第7話 小さな出会い
その日、ノクティス邸はいつもより少しだけ賑やかだった。
普段は静かな廊下に、ぱたぱたと軽い足音が響く。
私は揺り籠の中から、ぼんやりと天井を眺めていた。
(……なんか、にぎやか)
「ルクシア、起きてるか?」
そう言って近づいてきたのは、幼い男の子の声。
黒に近い濃紺の髪、父とよく似た顔立ち。
少しだけ背伸びしたような立ち方で、私を見下ろしてくる。
「……あ」
(この子……)
「ユリウス様、あまり近づきすぎると……」
「だいじょうぶ! オレ、ちゃんと見てるだけだから!」
そう言って胸を張るのは、
私の兄――ユリウス・ノクティス。
(兄、だ……)
原作では、ほとんど関わりのなかった存在。
それどころか、妹に興味すら示さなかったはずの人物。
なのに。
「……ちいさい」
じっと私を見つめて、ぽつりと呟く。
「ちいさくて……かわいい」
(……)
その言葉に、周囲の空気が一気に緩んだ。
「ユリウス様、顔が近いです」
「う、うるさい! 妹なんだからいいだろ!」
(完全にシスコンの素質あるな……)
そんなことを考えていると、
今度は別の足音が近づいてきた。
「ユリウス」
落ち着いたけれど、同じくらい幼い声。
「さわりすぎると、なくぞ」
「さわってない!」
二人並んで立ったその姿を見て、私はすぐに分かった。
(……王子だ)
金色に近い明るい髪。
少しだけ気取った服装。
この国の第一王子――
レオンハルト・アウレリウス。
けれど、年齢は兄と同じ四歳。
まだ「王子様」というより、
少しお行儀のいい男の子、といった雰囲気だった。
「……これが、ルクシア?」
レオンハルト王子は、私を見て首を傾げる。
「……まぶしい」
(え)
「ひかってるみたい」
ユリウスが、ぱっと私を庇うように前に出た。
「ルクシアはオレの妹だからな!」
「しってる」
レオンハルトは、少しだけむっとした顔をする。
「でも……」
そっと、私のほうを見る。
「……かわいい」
(……また)
どうしてだろう。
原作では、私に向けられる視線は、いつも冷たかったのに。
今は。
「ルクシア、オレがまもるからな!」
「……ぼくも」
二人の小さな背中が、並んで揺り籠の前に立つ。
(……なに、この状況)
まだ言葉も話せない赤ちゃんの私に、
小さな騎士と、小さな王子が真剣な顔で向き合っている。
胸の奥が、少しだけくすぐったくなった。
(……嫌われないように、って思ってたのに)
気づけば、
守られる側になりつつある気がする。
この世界での私――
ルクシア・ノクティスの未来は、
どうやら、原作とはだいぶ違う方向へ進み始めているらしい。
目が覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています 月影みるく @tuk1kqge_milk
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