転移剣士の冒険譚
塩塚 和人
第1話 迷宮の入口
アリスは森の薄暗い木立の中で目を覚ました。
朝の光が木漏れ日となり、苔を照らしている。
「ここ……どこ?」小さな声でつぶやく。
腰の剣に手を触れると、少しだけ安心した。
十二歳の少女。まだ剣士としては未熟だ。
しかし、スキル「転移」を持つ唯一の力がある。
十メートルだけだが、瞬時に移動できる魔法だ。
これがなければ、迷宮で生き延びられない。
彼女の前には、巨大な迷宮の黒曜石の扉が
立ちはだかっていた。光を反射し、重々しく
不気味な空気を漂わせる。誰もいない、静寂だけ。
「レベル1……でも、やるしかない」
小さな胸を叩き、アリスは剣を抜いた。
足元の光る紋章を踏むと、微かな振動が
身体に伝わる。迷宮の入り口の魔力だ。
最初の階層は小さなゴブリンが徘徊していた。
剣を握る手が震える。ゴブリンが牙を剥き、
飛びかかってきた瞬間、アリスは叫ぶ。
「転移!」十メートル後方に跳んだ。
ゴブリンはその場に衝突し、倒れる。
息を整えながらアリスは観察する。
「戦い方……少しわかったかも」
初めての実戦で、わずかな自信を得た。
次の部屋には鎧を纏った戦士型の魔物がいた。
剣を振ると、鋭い刃が金属の防御を弾く。
アリスは瞬時に判断し、壁際に転移。
斜め後ろから反撃を試みる。
魔物は反応が早く、こちらに向かって突進する。
しかしアリスは短距離転移を連続で繰り返す。
跳び、避け、斬る――小さな身体が迷宮の中を
駆け回る様は、まるで光の精のようだった。
数度目の転移で、魔物の背後に回り込む。
「今だ!」剣を振ると鎧に鋭い切れ目が入り、
魔物は驚きの声をあげた。倒れた瞬間、
アリスの剣士レベルが2に上がる。
身体が熱を帯び、動きが滑らかになる。
剣の重みが少し増した感覚。力と技術が
融合し、次の戦いへの準備が整った。
階段を上ると、火を吐く竜型の魔物が現れる。
炎が床を焼き、空気が熱を帯びる。
アリスは冷静に、転移距離を計算しながら
タイミングを見極める。
「転移!」一度、二度、三度――
炎を避け、背後に回り込む。
剣を振る角度とタイミングがぴたりと合う。
初めての大型魔物との戦闘に成功した瞬間だ。
戦闘後、アリスは深く息をつき、剣を握りしめる。
「まだ始まったばかり……でも、できる」
小さな身体に宿る決意は、迷宮の闇に光った。
部屋の奥に、光る石碑を見つける。
手を触れると、階層全体が微かに光る。
魔力の印……次の階層への鍵になるだろう。
アリスはゆっくりと歩みを進める。
初めての迷宮、初めての戦闘。
転移を駆使して生き抜いたアリスは、
剣士としての成長を確かに感じた。
「もっと……強くなるんだ」
迷宮はまだ深く、危険は続く。
しかし、アリスは恐れず、前に進む。
小さな剣士の冒険は、今、幕を開けた。
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