怪異調査員—相棒は天使な美少女なんですが……

フミオダ

第1話

 ――プルルルル。

 軽快なスマホの着信音とともに、意識が覚醒し始める。

 枕元にあるはずのスマホを取ろうと、右手を伸ばす。

 しかし、空振る。そうだ、昨日机の上で充電したんだった。

 重たい瞼を薄っすらと開ける。

 何故か体が重たい。昨日の仕事の疲れだろうか。

 いや、体というか胸とか腹辺りが重たい。

 ――むにっ。

 何だ?柔らかい。

 特に腹辺りが柔らかい。

 布団をめくると、ぎょっとし、意識が一気に覚醒する。


 「おい、毎回俺のベッドに潜り込むのはやめてくれ。心臓に悪い」


 「…んっ……」


 一人の女の子が俺に抱き着くように寝息を立てている。

 雪のように白い長い髪が、目鼻立ちの整った、綺麗な相貌に掛かっている。

 これが欲しいって言うから、せっかく新品の灰色のスウェットをあげたのに、何で俺のパーカーの寝間着を着てるんだ。

 これが彼シャツというやつか。いやそうじゃなくて。

 まだ俺も寝ぼけているようだ。

 俺の布団の中で寝ている女の子、ユキの白い頬をつねる。


 「…ぉはよう、そうたぁ」


 「おはようじゃない。何で俺と一緒に寝てるんだ」


 「んーわかんない」


 わかんないって……。ユキの部屋は一階なんだが。

 まだスマホは鳴っている。


 「ユキどいてくれ。電話出ないと」


 「むりぃ……」


 「無理じゃなくて。……こら、抱きつくなよ。動けないだろ」


 ユキが動くたびに、見事な双丘が重力に従うように、むにむにバウンドする。

 本当に朝から心臓に悪い。

 しばらく、攻防するが離れなれない。

 ぷつりと着信が切れる。


 「あー切れちった」


 「きょうはぁいちにちネルひにしよう」


 だが、また着信が鳴り始める。

 今度はユキが力を緩め油断していたので、その隙にベッドから抜け出す。


 「そうたのばかぁ……」


 机のスマホを握る。

 画面には上田うえだの文字が書かれてある。

 アルバイトをしている会社の代表だ。


 「おはようございます。大橋おおはしです」


 『いつまで待たせるんだ』


 男の声で叱責が飛んでくる。


 「すみません、今目が覚めて」


 『本当か?てっきり、ユキちゃんと朝からイチャイチャしてて、電話出るの遅れたのかと思った』


 「……してませんよ、何言ってるんですか?机の上にスマホ置きっぱなしで、取るの遅れたんです」


 『何だ今の間は。冗談で行ったのにマジだったのか?』


 「マジじゃないですよ。それでどうしましたか?」


 このまま話を続けると、いろいろ追及されそうなので、話題を変える。


 『あぁ、仕事が入った。行けるか?』


 「行きます。準備します」


 『詳細はメールで送るから。それじゃよろしく』


 電話が切れる。

 すぐに、メッセージが入る。


 「ユキ。行くぞ。仕事だ」


 「えぇ…行きたくない。仕事したくない」


 「わがまま言うなよ。そういう契約だろ」


 「やだぁ。寝てたい。壮太が意地悪するー」


 ベッドから引き剝がすために、ユキの足を引っ張る。

 こいつ力強いな。


 「こら、足バタバタするな。マットレスずれるだろ」


 「いやぁー」


 一旦、ユキを無視し、スマホに入ったメールを確認する。

 現場に直行して良いようだ。

 急ぎじゃなさそうだし、行く前に朝ごはんだ。

 

 「今日は何食べたい?」


 「パンケーキたべたいぃ……」


 「ハチミツたっぷりかけていいから、起きろ。ご飯作るぞ」


 「はーい」


 気怠そうにユキが起き始める。

 俺の部屋を出ていくので、スマホを持ち、後を追う。

 階段を下りるユキの頭上に、金色の輪っかが出現する。

 少し眩しい。

 俺はキッチンに向かい、朝ごはんの準備を始める。

 ユキは甘いものが好きだ。朝は甘いものを食べることが多い。

 俺はいつも決まって、納豆と卵、白米、みそ汁を食べている。

 この準備はすぐに終わるので、パンケーキを先に作り始める。

 作っている間、ユキはダイニングテーブルでうとうとしていて、出来上がる直後に覚醒する。


 「ほい、出来たぞ」


 「ありがとう」


 お互いに朝ご飯を食べ始める。

 ハチミツとバターをかけて、パンケーキを頬張るユキは幸せそうだ。

 改めて彼女を見る。

 綺麗な相貌、まるで天使のような美貌。実際に天使だ。

 頭上の天使の輪っかがその証拠となる。文献にはそう書かれてある。

 天使たちは人類の嗜好品を求め、天界から降りてきた。地上と比べて天界はつまらないらしい。

 しかし、地上では怪異災害が多い。

 幽霊、お化け、妖怪、天使、悪魔、鬼、エトセトラ。それを総称して、怪異と呼んでいる。

 怪異災害。それらが引き起こす、事故や現象、天変地異。

 災害に対応するため、人間は天使たちと契約をして助けてもらっている。天使以外にも人間を助けてくれる怪異はいるが、天使が多い。

 彼女も手助けしてくれている。

 

 「はい、一切れ上げる」


 「ありが…いや、納豆の上に置くなよ。せめて避けて置いてくれよ」


 「まあまあ朝から怒らないで。眉間に皺を寄せると老けるよ」


 「誰のせいだと思ってるんだ。…ご飯食べたら現場に行くから、早めに準備してね」


 わかったと、ユキがこくりと頷く。

 怪異災害を対策する仕事、怪異調査員。

 それが俺らの仕事だ。

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