なぜ美少女な幼馴染との結婚を拒否るのか? 魔法学園のモブ教師と生徒だから? いや違う。アイツはヤンデレだから調教もとい指導対象なのだ!

佐々木直也

第1話 調教する気分というか……

「あなたが好きです! わたしと……付き合ってください……!」


 放課後、夕暮れ時の教室。


 まだ残暑が残りまくりの二学期初日にオレ──グレイ・バルディスは、幼馴染であり、受け持ち生徒でもあるユリエル・ルシファに告白されていた。


 もちろん、分かっている。


 これが色恋沙汰という意味での告白だということは。


 なぜなら15年という長い付き合いで、ユリエルの好意に気づくなというほうが無理な話なのだから。


 だから「付き合うってどこに? 今度の日曜日にショッピングでもしたいのか?」なんておとぼけな回答はできないだろう。


 その代わりにオレは……分かっていてもいささか戸惑いながら聞いていた。


「なぜ……オレなんだ……?」


 ユリエルはオレから目を逸らし……頬を赤らめたまま訥々とつとつと答えてくる。


「なんでって……それは……だって……」


 そうしてさらに真っ赤になって、スカートの裾をギュッと握りしめてから、ようやく答えてきた。


「グレイは……優しいし……思いやりがあるし……あと授業も分かりやすいよ? それにいつだって、わたしを気遣ってくれるから……だから……!」


「……そうか」


 まさかユリエルに、そんなふうに思われていたとはな。


 オレとしては、年下の幼馴染だから……例えるなら妹のように可愛がっていたつもりだった。


 そうしてユリエルが魔法学園に進学するのと同時に、オレも同じ学園の教師になったから、その後は教師と生徒、その一線を越えないよう注意していたはずなのだが……


 どうやらオレが気づかぬうちに、一線を越えてしまっていたらしい。


 だからオレは……眼鏡のブリッジを押し直してから答えた。


「ありがとう。モブのオレなんかに、そこまで言ってくれるとはな」


「な、何言ってるのよ……!」


 そうしてユリエルは、頬を赤らめたまま真剣な眼差しを向けてくる。


「グレイはモブなんかじゃないよ! わたしにとってはヒーローで、アイドルでスターで……唯一の男性だよ! ううん、わたしだけじゃない! もう高等部の女の子達は全員グレイに夢中だよ!!」


「……そうか?」


 いやさすがに、女子生徒が夢中というのはあり得ないだろう?


 生徒からは「センセー、ちょっとは体を鍛えないと老後やばいですよ?」とか「ただでさえヒンソーなのに(笑)」とか「あとその無精髭。オシャレのつもりかもしれませんが、手入れしてないのはオシャレじゃないですからね?」とか、散々な言われようなのだ。


 まぁ確かに、髭は剃るのが面倒だから伸びっぱなしなのだが。


 いやそれはともかく。


 どうもユリエルの中で、オレは妙に理想化されているらしい。オレなんて、とくにやりたいこともないから、なんとなく教職についたただの一般人……であればいいほうで、本当は無気力中年なんじゃないかと思うのだが。


 いやオレはまだ25歳だし、中年は言い過ぎか? しかし女子生徒には「中年より老け顔」などと笑われているしなぁ……


 いずれにしても、ユリエルの中にいる『理想のオレ』はなんとかしないとまずいわけだが……


「ユリエル、おそらくキミは現実が見えていない。本当のオレは──」


「そんなことない……!」


 オレが弁明するより早く、ユリエルが一歩近づいてくる。


「わたしはしっかり、グレイのこと見てるよ!」


「い、いやだがな……」


「グレイのこと、なんでも知ってる! だってグレイは、わたしが生まれたときから側にいてくれたから!!」


「し、しかしだとしても……」


「孤児院で一緒に過ごしていたときだって、グレイはたくさんたくさん、わたしを可愛がってくれた!」


「そ、それは妹みたいな……」


「例えばわたしと毎日お風呂に入ってたじゃない! そしてわたしの髪の毛をグレイが丁寧に洗ってくれて、さらにわたしの裸体も、グレイが隅々まで洗ってくれた! そうやってわたしを、心も体も可愛がってくれたじゃない!」


「い、いや……なんだか言い回しに妙な語弊が……しかもそれは幼い頃の……」


「そうして夜はいつも一緒に寝てくれたよね!? わたしが寝付くまで、まだ膨らみかけてもいないお胸をトントンと撫で繰り回して!」


「は、はぁ……!? それは撫で繰り回したんじゃなくて──」


「そしてわたしが寝入ったのをいいことに、パジャマのボタンを一つまた一つと外して──」


「んなことしてないが!?」


 い、いったい何を言い出すんだコイツは!?


