水は染まるよな。だから喰らい尽くすよ。

止ヒ糸ケン(むらさきけん)

第一滴 水に転生しました。なんで?

それは偶然の賜物であった。夜になりきらない道路で小さな買い物を済ませて帰り道を進んでいた時、対向車線の車のタイヤがなんと外れ、彼の元に車体ごと突っ込んできた。

「な、うわぁあ!!」

強く鈍い音と共に俺の意識は飛んだ。爆速で走りながら迫り来る鉄に当たって生きるほうがおかしいものだ。

思い返せば退屈な人生だったな…溶けてなくなりそうなくらいどうでも良い人生…

暗い、だが真っ暗ではない。岩肌に苔が少々つくほどの湿度のどこかは薄く光る鉱石のおかげで微かに見える。

「…んぁ?」

気の抜けた声が漏れ…ない。それよりも、口は?手は?おかしい。体の感覚が変だ。球体みたいで、なんか柔らかくて、しかも小さい?

とにかくここはどこだ?俺は事故で死んだんじゃ?

「…異世界転生か。うわ、まじであるのか。」

確信があった。夢のようなふわふわ感はなく、岩肌の感触もとてもリアルだ。でもなんで村じゃない?近くに俺の体がわかるモノ…

水の緩やかに流れる音が隣で聞こえた。そこに向き直り改めて水面に身を映す。

          水

水が水の塊を映していた。

「スライム?」

思考内に突如として謎の数値と文字が出て来た。

_種族、ウォーターボール 下級_

      lv.0

「スライムじゃ、ないのか」

ていうか下級?転生したんだからもっと待遇のいい魔物でも良いだろ。

そんなことを思いながらのそのそと洞窟内を探索していると、薄くオレンジに光る果実が落ちていた。

「うぉ、うまそう。腹も減ったし、いただきます。」

食べる意思を持つと体がぐわっと開き、果実を取り込み、ポカポカ音を立てて溶かしている。

「すっっっっっぱ!!!んだこれ!ぬぉぉ…」よだれが…いや体から水が垂れる勢いの酸味に転げ回ると、妙に視界が明るい。

「ん?こんな明るいっけ?」移動してもずっと明るい。というよりも自分を中心に光っている。

_吸収 ライトオレンジ_

_スキルツリーに追加_

「ライトオレンジ?食べたやつか…」

そう思っていると、思考の中に木のような分布図が見える。

さっき食べたライトオレンジとやらが1番上に来て、下に薄く白い線が伸びている。

「へぇ、こんなのがあるのか。」

_ライトオレンジ、周囲にオレンジ色の光を発動。魔力消費1_

なんと便利な力だろう。

というよりもウォーターボールの種族は、食べて吸収すると、その力を全て利用できる。

と、ウォーターボールと書いているところを念じたら知れた。

「おー。やべー。これすげぇ、人間より便利だろこんなの?」

奥へ奥へと体を進めていき、小さな白のモンスターを見つけた。

_種族 ラビットパンチ 下級_

      lv.0

「こいつもレベルゼロ?ゼロが普通なのか。」

近づくとウサギの体なのにパンチして来た、が、柔らかい体はラビットパンチの体をそのまま飲み込んでグツグツと溶かした。

「ぅ…ちょ、うわ不味いこれ。てか勝手に食べた?」

_吸収 ラビットパンチ_

_スキルツリーに追加_

本当になんでも食べる生物なんだな、と俯瞰していると、視界の両端に白い小さな腕が生えて来た。

「んな、え?」

_ラビットパンチ、移動速度以上の速さでパンチを放つ。移動速度に比例して威力上昇。魔力消費なし_

「光るしパンチの腕もある水玉…」

きもい。いやはっきり言ってウサギの毛皮の腕が生えて光るスライムもどきはすごいゲテモノ感がある。またスキルツリーを覗くと、ライトオレンジの隣にラビットパンチが加えられてある。だが下に伸びる線がライトオレンジと重なるモノ、独立のものと枝分かれしていた。

「合成?なのか?」

_重複進化、吸収した存在同士で発展し、独立の能力を生み出す_

「ゲームすぎるな。いやもうその気分で生きないときつい…か。」

そんなこんなで始まった水玉生活。案外楽しめそうだ

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