第9話 主任はなぜ失踪したのか

 夜というより真夜中、車は自宅へ向けて走っている。ハロゲンの少し黄色い明りが頼りなく先を照らす、これでもハイビームなのだが闇夜に対しては全く貧弱だ。もう一つ恐いのは動物の飛び出しだ。今は平地だからいいけれど、トンネルの出口や先の見えないカーブは特に怖い。

 女は大変に落ち込んでいた。食事をしたらちょっと仮眠して、それから出ればよかったのに、すっかり忘れていた。結構な眠気と気だるさに襲われているのに、真っ暗な道の途中にある駐車場に止める勇気がなかった。


 やっとの思いで街に着いた時、街灯が一つあるだけでもこんなに安心するのかと、久しぶりに安堵を覚えた。ここからはもう目をつぶってでもたどり着ける。潮風のする方へ車を走らせた。

 駐車場に車を止めてエンジンを切ると、へとへとの身体はもう理性では動かず、本能が勝手に動作を促していた。カンカンカンと警告音が鳴っているのも聞こえず、ドアをバタンと閉め、玄関に向かった。何度か扉を開けようとして、我に返った。

 差しっぱなしだった車の鍵を取ろうと車に向かった瞬間、脚がもつれて転んでしまった。ウミネコを押し返す程の強い風が吹き、彼女はそのまま海へ落ちてしまった。濡れた着衣がとにかく重たく、身体はどんどんと沈んでいく。


 ああ、もういいや。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セリング・カウンセ 阿部美春 @beautiful-spring-abe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