 確かに孤児院で過ごしていた頃、オレはユリエルを妹のように可愛がっていて、ユリエルは子犬のようにオレの後を付いて回っていたが……決してそんな、ヤバイ目で見たことはないぞ!?


 オレが慌てふためいているのに気づいていないのか、ユリエルがふっと遠い目になる。


「よくよく考えてみれば……あの頃のグレイは思春期真っ只中……可愛いわたしにムラッとしても仕方がないよねぇ」


「ムラッとしてないっての!?」


「でも今は?」


「今もするわけないだろ!?」


「なんで!?」


「いやなんでも何も!?」


 だからオレは、ユリエルのことは妹的にしか見ていないんだよ! そして今は教師と生徒。であればなおさら──


「いったい、わたしのどこが性的じゃないというの!?」


「なんでそんな話になる!?」


「ほら見てよ! こんな見事に育ったわたしのカラダを! 透き通るような15歳の肌を! そうして宝石よりも魅力的な大きい瞳を!!」


「自分で言うなよ!?」


 だが確かに……


 ユリエルは、紛う方無き美少女だ。


 魔法学園高等部一年どころか高等部中の男子生徒が、ユリエルに注目しているという噂はよく耳にする。


 ショートボブの髪の毛は驚くほど繊細だし、大きくてとろんとした瞳は、どこまでも吸い込まれそうな魅力がある。自称どおり肌も白くてきめ細かく、言われてみれば確かに胸も大きくなった。腰回りが細すぎるのは少々気になるものの、太ももの肉付きがよいことから、病的というわけでもなく至って健康な──


「あ、あの……グレイ?」


 ふと気づくと、ユリエルがその体を少しよじっていた。


「あ、あんまりまじまじと見られると……さすがに恥ずかしいというか……」


「キミが見ろといったんだろ!?」


「分かったよ! なら脱ぐね!?」


「何が分かったんだおまいは!?」


 な、なんだか……どっと疲れてきたな……


 これ以上、放課後の教室にいると……ユリエルのペースのまま、なんだか本当に制服を脱ぎかねないので……オレはいよいよ覚悟を決める。


「ユリエル、話を戻そう」


「え……?」


「キミの告白の件だ」


「……!」


 できればユリエルを傷つけたくはないのだが……やむを得ない。


 だからオレは、喉の奥底から声を絞り出す。


「オレの答えは、ノーだ」


「……え?」


 呆然とするユリエル。硬直したまま、オレの顔を見上げている。


 そんなユリエルに、オレは冷酷なまでに追撃した。


「キミと男女の付き合いは、できない」


 ユリエルが、一歩後ずさる。


「ど、どうして……?」


「どうしても何も、オレはユリエルを、異性として見たことはない」


「なんで……!?」


 ユリエルの悲痛な叫び声。オレは目を背けたくなるが……しかしここで逃げるわけにはいかない。


「なんでわたしを拒否るの!? どうしてよ……!」


 涙目になるユリエルに、だがオレは、どんな言葉をかけていいのか分からず、押し黙るしかなくなっていると──


 ──コンコン。


 不意に、教室の扉がノックされた。


「あ、あの……グレイ先生? 何か……あったんですか?」


 どうやら、オレ達の会話は廊下まで漏れていたらしい。それでたまたま廊下を通り掛かった教師に聞こえてしまったのだろう。


 そうして扉を開けたのは、セラ・ルミリア。


 オレと同僚教員であり、大学時代の学友で、そして──


「──!?」


 その瞬間、オレは一歩飛び退いた!


 正面を見れば、うつむくだけのユリエルの姿。


 だがしかし……


 そのユリエルから、仄暗いオーラがゆらゆらと立ち上がり始めていた!


「ああ……なるほど……そうか……そういうこと、ね……」


 そうしてユリエルは、何事かをつぶやいている!


「ふぅん……そうなんだ……へぇ……」


「お、おい……ユリエル……落ち着け……」


 まずい……まずいぞ……


 もしここでユリエルがしてしまったら……


 彼女の本性をセラに目撃されてしまう!


 だが今のオレでは……魔法発現直前でないと止められん……!


「ちょ、ちょっと……ユリエルさん……?」


 明らかに様子のおかしいユリエルに、セラが近づこうとするものだから……オレは鋭い声を上げる!


