森へと続く灰の跡ーーそれは、逃げた先の物語。ーー

SeptArc

第一夜 灰の中の朝

「もっと手際良く動かないか。」

怒鳴りながら管理人は鞭をしならせた。

乾いた音がまだ冷えの残る空気を伝う。

「すみません。もう限界なんです。」

細身の男が足を大きく震わせながら首を垂れた。

「口答えするな。奴隷風情が、身の程を知れ。」

鞭を持つ手が振り上げられた。

ひい、と声を漏らしながら細身の男は地に伏せた。

かわいそうだとは不思議と思わなかった。

こんな光景に、私は慣れてしまっていた。

「大丈夫だ。父さんが持ってやるから、お前はこっちをお持ちなさい。」

父は私の視線を遮るように屈むと、私から木箱を取り上げた。

「今日も頑張っててえらいぞ。今日も父さんのパンを分けてやろう。」

そういうと父は私の手に小さな袋を乗せ、いくべき場所に連れて行ってくれた。

芦色の前髪が視界をちらつく。

そんな生活がもう何年も続いている。

私はもう慣れてしまったが、父はまだ夕暮れ時になると決まった方角を向き、

悲しそうな顔をする。

「ほら、約束のパンだ。」

父は一つだけ渡されたパンを大きくちぎり、私に差し出した。

私はいつも受け取るのを躊躇う。

「気にするな。父さんは大丈夫だから。」

そして父はいつもこう言う。

受け取らなくとも、父はそのパンを食べないことを私は知っていた。

「喉に詰まらせるんじゃないぞ。そうだ、父さんが水を持ってきてやろう。」

そうしていつもと同じ列に並び、父は水を一杯持ってきてくれる。

一人でいる間は周囲を見てしまう。皆この芦毛を気味悪がってからか、

少し距離を置いたところで私たちとの関係を維持している。

寝るための小屋に向かうときは、手を繋いでくれる。

そのとき決まって父はいつも月を見上げる。

「ほら、母さんも見てくれてるよ。」

私は寒さと暗闇が苦手だったので、父の手を引き小屋へ向かった。

記憶に残る母さんの髪色は綺麗な黒で、夜空のような美しさを感じたのを覚えている。

少なくともこんな色ではなかった。

そうして早いうちに眠りにつく。

「いいか、お前は自分のことだけ考えてればいい。

他のことは父さんがやってやる。でもいつかはーー。」

父は何かを呟きながら寝てしまった。私は寒くて父の身に寄った。

私はこの温もりが好きだった。

いつもより肌寒い空気の中、父の体だけが、変わらず暖かかった。

父の懐の中、私も目を閉じた。


ーーーーーーーーーー

あとがき

またまた忌子の物語になります。

「夜に刻まれし名――忘れられた者たちの異譚――」の1話目

「夜雨に追われし獣」を見ていただけた方なら、芦毛のワードに引っかかってくれたと思います。本作はスピンオフとして書いたのですが、

あまりに長く書けてしまったのでエピソードで分けさせていただきました。

第二話も間もなく投稿されるので、興味のある方や続きが気になる方は、

ぜひ作品のフォローよろしくお願いします。


これからもどんどん上げていくので、もしよろしければ、

フォローといいね、称賛していただけると励みになります。

これからもよろしくお願いいたします。

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