天滅の切札騎士(アルカナイト)
上野蒼良
カテゴリ1 新年明けまして
明けましておめでとうございます。という言葉を今日一日で、まだ片手で数えるくらいしか言えていない。別に友達や家族がいないわけではないのに気づくと時間が経っている幻みたいな1日。それが元旦なんだなと思う。
今年もお世話になっている家族に挨拶を済ませると、そこから暇な時間ができた。
俺、浦島コタローは、部屋の中で当てもなく寝転がっていた。だが、その時ふと思ったのだ。時間はあっという間に過ぎてしまう。ただでさえ一瞬で終わってしまう元旦が本当に何もしないで終わってしまうのは、すごく寂しいじゃないか……。
そう思い始めると、寒い外に出たいと言う勇気が湧いてきた。部屋を出て──気づけば外を歩いていた。
ここまでの体感時間、わずか数秒。なんてこった。いよいよ俺も瞬間移動の特殊能力を覚えたのか!
「……お前まさか、自分が瞬間移動できるって勘違いしてねぇか?」
その時、向こうから聞き覚えのある奴の声がした。振り返らなくても分かる。喉仏が出てくる前から何度も聞いてきた幼馴染の声だ。見なくても……わっ、分かるし……。
「へへへ、お前が何も言わずにそっぽ向くって事は御名答さんってわけだ。正月早々から頭でも打ったか? コタロー」
「うっ、うるせぇよタケル! なんだよ。人が気持ちよく外の美味しい空気を吸いに来てるってのに……」
「へへへ。耐えきれずにこっちを向いたな」
この目の前に立つ明らかに柄の悪そうなおしゃれヤンキーは、俺の幼馴染。いや、腐れ縁と言うべきか。名を泉タケルという。
すぐ近くの家に住んでいて小学3年生からずっと一緒だ。クラスも全部ずっと一緒にいるせいか、奴は俺の心を読めるらしい。これが本当に厄介だ。
「なんか思ったか?」
「なっ、なんでもねぇよ! いちいち心読むなよ」
すると、タケルの野郎は、また意地の悪そうな微笑みを浮かべて告げた。
「しょうがねぇだろ。お前、顔に全部書いてあんだもん」
「タケルてめぇ……新年早々から人を馬鹿にしやがって……」
俺達の会話に「明けましておめでとうございます」というものはない。年明けの挨拶もこの罵り合いからスタート。けど、これが俺たちにとっての「あけおめことよろ」なのだ。今まで通りに罵り合って馬鹿にし合って、そんで笑い合う。中身はないけど、こんな時間が俺もタケルも何となく好きだった。
その後、結局俺達は、のらりくらりと当てもなく町を歩き、無駄な会話に花咲かせた。
「結局、今年もお前と初詣かよ」
何気ない俺のぼやきにタケルは、意地悪な顔で告げる。
「俺以外に当てがあったのか? もしかして、彼女でも出来たか?」
「いねぇよ! そうじゃなくて普通に友達と……」
その瞬間、タケルの顔は凍りついた。
「……お前って俺以外に友達いたの!?」
「いるわ! なんならお前より多いわ!」
「コタロー。お前、青いイマジナリーフレンドは子供の時までだぜ?」
「いやだからいるって! ちゃんと人間の友達が!」
「なんだ。もう一匹いんのかよ。チョコミルクでもやろうか?」
「だから違うって! てか、なんだよ。さっきからアメリカンなジョーク飛ばしてきて」
何気ない会話で神社を出ていく俺たち。本殿から遠ざかれば遠ざかるほど……人口密度は上がっていき、やがて俺たちは話をする事をやめた。人混みをかき分けて、出店の並ぶ狭い道を潜り抜け、ようやく神社を出た時、走り込みした後のような疲れがどっしりと俺を襲った。
「やっと、終わった……」
すると、隣ではタケルも肩で息をしている。
「ホント、ひでぇ人混みだ。年々人が増えてるな」
「外人多いからな」
あの人口密度で乾燥した空気の中を歩いていたせいか、喉がカラカラだ。
近くの自販機で飲み物を買いに行こうと財布を出してみる。
「なぁ、一万円札って使えるかな?」
「いや、無理だな。千円までだ」
普段であれば小銭しかない貧乏学生だが、今日だけは違う。なにせ、元旦。この日だけは全国どこの学生も懐が潤いまくっている。
俺の財布も栄一が1人眠っておられる。だがしかし、最上級クラスの絵札が故にこういう時、気軽に買い物ができないというデメリット持ちだ。
「帰るかー」
結局、何も買わずに俺達は神社を離れた。