「待てセラ! 近づくんじゃない!」


「……え?」


 戸惑うセラと、顔を上げるユリエルは、同時。


 ユリエルの愛らしかった瞳は、今や──


 ──悪鬼のそれと化していた!


「ああそうか! 他に女がいるから、だからわたしの愛が受け入れられないということね!?」


 ドッ──!


 そしてユリエルから、魔力が一気に吹き出してくる!


「ちっ!」


 オレは舌打ちをしてセラに駆け寄った!


「グ、グレイ!? これはなんなのですか!?」


 驚くセラがオレの腕にしがみついてくる。それを見たユリエルがさらなる魔力を発散させた!


「ああそうかそうかそうなんだその女のせいでわたしはグレイに振られちゃったんだそういうことかなら話は早いよねその女狐を殺せばグレイはわたしのものになるわたしだけのものになるよかったよかったわたしが嫌われたわけじゃないわたしが足りなかったわけでもないぜんぶぜんぶその女狐のせいだったんだだったら話は早いよねだってその女狐を──」


「ユリエルさん!? どうしちゃったの!」


「おいセラ!? しがみつくな!」


 驚きなのか怖さなのかは分からんが、オレにしがみついてたら逆効果だぞ!?


 だがセラは、オレの腕から離れようとしない!


 ってそんなことをしているうちに、ユリエルの黒い魔力がいよいよ教室内で渦を巻き始めた!


「……っ! 殺す!!」


 両手をセラに向けるユリエル。


 身を強張らせて、オレにしがみつくセラ。


 オレは、あらん限りの集中力を使って、ユリエルの魔法を解析し続けて──


 そしてユリエルが、呪文詠唱を締めくくる!


「爆雷の咆哮よ! 天を裂き地を穿ち、その厳然たる裁定を執行せよ! 爆雷の──」


強制中断インターディクト!」


 パァン!


「ひゃうっ!?」


 何かが弾け飛んだ音と、ユリエルの悲鳴が重なる。


 その直後、教室中に充満していた魔力は一気に霧散して、ユリエルは尻もちを付いていた。


「な、何をするのグレイ! その女、殺せないじゃない!?」


「殺すんじゃないこの馬鹿!」


「こ、殺すって……?」


「セラ、とりあえず離してくれ……!」


「あ、はい……ご、ごめんなさい……」


 セラが離れると、オレは尻もちを付いたままのユリエルにずんずん近づいていき、ユリエルに手のひらを向けると──


束縛ヴィンクルム!」


 ──と唱え、直後、手のひらから光でできた縄が無数に飛び出す。


「あうぅっ!」


 ユリエルが短い悲鳴をあげたときには、オレはユリエルを簀巻きにしていた。


 そうしてオレは深いため息をついてから……ユリエルを叱り飛ばす!


「まったくキミは! すぐにキレるなといつも言ってるだろ!」


 魔法の縄で簀巻きにされ(ちなみにあの縄は魔力吸引の機能も付いている)、床に転がったユリエルは……涙目でオレを見上げてきた。


「だってだって! あの女、いつもグレイを付け狙ってるじゃない! だから今度こそ引導を渡そうと──」


「渡すんじゃない! そもそもセラはただの同僚で元学友だ!」


 背後からなぜか「うぐっ……」というセラの呻き声が聞こえてきたが、今はそれどころじゃないので、オレはユリエルをさらに叱りつけた。


「とにかく! キミはただでさえ魔力量が多いんだ! 少しは自制しろ! そうやってすぐキレているうちは、手の掛かる妹くらいにしか思えないからな!」


「ならなら! 手が掛からなくなったら結婚してくれる!?」


「なんでそうなるってか話が飛躍している!」


 と、まぁ……


 こんな感じで……


 ユリエルの好意を素直に受け取れないのは、幼馴染だからとか、妹にしか見えないからとか、教師と生徒だからとかそれ以前に……


 すぐ病み化するからなのだ……!


 つまりオレとしては、コイツが暴走しないよう常に目を光らせておく必要があり、だから色恋沙汰どころではないのだ!


「オレにとってキミは、指導対象でしかないんだよ!」


「なんでよー! すでに一生を掛けてグレイだけに愛を誓ってるのに、どぉして!?」


「重過ぎだ!?」


 いやこれは、もはや……指導対象というか……


「猛獣を調教する気分というか……」


「えっ! なになに!? グレイってそんな趣味が!? つまり今わたしは調教されて──」


「違う!? キミの余りある魔力を吸引しているだけだ!」


 簀巻きにされながらも、なおじたばたするユリエルを見て……


 オレはため息をつくしかないのだった……

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