第十夜 眠る獣
鳥の囀り、風に揺られる草花、暖かい春風が、
それらをうろの中へ運んできた。
暗くぬるい地面から、体を起こす。
外は暖かく、昨夜の不気味さは消え、また美しい森に戻っていた。
乾いた喉を潤すため、昨日と同じ小川へ向かう。
道中、口にできるものを探した。
一人で火を起こすことはできない。
できれば果物が甘そうだったが、動物に食べられていたり、
傷がつき膿んでいたりして、とても生で食べられるものはなかった。
流れる水は相変わらず冷たく、透き通っていた。
失ったものを、少しの間だけ忘れさせてくれるほどに。
手で掬い、口に運ぶ。
森の自然が織りなす旋律が、心を癒してくれた。
ふと、その旋律の中に異音が混じる。
視線で音の出所を辿った。
昨日と同じ場所。
河原を寝床にして、昨日の獣が眠っていた。
周囲の草は焦げ、砂利は黒く焼き付いている。
群れに戻るでもなく、私とのつながりを守るかのように、
静かな眠りに落ちていた。
この獣もきっと、帰る場所などないのだろう。
起こさないよう、そっと近づく。
足音を抑えたつもりだったが、野生の生き物だ。
当然、気付かれると思っていた。
だが、この子は起きなかった。
それどころか、私が近づくにつれ、
纏っていた炎は小さく、弱くなっていった。
大きな牙、逞しい筋肉。
この森で、間違いなく頂点捕食者の一角だろう。
だが、三つ並んだ寝顔はどれも、
何かに苦しんでいるようだった。
傷を隠す毛並みを、そっと撫でる。
こうしている間は、可愛らしい犬のようにも見える。
それでも、時折のぞく牙が、この子が獣であることを思い出させた。
私は、なんとなく居心地がいいと感じていた。
座りながら頭の一つを撫で、森や空に目をやる。
そこで、気づいた。
森の中では見つからなかった果物や実をつけた野草、
木の根元に生えた大きなキノコが、
この子の周りにだけ残っていた。
そして何より、生き物が近づかなかった。
草食動物も肉食動物も、
魚や小鳥に至るまで、
この子から距離を保って動いている。
当たり前のことだった。
だが私は、この子が守ってくれているようにも感じた。
近場の食べられそうなものを集め、
この子のそばで、少しずつ口にした。
食べ物も、飲み水も、身の安全も、
この子のそばなら手に入る。
それほど近くにいても、この子は起きなかった。
夢を見ているように震え、
深い深い眠りに落ちている。
苦しそうな顔をする時は、すぐに撫でてやった。
そうすると、唸りは少しだけ収まった。
それから私は、
眠る時以外は、その子のそばにいた。
そうすることが、
何より安全で、安心できたから。
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森へと続く灰の跡ーーそれは、逃げた先の物語。ーー SeptArc @SeptArc
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