる!」


 こうして俺は、

異世界一日目にして――

**反逆罪・不敬罪・変態罪(仮)**で牢屋に入れられた。


 名前?

 まだ名乗ってない。


 牢屋は冷たい。石。湿気。人生の終わり感。


「……最悪だ」


 鉄格子の向こうに、女騎士が立っていた。


 金髪。鋭い目。腕組み。


「お前が勇者?」


「たぶん……?」


「召喚早々、玉座にケツを向けた男が?」


「不可抗力って言葉、知ってる?」


「知らん」


 即答だった。


「明日の朝、処刑だ」


「早くない!?」


「国が腐る」


「俺一人で!?」


 そのとき、城が揺れた。


 ドン、という低い音。


「……魔王軍か」


 女騎士が舌打ちする。


 さらに揺れる。警鐘。


 俺は立ち上がった。


「なあ」


「なんだ」


「これ、俺が来たせいじゃないよな?」


 女騎士は答えなかった。


 その沈黙が怖い。


 混乱の中、牢が開いた。


「非常時だ。お前も来い」


「なんで!?」


「死刑より先に使えるか試す」


 合理的すぎる。


 城門前。魔物。兵士。混戦。


「勇者! 何かしろ!」


「雑!!」


 俺は走った。逃げた。足元を見ずに。


 ――踏んだ。


 カチ。


「……あ」


 爆発。


 城門、吹き飛ぶ。


 魔物も吹き飛ぶ。


 味方も吹き飛ぶ(軽く)。


 静寂。


「……勝った?」


 誰かが言った。


 次の瞬間、城の一部が崩れ落ちた。


「……あー」


 俺は理解した。


 俺が踏んだのは、

城防衛用・最終魔法陣。


 つまり。


 魔王軍を撃退した英雄も。


 城を半壊させた戦犯も。


 ――俺。


 会議室(天井なし)で、国王が頭を抱えていた。


「勇者よ……」


「すいません……」


「いや、礼を言うべきか……?」


「城壊してますけど」


「結果として国は救われた」


「結果主義こわ」


 将軍がニヤついた。


「修繕費、金貨三十万枚」


「は?」


「勇者の借金とする」


「待て」


「働け」


「雑ゥ!!」


 こうして俺は、

借金持ち勇者として城に居候することになった。


 その夜。


 トイレを探して城を歩いていた。


 今度こそ慎重に。


 扉。廊下。階段。


 地下への階段。


「……嫌な予感」


 戻ろうとした瞬間、足元が光った。


「やめろォ!!」


 床が開き、落下。


 暗闇。


 地下で、俺は少女と出会った。


 白い髪。眠そうな目。無表情。


「……また来たの?」


「初対面です!」


「あなたが勇者?」


「たぶん……」


 少女は俺を見て、ため息をついた。


「私はこの国の“厄災”担当」


「役職名が不穏すぎる」


「あなたが来てから、封印が全部反応してる」


 少女は指を差した。


「原因」


 ――俺。


「犯人」


 否定できなかった。


 その瞬間、地下が揺れた。


 少女が言った。


「ほら」


「いや! 今回はまだ何もしてない!」


「してる」


「どこが!」


「存在」


 異世界一日目。


 俺は知った。


 この世界で起きる事件のだいたいの犯人は、俺。


 しかも理由は、

誰にも言いにくいくらい、ちゃんと正当らしい。


 トイレには、

まだ行けていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る