常夜灯
「お風呂入ってくる」
今の今まで私とゴロゴロしてダラダラしていた広井は急に立ち上がるとそう言って足早に部屋から出ていった。
いつも私の部屋にいるときはうちのシャワーを使うのに、今日は何故か自分の部屋に帰るらしい。
広井の行動はたまによくわからないので特に深く考えずに横になったままテレビをぼーっと見続けた。
20分ほどしてクイズ番組が佳境を迎えた頃、隣の部屋からドライヤーの音が聞こえてくる。
いつも自然乾燥で風呂から上がってしばらくは濡れたままの広井が珍しい。
サボりがちなヘアケアに突然目覚めたのだろうか。
ドライヤーの音が止んだと思うとバタバタと戸を開けて閉める音が聞こえる。
すぐにうちの玄関のドアが開き、風呂上がりの広井が姿を現す。
まだまだ寒いというのに、上はTシャツ一枚だ。
「風邪ひくぞ」
広井は声をかけた私を無視してズカズカ部屋まで歩を進め、畳んである布団に手をかけた。
敷布団を広げて掛け布団もその上にかけると、畳んで折り返して枕を乱雑に頭元に投げた。
パッパと用意した布団の上に広井はこちらを向いて正座で座り、私を真っ直ぐに見つめてくる。
「終わったよ」
「え?」
よく意味がわからなくて聞き返してしまう。
今日は早く寝たくて寝支度を急いだということだろうか。
「終わったよ」
先ほども聞いた台詞を広井が繰り返す。
思わず目を皿にして私を見据える広井をじっと見返す。
私の脳裏に先日広井と交わした約束がよぎる。
(終わったら……)
それは、つまり。
身体を起こすと手元を見ずにリモコンでテレビの電源を消し、布団の上に座る広井に近づいて両肩を掴む。
「広井……」
腕の中で膝立ちの私を広井が静かに見上げている。
私が今するべきこと、それは。
「私もシャワー浴びてくる」
急いで立ち上がって棚から着替えを取り出して聞こえた「待ってる」の声を背にバスルームに飛び込んだ。
シャワーから出る温水を浴びて必死に自分に落ち着け、落ち着けと念じる。
払っても払っても先ほどの布団に座る広井の姿が浮かんでくる。
どんどん増殖する頭の中の広井に埋もれそうになりながら、念入りに身体を擦った。
バスルームから出て部屋に戻ると広井は膝を抱えて座っていた。
先ほどは真っ直ぐ私を見ていたのに、今は視線を畳に落としてこっちを見ない。
「髪乾かすからもうちょっと待ってて」
声をかけると無言のまま頷きだけで返してくる。
ドライヤーを手に取り、広井に背を向けて温風を髪に当てる。
髪の水気はすぐには飛ばず、気持ちだけが逸っていく。
髪が短ければその分早く乾くのに、とさえ思う。
焦りでいつもよりセカセカとあちらこちらに風を当てていると背中に重みがのしかかった。
反射でドライヤーのスイッチを切り、振り返ると間近に広井の顔があるので驚く。
「まだ?」
こちらを覗き見る重たげな三白眼に鼓動が跳ねる。
熱を帯びた視線が私に突き刺さる。
引き寄せられる力に逆らえず、唇を重ねた。
一度だけでなく、二度、三度と繰り返す。
キスをするようになって、まだそれほど時間を重ねたわけではないが、まるでこうするのが当たり前のように思える。
「有沢」
離れたタイミングで広井が声を出す。
「電気って消したほうがいいかな?」
至って真面目にそう聞いてくるから私も真剣に考える。
「明るいのも嫌だけど、真っ暗も見えないから嫌かも」
「見たいの?」
「見たいよ」
「じゃあ」と広井が立ち上がり頭上の電気の紐を二度引っ張ると、部屋にはオレンジ色の常夜灯のぼんやりとした灯りが残る。
「これでいい?」
「うん」
立ったまま聞いてくる広井の腕を引くと、そのままストンと私の前に座る。
外から大きなバイクの音が聞こえて、遠ざかっていく。
目の前の広井に手を伸ばす。
Tシャツの裾に両手を入れると、薄い脇腹にあたる。
そのまま上にスライドして肋骨を通り過ぎて親指に柔らかな感触を感じた途端、両腕を掴まれる。
