追放王妃リュシエンヌ、彼の地で復讐の牙を研ぐ
てつ
第1話 辺境の血へ追放された美しき王妃
即位の鐘が鳴り響いたその日、王都は白い花で満ちていた。
若き国王アルベルト二世は、侯爵家の令嬢リュシエンヌを王妃として迎え、
民衆はその美貌と気品に歓声を上げた。
リュシエンヌは慎み深く、学問と礼節を重んじる女性だった。
政治の場では一歩引きながらも、王の助言者として確かな知性を示していた。
だが、即位から半年も経たぬうちに、宮廷の空気は微妙に変わり始める。
夜会に招かれる若い令嬢が増え、王は王妃のもとを訪れる頻度を減らした。
リュシエンヌの耳にも、噂は否応なく届く。
「国王陛下が、ヴァレリー伯爵令嬢を寵愛している」
「いや、最近はローザ嬢だ」
最初、王妃は信じなかった。
だが、ある夜、回廊の影で目にした光景が、すべてを否定できなくした。
国王は別の令嬢の手を取り、親密に囁いていたのだ。
誇り高き王妃は、黙って耐えることを選ばなかった。
「王妃の座を脅かす者は、排除されるべき存在」
それは彼女自身を守るためであり、王権の秩序を守るためでもあった。
だが、その動きは王に筒抜けだった。
アルベルト二世は、怒りではなく恐れを抱いた。
――この王妃は、いずれ自分すら縛る存在になる。
彼は先手を打つことを決める。
数日後、
王妃は突然、呼び出された裁問の場で、王家の宝珠を盗み、
反逆者と通じたという罪を着せられた。
弁明の機会は与えられなかった。
「私は何も知りません!知らないのです!陛下、どうかお聞きください!!」
その声は、冷たい宣告にかき消される。
「王妃リュシエンヌを、ノルディア州へ追放する」
白百合と称えられた王妃は、その日、すべてを奪われた。
王妃リュシエンヌが辺境ノルディアに送られた夜、
雪は音もなく降り積もっていた。
それは祝福ではなく、埋葬のための白だった。
王都で彼女が失ったものは、王妃の冠だけではない。
名誉、未来、そして「信じる心」だった。
砦は荒れ、兵も老兵ばかり。
だが彼女は泣かなかった。嘆かなかった。
「――生き延びるのではない。奪い返すの」
まず彼女が手にしたのは剣だった。
辺境伯配下の傭兵団長に頭を下げ、
代価として自らの血を差し出す覚悟で稽古を乞う。
剣は重く、腕は裂け、何度も何度も血を吐き、よごれた大地に叩きつけられた。
それでも立ち上がった。
次に彼女は魔術を学んだ。
かつて宮廷で「王妃に不要」と切り捨てられた知識を、
ここでは武器として磨くことにした。炎、結界、支配の術。
王都では禁忌とされた系統を、彼女は躊躇なく選んだ。
一年後、辺境に噂が流れ始める。
――追放された王妃が、兵を集めている。
二年後、彼女は私兵を持った。
三年後、正式な騎士団を設立する。
名を「白百合騎士団」とした。
かつて自らの異名であり、純潔の象徴だった花を、血に染めるために。
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