アブノーマル・ドクターズ
コメディ、シリアス大好き野郎
第1話 二人の天才
東阪大学病院に勤務する外科医、白鳥貴芦は頭を抱えていた。担当している子どもの患者が、薬を飲まないのだ。
白鳥貴芦は、二十八という若さで数々の学会に引っ張りだこになっている、天才的な手術の腕を持っている男性だ。
ウェーブがかった茶髪のイケメンで、運動神経もいい。しかし、病院内で話題になっているのは、彼の、斬新で使えるのかどうか分からない発明品の方だ。
「白鳥先生、今日も……。」
看護師が、思い詰めたように、うつむいてやってきた。
「任せてくれ!」
貴芦は、笑顔で答えた。
「いやだぁ!こんな苦い薬、飲みたくないよぉ!」
病室から、子どもの泣き声が聞こえる。子どもの名は、優太。
「優太君、少し我慢してくれ!私が、きっと君の病気を治して見せよう!」
貴芦は、とびきり明るい声で優太を励ますが、まるで効果がない。
「困ったな……、そうだ!薬剤師にアドバイスを聞きに行こう!優太君!待っててくれ!」
貴芦は、勢い良く駆け出していった。
「誰かいるか!」
病院に隣接されている薬局に、大声が響く。
そこには、黒髪レイヤーカットの細い女性を除き、誰もいなかった。
「おお、きみは確か……黒羽真墨君ではなかったかな?」
黒羽真墨と呼ばれた女性は、貴芦を無視し、薬の調合を続けている。
「君、病院内で『天才インキャ』というあだ名で呼ばれているぞ。すごいなぁ。『インキャ』の意味は分からないが、天才って入ってるから、なんか凄いんだろ?」
「は?」
真墨は、やっと顔を上げた。
真墨は、ウェーブがかったセミロングの黒髪を持ち、顔は小さな逆三角形。切れ長の大きな目で、鼻筋が通っている、いわゆる美女だ。しかし、小柄で、痩せていて、おまけに肌は病人のように青白いのだから、彼女の健康面が心配だ。
「薬のことで聞きたいことがあるんだ!」
貴芦の、耳を貫くような大声が響く。
「何?薬の服用方法は袋に書いてあるとおりだよ。他に何か?」
真墨の声は、氷を連想させるかのように冷たい。
しかし、貴芦は気にすることなく、満面の笑みで話を続けた。
「服用をいやがる子供がいてね。何かいい方法を知らないか?そうだ!君から説得するのはどうだろう?薬剤師なら説得力あるだろ?」
「なにそれ。他に方法なんていくらでもあるでしょ……。それに、私、喋ること嫌い。生憎他の薬剤師、皆仕事でいないから、別の時間に来たら?」
真墨が、うっとおしそうに、仏頂面で話す。
「いや、私は君の恐ろしい声が気に入ったよ。何事も実験だ!一緒に来てくれ!」
そう言うと、貴芦は、真墨の腕を掴んで走り出した。無論、真墨は抵抗したが、どうやら力が弱いらしく、そのまま連れて行かれてしまった。
「優太くん!お待たせぇ!」
貴芦が、満面の笑みで病室に入ってきた。
「しらとりせんせい、そのお姉ちゃん、誰?」
優太は、部屋に知らない人が入ってきたので、困惑している。
「……。君が優太?さっさと薬飲みな。これ以上苦みを取り除くことは、できない。」
真墨は、優太に冷たい視線を向けた。
優太は、「やだよぉ。」と、仏頂面になった。
「そう……。でも、結局支障をきたすのは君の方だから。その薬飲まないと、どうなると思う?」
真墨の声が、地獄の底から響いてくるような、冷たい声に変わった。そこには、慈悲も、哀れみも感じられない。
優太の体が、小刻みに震えた。
「ど、どうなるの?」
「死ぬ。」
あまりに端的な答え。だが、子どもの優太には、効果抜群だった。
「の、の、のみます。」と、か弱い返事が帰ってきた。
「これでいい?それじゃ。」といってそそくさと帰ろうとする真墨を、貴芳が引き止めた。
「凄いなぁ!成功だ!ありがとう!」
「事実を伝えただけ。」
真墨は、ぶっきらぼうにこたえる。
そんな真墨の瞳を、貴芳がじっと見つめた。
「何?」
「真墨君、君は実に面白いなぁ!また意見を聞かせてくれ!」
「……何いってんの?」
「そういえば、二年前だったかな。君と同性同名の天才外科医がいたんだよ。もしかして君は……。」
真墨が、一瞬狼狽の表情を見せた。が、すぐに無表情に戻り、何も言わずに去っていった。
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