呼んだ者と呼ばれざる者

神夜紗希

呼んだ者と呼ばれざる者

色々チャレンジしたけど上手くいかない。

こんなに難しいなんて…。


この前やったこっくりさんは上手くいかなかった。

友達が飽きてしまい途中で帰ってしまった。


図書館で調べたエンジェル様は、こっくりさんとほぼ同じで、五十音をハート型に書くだけだった。


うちの親は小学生を夜一人にしないから、

夜中にやるひとりかくれんぼは出来ない。


詰んだ。


幽霊を見てみたい。

死んだ後の世界を知りたい。

それだけなのに。


最初は付き合ってくれてた友達も、

その話ばかりする私にウンザリして離れていった。


『そんな事ばっかりやってると、呪われちゃうよ』


一度も成功してないのに、呪われようがないじゃん。


授業中に窓の外を眺めながらため息を吐く。


その時、先生の言葉がスゥッと耳に届いた。


「——このように、人類は昔から、無いものを試行錯誤して発明してきたのです。原始の時代から、この時代まで。どんな小さな発見も、全てがこの未来に繋がる発明なんです。」


一気に頭の中がクリアになったような感じがした。


(あぁ、そうか…)


無いなら自分で作れば良い。


一人でもやれる、降霊術…

友達の協力もいらない。

時間の条件もいらない。

そんな、オリジナルの降霊術。


その日から毎日ノートに書き込む日々が続いた。


色んな本や映画も観て、使えそうな物や必要そうな物をまとめていく。

動画は親が履歴管理をしてるから、あまり過激なものは見れない。


色々掛け合わせてみたらどうだろうか。

色んな降霊術の良いとこ取りをしてみるのはどうだろうか。


もし悪霊が来ちゃったら、どうする?

対策もしっかりしてから挑まなければ。


何だか夏休みの自由研究みたいだな、と

明るい気分でペンを走らせる。


親には宿題をやってると思われて褒められるし、一石二鳥だった。


——その日を迎えるまでは、本当に楽しかった。


とうとうオリジナルの降霊術が出来た。

自分が調べた限りのやり方を全部混ぜた。


五十音と鳥居、五角形の星を書いた大きな紙。

河原や神社から拾ってきた石。

動物の代わりに蟻の死骸、自分の爪と髪の毛。

お米を入れたぬいぐるみ。

対策にはたくさんの塩水。

首には十字架のネックレス。


和も洋も混ぜ込んで、私のオリジナル降霊術。


本当に呼ぶ事が出来るのかな。

それとも不思議な事が起きるかな。

想像しただけでワクワクした。


次の土曜日に学校でやってみよう。

校舎の裏にはテーブルやベンチがある。

先生や生徒は休みの日には来ない。


自分の部屋のカレンダーに赤く丸を付けた。

その日が来るまで待ち遠しい。

あと、一週間。


月曜日、朝の会で先生が泣いていた。

生徒の一人が昨日事故に遭って、入院したらしい。

私も仲良くしてた子なので悲しくなった。

クラスの皆で千羽鶴を作る事にした。

早く元気になるといいなぁ。


火曜日、先生も私たちも驚いた。

事故に遭って入院したと聞いてた友達が学校に来た。

どこも怪我をしてなくて元気だと。

皆安心しながら、作りかけの千羽鶴を慌てて隠した。


水曜日、友達に少し違和感を感じた。

大人しめの性格だったが、すごく明るくなった。

授業中もお喋りして先生に注意されるほど。

でも、明るいのは良い事だと思う。


木曜日、友達に違和感を感じた。

優しい女の子だったのに、今まで同じグループだった友達を突き飛ばしていた。

周りの皆は、事故で性格が変わったのかな?って言ってた。想像出来ない位痛い思いをしたんだから、そうなのかもしれない。


金曜日、私のところに友達がきた。

帰りの会が終わり、皆帰り支度をして教室から出て行く中、私は明日やるオリジナル降霊術の事が書かれたノートを見ていた。

いつの間にか、目の前に友達が立っていた。

ビックリして思わずページを手で隠すと、すごい力で腕を掴まれて、隠していた手をどかされてしまった。


友達はノートをジロジロ見てから私に話しかけてきた。


「なに?これ?面白そうだね。」


「…私の考えた、降霊術だよ。前にやったこっくりさん、失敗しちゃったでしょ?だから…」


掴まれてる腕が痛くて、友達の手を掴む。

びくともしなかった。


友達はニンマリ笑うと手を離してくれた。


「あぁ、あの時の!…またやるんだね。楽しそうだから私もやりたい。明日、校舎裏ね?」


「…え?でも、こっくりさんの時つまんないって言ったじゃん。」


「じゃ、また明日ね。」


友達はそう言うとさっさと帰ってしまった。


性格だけじゃなくて考え方も変わったのかなぁ?

まぁ、いっか。

一人でやったら、証人が居ないなぁって思ってたとこだし。


ノートをランドセルに仕舞うと椅子から立ち上がった。


ふと頭の中で友達の言葉が引っかかった。


(…何で、明日の校舎裏って分かったんだろ?)


ノートにそこまで書いてたっけ?

