キャラメルみたいに溶ける夜

静間 湊

第1話 帰り道

あの日、大学病院の帰り道。


真冬の空気の冷たさが顔にしみる。

少し乾いた風の中、

坂道を下る私の自転車は、

騒がしい駅前の人混みに

飲み込まれていった。


たくさんの人が行き交う中、

止まりたいのに止まれない、


不器用なスピードで進む私の左側。

不意に、強い視線が刺さった。


見たら、あなたがいた。


雑踏の中で、

あなただけが止まっているみたいに、

真っ直ぐに、私を見ていた。


私も、目をそらす術を知らなかった。

みんなとは違う焦茶色のコート。

オシャレさん。


時間が、とろりと溶けて、スローモーション。


心臓の奥の細胞が、ザワザワと騒ぎ出す。

「ねえ、いま何を感じたの?」

なんて、聞けるわけないけれど。

綺麗な横顔。

「素敵だね」なんて言ったら、あなたは笑うかな。

それとも、もっと困った顔をするのかな。

坂道を下りきった後も、

私の背中には、まだあなたの視線が残っている気がした。

また、どこかで。

そんな淡い期待を、ペダルに乗せて漕ぎ出す。

あーあ、恋の予感って、

いつもこんなに、唐突で、ちょっとだけずるい。

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