「同じ空気を、御朱印に重ねて。」

神崎りん

第1話 大国魂神社

いつもと変わらない冬の平穏な日。

府中本町駅を出たのは、お昼頃だった。

改札を出た瞬間、冷たい風が頬にあたり

冬の訪れを感じさせていた。


「今日はここからだな」


蒼井光一は、

リュックのチャックを開け、御朱印帳がきちんと入っているかを確認してから歩き始める。


大国魂神社。

SNSで何度も見た場所だが、

実際に訪れるのはこれが初めてだった。


鳥居の前で一礼をし、くぐると、

空気が変わる。


騒がしかった駅前の音が一歩後ろに下がっていく

感じがした。


「静かだ、、、」


参道を歩き、手水舎で手を清める。

水は冷たく、指先が拒絶反応を起こしていた。


拝殿の前にいつも通り立ち、

お賽銭を入れていつも通り手を合わせる。


願い事はしない。

ただ、無事にこの度が続きますよーに。

ただ、そう願うだけだった。


参拝を終え、社務室へ向かう。


「御朱印お願いします」


巫女さんが顔を上げた。

白い装束に、整った所作。


「はい、少々お待ちください」


名札を見ると、白石 雫と書いている。


御朱印帳を受け取る時、

彼女は一瞬だけ手を止め、こちらを見た。


「、、、もしかして旅の途中ですか?」


「え?」


突然の質問に驚き、思わず聞き返す。


「いえ、そういう顔をされていたので」


微笑むだけで、

それ以上は何も言わなかった。


御朱印の墨の匂いが

なぜか強く感じ取れる。


御朱印帳を受け取り、

ページを閉じた、その瞬間。


胸の奥で何かが微かに動いた。


理由はわからない。

ただ、ここが

「始まり」だということは

なぜか確信していた。






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「同じ空気を、御朱印に重ねて。」 神崎りん @kanzaki_rin_x

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