「そういえばお前、モモノは元気なん?」
「え……」
一瞬、言葉が詰まった。いや、なんて言うべきなのか分からなくなっていた。
「まぁ、元気だよ……」
とも言いづらかった。けど、こうしている間にタケルの推理はひかる。
「冬休み中、喋ってない感じか」
「一言も……」
タケルは、こう言う時でも俺の心を読んでくるのだ。……凄い。
吉備モモノ。同じ高校に通う俺のもう1人の幼馴染の少女。いや……
奴は、呆れた様子で溜息混じりに告げた。
「お前、一緒に暮らしてんだろ?」
「あぁ。赤ん坊くらいの時からずっと……」
生まれて間も無く俺は、両親を失った。孤児となった俺を拾ってくれたのが、吉備家だった。
吉備家の一人娘だったモモノとは、年が同じと言うこともあって、小さい時からずっと一緒だったのだ。
「家族みたいなもんだったよな。お前ら……」
そう。本当の家族みたいに育った俺たちは実の兄弟くらい仲が良かったはずなのだが、ある時を境にモモノは、俺に冷たくなった。
「思春期かなぁ」
「まぁ、そう言うお年頃だもんなぁ」
「高校生になってから一度も口聞いてないぞ。アイツと……」
中学生の時までは、あんなに仲良しで……。
一緒に第一志望合格しようって勉強頑張ったのに……。
「俺、嫌われるような事言ったか?」
するとタケルが、うんうんと頷いてきて俺の肩に手を置いた。
「まぁまぁ、落ち着けって他人の考えてる事なんて普通はわかんねぇって。ましてや、相手は女だ。俺らにも分からない事考えてたりするかもだぜ」
「言ってくれなきゃ分かんないよ」
こういう時、タケルは本気で心配してくれるから好きだ。結局俺達は、その後も男同士で肩を組んで歩きながらその場にいないもう1人の幼馴染の愚痴を言って、家の前まで来てしまった。
「わりぃ、このまま帰るのもなんか嫌だし、ちょっと寄り道してくわ」
タケルにそう告げるとアイツは「子供は風の子だもんな。俺は寒いし先帰るわ」
「誰が、ガキみてぇだってコラ」
相変わらず、最後の最後までムカつく腐れ縁だが、この日は珍しく去り際に……。
「雪が降りそうだし、早めに帰れよ」
と、なんだか心配してくれていた。相変わらず、良い奴なのか嫌な奴なのか分からん奴だ。
しかし、思い返してみればモモノは今日、何処に行っているんだろう。朝まで一緒におせちを食べていたわけだが……。
今朝のアイツも酷いくらいムッとした顔をしていた。一言も喋ろうとしないのだ。
義父さんからお年玉貰っても「ありがとう」しか言わない。見た目は、すらっとした細身にサイドテールの黒髪美少女だというのに、あのムスッとした顔は勿体無いだろう。
「……なに、人の事を昔は、こんな子じゃなかったのになぁって感慨に耽っているの?」
「そうそう。昔は、本当にもっと可愛げがあって──」
その時、目の前に見えたサイドテールに俺は言葉を詰まらせた。
雪のように白い肌と黒い髪。冬なのに素足を出して短いズボンを履いているこの少女。彼女こそ、吉備モモノ。その人だ。
「モモノ……どうして、ここに?」
少女は、冷たい淡々とした声で告げた。
「どうしてって、私の家はそこだし」
「おっ、おう。ただいま?」
すると、急にモモノは表情を暗くして告げてきた。
「話しかけないで。まだ家ついてないし、早とちりし過ぎよ。てか、これから商店街の方行くの? バッカじゃない? 雪降るのに」
挨拶しただけなのにこの態度って……。これ、怒られる所ないだろ……。中学生くらいまでは、笑顔で「おはよう」とか言い合えたのに。
「……何? 言いたい事あんならはっきり言ってよ」
「別にー。あっ、忘れてた。話しかけちゃダメなんだった」
途端にモモノは、下を向いた。拳を握りしめてプルプル震えている。少し言い過ぎたか……。
彼女は、怒った様子で告げた。
「もう良い! 商店街でも何処でも勝手にしてよ! もう今年一年ずっと口閉じてろ!」
「上等だ。誰がテメェなんかと喋るかってんだ」
もう顔も見たくなかった。あー凄くイライラしてきた。
かくして、新年早々俺は最悪なスタートダッシュをしてしまったわけである。
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