中年冒険者、たまには外食をする

 朝の巡回を終え、ハンスは家の前で大きく息を吐いた。


「ふぅ……たまにはゆっくりしやすか」


 石畳に反射する朝の光が、普段の依頼で乱れた気持ちを優しく包む。

 冒険者にも、こういう“休み”が必要だ。命をかけた無茶はもうごめんだ。


 扉を開けると、アメリアが笑顔で迎えた。



「おはようございます、ハンス」


 ハンスは肩をすくめる。



「おいおいアメリア、今日は休むって決めたんじゃねぇのか?」


 アメリアは少し恥ずかしそうにうつむく。



「……お願いがあります!」


 ハンスは眉を上げる。



「なんだい?」


 アメリアは両手を握り、小さな声で訴えた。



「一緒にお出かけしてください!」


 少し困った表情をするハンスに、アメリアの目は真剣だ。



「……しゃあねぇ、たまには外食しやすか」


 こうして二人は、街の雑踏に足を踏み入れる。

 普段は家や依頼先ばかりの生活だが、外の空気は心地いい。


 広場に差し掛かると、若手冒険者たちがにぎやかに声をかけてきた。



「おいおい、ハンス!嬢ちゃんに良いとこ見せたれよ!苦労するぜ、全く」


 ハンスは軽く肩をすくめ、応える。



「おいおい、焦んなや。落ち着いていこうじゃねぇか」


 若手たちは思わず笑い、軽く肩をすくめる。

 悪気はない。単に調子に乗って、ハンスをからかっているだけだ。


 アメリアはその様子をそばで見つめ、ちょっと心配しつつも笑みを浮かべる。

 普段の家の中では見られない、ハンスの別の一面。

 落ち着きと余裕、そして少しの茶目っ気がにじみ出る。


 やがて二人は街の外れにある小さな食堂にたどり着いた。

 店先の香りが鼻をくすぐり、ハンスは軽く鼻を鳴らす。



「……久しぶりに、こういうのも悪かねぇな」


 中に入り、窓際の席に座る。注文したスープとパンが届くと、温かさと香りに心が和む。


 いつぞやか外で食っていた干し肉とは全然違う。

 腹だけじゃなく、体と心まで満たされる。

 スープをすくい、パンをちぎる。

 向かいには、アメリアが笑顔で座っている。



「……悪くねぇな」


 小さく呟いた声に、アメリアはほほを赤くして笑った。



「楽しそうで、よかったです」


 ハンスはスープを口に運び、軽くうなずく。

 深入りはしない。

 だが、こういう“小さな時間”が、今の自分にとって必要だと感じていた。


 食事を終え、外に出ると夕暮れが街を染めていた。

 石畳に映る灯りを見ながら、ハンスはぽつりとつぶやく。



「……さて、帰るか、アミィ」


 アメリアは思わず顔を上げ、驚いたように目を丸くする。



「え? なんですか?」


 ハンスは軽く肩をすくめ、にやりと笑う。



「なんでもありやせん」


 アメリアは恥ずかしそうに顔を赤らめるが、嬉しそうに笑った。


 家に戻れば、また静かな日常が待っている。

 ハンスは、当たり前の幸せを噛み締めつつ心の中で満足げに笑った。

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