異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)
🎈葉月🎈
第1話 プロローグ
夕暮れの鐘が鳴り止むころ、王都レルシェイドの歓楽街【ミストヴェイル】は、ゆっくりと息を吹き返す。
まるで、日中の眠りから覚醒した巨獣が、喉奥で低く唸り声を上げるように。
魔導灯が一斉に火を呑み、通りはつい先ほどまでの夕闇を忘れ、昼よりも明るい色彩に満たされた。
赤、青、金――無数の光が石畳に降り注ぎ、人々の影は目映い舞踏を始める。胸元をはだけた楽師が奏でる笛の音が、香草酒の甘く酔わせる香りと混じり合い、ただ歩くだけで魂の底が浮き立つような、奇妙な高揚を運んできた。
「――あらロイド、今日は寄っていかないの?」
それは、ミストヴェイルの夜が本格的に動き出す合図のような声だった。
振り向けば、プラチナブロンドの巻き毛を揺らし、胸元を惜しげもなく開いたドレスの女――いや、一輪の毒花と呼ぶべきか――《エマ》が、艶を含んだ笑みをこちらに投げかけていた。
エマ。今年二十二歳。だが、歳月の数など意味を失うほど、彼女は成熟していた。
かつては辺境の村の、ありふれた娘にすぎなかったらしい。口減らしという名の非情に押し流され、この街に辿り着いたと聞く。
だが、そこで生き延びるための才覚は、むしろ女達の手本となるほどだった。
ひとたび彼女に抱かれた男は、二度と自由には戻れない――そんな噂から、いつしか彼女は“微笑のラミア”と呼ばれるようになった。甘美に絡みつき、離さない。
ミストヴェイルの頂点に立つ日も、そう遠くはなかろう。
そんな彼女が俺に親しく声をかける理由は単純だ。ミストヴェイルでの初めての客が――俺だったのである。
「ん~~……今日は、少し安くしてくれたり……?」
「ふふ、ケチな男はね、ほんとにモテないのよ?」
言われてみれば至言だ。
この世は所詮、金。金がなければ女を抱けず、女を幸せにすることなど夢のまた夢。
逆に言えば、金さえあれば醜男であろうと、女は星の数ほど寄ってくる――悲しいが、これが現実だ。
そして何より、金がなかったからこそエマはこの《ミストヴェイル》にいる。
「この間、また値段上がったよな?」
「ええ。あたしの価値に、ようやく男達が気づき始めたみたいよ」
確かに、エマは美しい。
さらに、あの曲線美は罪深いほどに魅力的だ。誰だって、一度は抱きしめてみたくなる。
――だが、財布の方がそろそろ悲鳴を挙げている。
俺は貴族の坊っちゃんでも、大商会の跡取りでもないのだ。
「で、今いくらだ?」
「一晩、八万ギル」
「……っ」
高い。あまりにも高い。
前は七万一千ギルだったはずだ。わずか数日で九千ギル値上げとは、強気にも程がある。
……いや、待て。
エマの美しさと技量なら、まだ納得できる範囲かもしれない。
高級嬢ともなれば十万ギルは下らないのだ。今のうちに手が届くというだけで奇跡なのだろう。
しかし、八万ギル――。
今夜彼女を衝動買いすれば、明日からの生活は火の車だ。
だが、次に会うころには九万か十万になっているかもしれない。
思案に沈む俺の視界の端で、文字が奔流のように流れ始める。
:エマちゃん買え!
:はよ買ってエロ見せろ!
:ここで買わなかったらもう観ねぇ
:むしろ八万なら安い
:エマちゃん本番あり?
:初見か?
:ここで買わなかったら順位下がるだけ
:エロ枠なんだからケチケチすんな
:お前順位低いんだからケチケチすな
:そのうち追跡者に消されんぞ
――視界に映る《配信画面》。
十六歳で│
はぁ……。
よりによって、なんでこんな意味不明な│
しかも“見る者”の大半は、俺にいやらしい展開を望んでいるらしい。
│
……まあ。
行為自体が嫌いかといえば、むしろ好きな部類だが。
ならば――選ぶ道はひとつだ。
「ロイド、だいすきよ♡」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。