もう一度確認しようとランドセルを肩から降ろそうとしたら、先生が教室に入ってきた。


「コラ!一人じゃ危ないから友達と帰るように言ったばかりでしょうが!早く追いかけなさい!」


私は驚いて降ろしかけたランドセルをすぐに背中に戻した。


「わ!先生!さようなら!」


「はい、さようなら〜。」


先生の声を聞きながら慌てて玄関に向かう。

もう、友達に感じた違和感は忘れていた。


土曜日、降霊術に使う紙や荷物を持って学校の校舎裏に向かった。


ニワトリ小屋とウサギ小屋の真ん中に、

木でできた大きなテーブルと椅子がある。

降霊術にぴったりの大きさだった。


私が行った時には友達はもう来ていた。

ウサギ小屋を見ているようだった。


昼間は日向ぼっこしてるウサギ達だったが

その日は奥の寝床に全員入っているようだった。


ニワトリ小屋も一羽も姿が見えなくて静かだった。


私は友達に声を掛けながら降霊術の準備を始めた。


「早いね。何時から来てるの?」


「忘れた。早くやろうよ。まずは?」


私よりワクワクしている友達は、すぐに椅子に座った。


こんなに興味を持ってもらえるなんて思わなかった私は、最初感じた違和感よりも嬉しさが勝ってしまった。


「じゃぁ、早速始めようか!」


自作の降霊術用の紙を広げて、

真ん中に米を詰めたぬいぐるみを置いた。


紙の四隅には河原や神社から拾った石を置き、

ぬいぐるみの前に蟻の死骸と、爪と髪を置く。


首に十字架のネックレスを掛けた。

そして、5円玉を紙に書かれた鳥居に置いた。


自分で調べて、頑張って準備した降霊術。

とうとう実際に使う日が来た。


ドキドキする胸に手を当てながら、

友達が何て言ってくれるのか確認したかった。


すごいねって、思ってくれるかなぁ?

向かい側にいる友達に目を向けてみた。


友達は椅子に座ったまま、

下を俯いて動かなくなっていた。


「…どうしたの?大丈夫?」


「…………………………………」


友達は何も言わない。

動かない。


風が吹き、木の葉がカサカサと揺れる音だけがやけに大きく感じた。


また、違和感が募ってきた。

今までの、小さな違和感が、全て繋がっていく。


事故に遭った二日後に登校した。

性格が変わった。

友達を突き飛ばしていた。

力が異様に強かった。

ニワトリやウサギが姿を見せない。

私の降霊術に興味を持った。


——オバケなんて信じないって言って、

こっくりさんの最中に手を離したのに。


私は急にゾッとして、机から一歩離れた。


すると、二人の声が聞こえてきた。

友達の声ともう一人の声。

友達の口から二人分の声が被って聞こえる。


「「降霊術、やらないの?」」


「…や、やらない。」


私は震えながら小さく首を振る。

もう一人の声が低くなった。


「「やれよ。」」


私はテーブルの上にある鞄を手に取る。

友達は下を向いたままゆっくり立ち上がる。


「…っ。こっくりさん、お帰りください。」


帰ってもらう時の言葉はそれしか知らない。

もう、繰り返すしかなかった。


「こっくりさん、お帰りください。

こっくりさん、お帰りください。」


怖くて怖くて、涙が出てくる。

いつ、友達が飛び掛かってくるか分からない。

頭の中に色んなホラー映画のシーンが浮かぶ。


友達が、こちらに来ようとしている。

ゆっくりと距離が縮まる。


「こっくりさん、お帰りください。

こっくりさん、お帰りください。

こっくりさん、お帰りください。」


私は震える手で鞄を握りしめた。

その時硬い感触が手に当たり思い出した。


もう一つ、儀式を終わらせる為に準備していた物があった。


悩んでる暇はなかった。

友達は、もう目の前にまで来ていた。


友達が顔を上げた時、見てしまった。

二度と思い出したくないような、

恐ろしい顔だった。


白い目を向き、口を大きく開けて、

笑っていた。


私は目を瞑り、鞄の中から塩水の入った水筒を取り出した。

口の中に一度入れて、友達に吹きかけた。


何度も繰り返し、最後には残った水筒の塩水を直接全部友達にかけた。


咽せながら、泣きながら、必死だった。

もう、とにかく何とかなって欲しかった。


塩水が無くなると、地面に崩れて大声で泣いてしまった。

その時、頭上から戸惑っているような声が聞こえた。


「…何…してるの?」


友達の声だった。

一人分で、友達だけの声。


顔をあげると、困ってる顔をした友達がいた。


「何で泣いてるの?私何か濡れてるし…

ここ、校舎裏?当番だっけ?」


友達は元に戻っていた。

記憶もないようだった。


私は、この一週間に起きたことを、

途切れ途切れに話した。


友達は顔を青ざめて聞いていた。

事故に遭った事すら記憶が危ういようだった。


私が友達に謝ると、友達は首を振った。

こっくりさんを途中でやめたのは自分だと。


「助けてくれて、ありがとう。」


友達が泣きながらそう言うと、

私も涙が止まらなくなった。


もう、降霊術はやらない。

友達と抱き合いながら、そう誓った。


…泣いている私たちは気付かない。


ニワトリやウサギが未だに出てこない理由を。

テーブルの上のぬいぐるみが、

体の向きを二人の方に変えている事を。


私はぬいぐるみを鞄に入れて友達と別れた。

そこから始まる何かに気付かないまま。


破れていないはずのぬいぐるみから、

詰めていた生米がこぼれ落ちていた。


校舎裏は静寂のまま、夜が更けていく。


——月曜日、朝の会で先生が泣いていた。


私が事故にあったから。

…でも、大丈夫。


「「火曜日には学校に行くからね。」」

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呼んだ者と呼ばれざる者 神夜紗希 @kami_night

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