第4話 友情の芽生え


朝の光が森の木々を透かして差し込む頃、

セリオ王子はリアナと共に小川のほとりを歩いた。


「昨日は少し険悪でしたね」王子は少し

照れくさそうに笑う。リアナは川の水面を

見つめ、静かに頷いた。


「ええ。でも、理解できる部分もありました」

彼女の声は穏やかで、王子の胸に柔らかく

届く。森の奥で、互いの価値観の差を認め

始めた二人は、初めて言葉を交わす安心感

を覚えていた。


小川のせせらぎに耳を澄ませながら、王子は

思い切って口を開く。

「君の考え方……森の掟に従う姿勢、尊敬します」

リアナは驚き、少し頬を赤らめた。


「尊敬……ですか?」彼女は小さな笑みを

浮かべる。王子の言葉は、文化や価値観の

壁を越え、心に届いたのだ。


「はい。僕は王族として、都の論理に縛られ

すぎていた。君のように森の声に耳を傾ける

姿勢は新鮮で……心地いい」


リアナは少し顔を背け、川面に映る自分を

見つめた。「ありがとうございます……でも、

王族にそう言われると少し恥ずかしいです」


セリオは微笑み、彼女の肩越しに森を見渡す。

「森は君のものだ。僕はその一部に触れる

ことができる……それだけで十分です」


二人の間に、言葉にしなくても通じ合う感覚が

芽生えた。森の木々や鳥たちも、まるで

二人を祝福するかのようにざわめく。


「ねえ、セリオ」リアナがふと口を開く。

「森の中で人間とこんなに静かに過ごす

のは初めてですか?」


王子は笑いながら頷いた。「そうですね……

でも、君といると不思議と自然に馴染む

感じがします」


リアナは目を細め、森の匂いを吸い込む。

「森は、人と心を合わせる時間をくれます」

その言葉に、王子は深く頷く。互いの価値観

の違いを乗り越え、少しずつ心が近づいて

いる実感があった。


小川沿いの小道を歩きながら、リアナは王子に

森の植物や動物のことを教える。王子は

熱心に聞き、時折質問を返す。知識の交換を

通して、二人の間に自然な笑顔が増えた。


「ここには珍しい鳥がいるんですよ」リアナが

指を差す。緑色の羽を持つ小鳥が枝に止まり、

森に微かなさえずりを響かせる。


「本当だ……見たこともない色だ」

王子は感嘆し、心の中で森の不思議さに

魅了されていた。リアナの目は生き生きと輝き、

その光景は王子に新たな感動を与えた。


午後になり、森の小さな広場で休憩を取る。

王子は少しの間、リアナの話に耳を傾ける

だけでなく、自然の中で静かに佇むことの

楽しさを感じた。


「君と話すと、都での騒がしい生活を忘れる」

セリオは小声でつぶやく。リアナは微かに

笑い、王子の肩を軽く叩いた。


「それは嬉しいことです。森も、きっと

あなたを歓迎しているでしょう」


二人はしばらく黙って森を見つめる。沈黙は

もはや重くなく、互いを理解するための静かな

時間になっていた。友情が、ゆっくりと育まれる

瞬間だった。


夕方、森の奥から小さな光が差し込み、

木々の葉が金色に輝く。王子は思わず息を

呑んだ。リアナも同じ光景を見て、静かに

笑った。


「今日一日で、随分近づけましたね」

王子は笑顔で言い、リアナも頷く。

二人はまだ互いに恋心を意識してはいなかった

が、友情と信頼という確かな絆が芽生えて

いたのだ。


森の奥深く、日が傾くと影が長く伸び、

小鳥たちが巣に戻る。二人は手を取り合う

わけではないが、歩調を合わせ、並んで

小道を戻る。その距離感に、安心と尊重が

含まれていた。


「明日も森を案内してくれますか?」王子は

少し照れながら尋ねる。


「ええ。森はまだあなたに見せたいものが

たくさんあります」リアナは笑みを浮かべる。


二人の視線が交わる。言葉は少なくとも、

互いの心は確かに通じ合っていた。

友情は芽生え、信頼は形を取り始めた。


森の精霊たちも、木々も、二人の歩みを

優しく見守る。王子とリアナ、異なる文化

の二つの存在が、初めて心を重ねる一日。

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