第8話
「リツ。それ、どうしたの? サンタさんみたいな大きな袋かついで」
大柄な白人男性が律子の姿を見つけると、そう話しかけた。
「そのサンタさんの衣装よ。もらったの」
小さな集会所の庭先。彼は縁側の陽だまりでお茶を飲んでいる。足元には白黒ブチの猫が丸まっている。
「よいしょ。今日はあったかいわね。ジョシュ。真冬にしては。とはいっても相変わらず酔狂ね。わざわざ外でお茶飲むなんて」
「ハハ。『酔狂』ネ。リツは難しい言葉を使うネ」
「そうでもないわよ。ジョシュがすぐに意味分かるのはすごいけど」
「リツ。それで、そのサンタさん、どうしたの?」
「さっきまで、クリスマスイベントの仕事してなの。朝6時からよ。サンタの格好で受付。終わったら『もうこの衣装は使わないから欲しい方には差し上げます』って。いや、いらないわって思ったけど、子どもたちが喜ぶかな、と。今年のクリスマスは終わっちゃったけど」
「ジョシュの分もあるわよ。ラージサイズもらってきた。来年のクリスマス会で着てね。ついでだから5、6着いろんなサイズもらってきた。子どもが着れるサイズもあるよ」
「オゥ! ワンダフル」
「でも、それは来年もボクがここにいることが前提だネ」
「いないの? ビザ切れちゃう? アメリカ帰っちゃうの?」
「そういう意味じゃないケド」
「なんか、当たり前にいるって思われてるんだナ、って。少しうれしかったヨ」
――にゃっ。
「あら、ラル!ラルも着たいの? 作ってあげようか、来年ね。帽子だけでいっかな」
「あ、そういえばね。ゲーゲルさんのAIもラルっていうんだって。おまえとおんなじ名前だよ」
ジョシュが少しおやっという顔をした。
「クリスマスイベントってゲーゲルのかい?リツ。あの場にいたんだネ」
「うん。そーよ。ジョシュ、よくわかったわね」
「あー。朝、ニュースでね。みた…かな」
「CEO若いね。さすがIT。ハンサムね。真っ黒なスーツに真っ黒なシャツとネクタイでビシッとして。なんか後光さえ差して、天使と同じ名前だった」
「皮肉言う人もいたけど」
「そういえばさ、ラルってジョシュが名前つけたのよね。なんでラルにしたの?」
「えっと、それはほら、あれネ…その…。『ラル』ね。『ラル』は…。そう、リツがネ『れる』とか『られる』とか、みんなに教えてたでショ。その、ここのサークルでね。それでネ。えーっと…。そう『らる』って『られる』の古語なんだよネ」
「えっ何それ。そこからだったの?」
「ソウ、ソウ」
ジョシュアはほっとした感じで答えた
「でも何?『られる』って昔『らる』って言ったの?さすが語学の天才ジョシュア様。日本人だってそんなこと知らないわ」
「あー。そうだね。…うん」
「そっかー。古の風格があるお名前だったのね。ラル。現代風ならラレルちゃんだったのか。もっと今風なら『ら』が抜けて、レルちゃんかな。」
「レルちゃんもいーね」
「レル。レルー。レルルー」
―うにゃ
「どうも、お気に召さないみたいね」
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