第2話 初めての危険


森の奥深く、風が低く唸る午後、

セリオ王子は再び森の道を歩いていた。


「今日はリアナの案内で進む……」

王子は小さな声でつぶやき、周囲を

見渡す。先日の出会いから数日、森の

中の道を覚え、多少の安心感があった。


だが、自然の精妙な力は、人間の足を

試すかのように道を絡め取る。枝が顔

に触れ、足元の苔が滑る。セリオは慎重

に進むが、心の奥に高鳴る期待も隠せ

なかった。


「ここを曲がると、湖に出ます」

リアナの声が後ろから響いた。柔らかく

透明な声に、王子は振り返る。銀色の

髪が光を反射し、森の緑に溶け込んで

いた。


「湖ですか……楽しみです」

セリオは少し笑いながら答える。だが、

その瞬間、森の静けさを裂くように大きな

音が響いた。木が倒れるような衝撃。


「気をつけて!」リアナは王子の手を

掴むと、素早く茂みの陰へ二人で身を潜め

た。心臓が激しく打つ。何者かが森に

侵入している――人間の気配だ。


王国の追手か、それともただの森の野獣か。

セリオは息をひそめ、周囲を観察する。

数人の鎧姿が木々の間を走るのが見えた。

王国の兵だとすぐにわかる。だが、目的は

不明。森を荒らす気配が強く漂っていた。


「ここは……隠れましょう」リアナは低く

囁き、王子の肩に手を置く。その手の温もり

にセリオは少し驚いた。王子でありながら、

こんなに人の手のぬくもりに安心感を覚える

ことがあるのか。


「どうして王国の兵が?」王子は疑問を

口にしたが、すぐに思い当たることがあった。

第1王子オルデンが、弟の自由を制御するため

森の探索を監視させたのかもしれない。


「でも……危険です」リアナは鋭く言った。

「逃げるより、森の力を使うべき」


リアナは軽やかに茂みを縫うように動き、

セリオを後ろから引き寄せる。枝や蔦が絡む

場所でも、彼女の動きは自然で滑らかだった。

王子はその優雅さに見とれつつも、必死で

ついて行く。


森の奥に、古い岩の小さな洞窟があった。

「ここに隠れて」リアナは指示し、王子を

洞窟に押し込む。息をひそめ、外の気配を

探る二人。鎧の音が近づき、遠ざかる。


「もう少し……」リアナは森の言葉を口に

するように低く呟いた。その声に応じ、森の

木々が微かに揺れ、倒れかけの枝が遮蔽に

なった。セリオは驚き、同時に感謝の念を覚える。


「森が……助けてくれたのか?」王子は

小さな声で言う。リアナは頷き、柔らかく

微笑む。


「森は生きています。私たちを守ることも

あります」彼女の言葉は静かだが、確信に満ち

ていた。


鎧の足音が遠ざかると、二人は洞窟を出る。

セリオの胸はまだ高鳴り、手が少し震えていた。

リアナは王子の腕にそっと触れ、振り返る。


「大丈夫ですか?」

「ええ……君がいてくれたから」王子は答える。

その言葉に、リアナは僅かに笑った。


森の中の危険は二人の距離を一気に縮めた。

信頼と、まだ形のない感情。胸の奥に小さな

炎が灯る。王子は初めて、守るべき対象では

なく、共に戦う仲間としてリアナを感じた。


午後の光が木漏れ日となって差し込み、森の

葉がきらめく。セリオは目を細め、森を見渡す。

「ここで、何かが始まる――」


リアナは静かに頷き、王子の隣に立った。

二人の冒険は、まだ序章に過ぎない。森と共に、

未知の試練が、彼らを待ち受けているのだ。

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