「がっつきすぎ」
「つけてないの」
無視して聞くと広井は顔を逸らす。
「そりゃそのつもりで来たし」
わずかに残った理性もどこかに飛んでいく。
こちらに無防備に晒した首にキスをする。
少し前に私が残した傷は残っていない。
同じ箇所に唇を当てて吸う。
今日は違う痕を残したい。
そのまま首を舐め上げると掴まれた両腕が解放された。
ゆっくりと布団の上に倒れ込んでいく広井を逃さないように覆い被さる。
両手を肋骨から膨らみへと移動すると広井の身体が一瞬ビクリと跳ねた。
控えめな膨らみの真ん中で主張する別の固さが、広井の熱を伝えてくれる。
「……有沢」
人差し指でそれを転がすと浅い呼吸で名前を呼ばれる。
広井の細い腕がトレーナーの裾から入り込み、私を抱きしめるように背中に回され、ホックが外された。
そのままするりと胸に落ちてきた広井の指が、私が広井にしているのと同じ箇所を刺激する。
呼吸が全速力で走ったあとのように浅くなる。
声が抑えきれずに漏れ出る。
瞬間、高校生の広井が頭に浮かぶ。
尖っていたけれど、二人きりのときは優しくて、広井と過ごす時間が好きだった。
今は履かないスカートの広井が、私を呼ぶのが好きだった。
今、私の目の前にいる広井があの頃の広井と重なる。
キスをする。
深く深く、溶け合うように舌を捩じ込む。
呼吸ができない。
いつ吸って、いつ吐けばいいのかわからない。
脳がビリビリと危険信号を発する頃、口を離す。
私のものか、広井のものかわからない唾液が糸を引く。
暑い。
トレーナーを脱いでぶら下がっているだけになっていたブラも外してそこらに放る。
広井も私の下でTシャツを脱ぎ、脇に投げる。
そしてその勢いのまま、私のスウェットパンツに手をかけてくる。
「有沢」
「うん、うん」
広井が下着ごと脱がそうとしてくるのに逆らわず、足を上げて全て脱ぎ切ってしまう。
私を脱がせた広井は自分のスウェットにも手をかけ、そのまま足の先まで下ろして同様に全てを私に晒す。
隔てるものは全てなくなり、何も着ていない私と何も着ていない広井がいる。
指先で広井の白い腹をなぞり、そのまま下腹部を通りすぎて、薄い茂みの向こう側に指を這わせる。
手の甲に当たる太ももの汗とは別の液体が指先を濡らす。
「広井、すごい濡れてる」
「い、わなくて、いいから」
絶え絶えな広井の指が、私の同じ場所に伸びてくる。
「ありさわもじゃん」
「ん……」
広井の指の腹が隆起した箇所を擦る。
私のそこから溢れ出したものが潤滑油となり、広井の指を滑らせる。
「きもちいい?」
頭を持ち上げた広井の声が耳元で響く。
「やば、い」
「自分で腰動かしてる」
広井の指を擦り上げるように腰が跳ね上がってしまい、止まらない。
「ひろ、いも、きもち、よく、するね」
広井に当てた指を自分の腰の動きに合わせて動かす。
耳に当たる広井の息が段々と荒くなり、声も漏れ出てくる。
「ありさわ……」
広井の空いた手が布団をぎゅっと握りしめるのが見える。
部屋には私が広井を呼ぶ声と広井が私を呼ぶ声が響き、私に当たるリズムと広井に当たるリズムが同調する。
臍の少し下、奥の方から締め付けるような何かが来る。
身体の内側から外側に飛び出そうな感覚がどんどん大きくなり、噴き出すような感覚と共に腰を跳ねさせた。
二度、三度と限度を超えた浮遊感が襲ってきて、目の奥に力が入る。
広井の太ももが私の腕を挟み、同じようにぎゅっと縮こまった。
気付かずに止めていた息を吐き出し、広井の隣に倒れ込む。
枕に頭を預けた広井も肩を上下させている。
「ここ、痕になってる」
広井の首の赤くなった箇所を指差す。
「……有沢はすぐマーキングする」
「自分の持ち物にはきちんと名前を書くタイプだったもんで」
広井が呆れたように微笑んで、私の額にキスをした。
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