神代逆光の詩
@axlglint_josyou
Chapter1「不完全の楽譜・壱」
「アタシよ」
「あら、ルビィ様。今日も送ってくださったのですね」
カミシロのとある一軒家。
そこにルビィは訪れた。
まるで顔パスであるかのような一言を放つルビィだが、対応した女性はそれをいつものように受け入れる。
「今日もありがとう、ルビィ様」
「ロウド、いつも言ってるけどアタシが送らなきゃアタシ困るから送ってんのよ」
そのルビィの隣には、ロウドと呼ばれた少年がいた。
10代前半の容姿のルビィより、1個か2個歳下の男の子であり、その少年とルビィは手を繋いでいた。
この家はロウドの家であり、出迎えた女性はその母親だ。
「それでも、僕は目が見えないから。
こんなこと、当たり前じゃないし」
「・・・フン」
ロウドという少年は盲目だった。
その少年の無垢な一言はルビィには少しばかり苦手だった。
悪いようには感じないから、やめろとも言えないルビィは鼻を鳴らすばかりだ。
「でも、いいんですか?とても有難いのですが・・・」
「アンタ達ばかり目にかけていいのか、でしょ?
アタシの趣味よ、ほっときなさい」
ルビィといえば、このカミシロにおいて知らぬ者はいない重要な人物である。
聖域の遣い、とかつて称された一人。
聖樹の神子であるロアから分かたれた一人。
神聖な存在であることは、事件の前後に関わらず変わらない事実であり
そんな一人にここまで気にかけて貰うのは、もはや罪悪感が芽生える程だが
それをルビィは一蹴する。
好きでやってる事だから気にするな、と。
「命の恩人だから、と言いたいでしょうけど
こっちも個人的な借りがあるのよ。アンタ達が、悪いって話じゃないけどね」
ロウドという少年は、赫い星を巡る戦いで戦場になってしまった街で取り残された少年だった。
目に光を映さぬ彼は当然、どこで何が起きてどこに行けばいいのか分からず彷徨っていた。
街で制御不能になった巨人の一撃が少年に襲い、それをルビィが庇ったのが始まり。
ロウドやその身内からすれば、紛うことなき命の恩人。
しかしルビィにとっても、ある意味でいえば恩人、或いは自身の在り方をちょっと優しくさせた原因とも言える。
「ちょっとムカつくけど、ね・・・」
誰かの為に命を懸ける意味を知った。
あの場が片付いたとき、少年から花を渡されお礼を言われた。
それまで悪、怒りなどを司り、優しさなど受けられなかった少女にとってはあまりに大きな出来事だった。
あの日、初めて優しさで泣かされた。
盲目であるロウドには知る由もない話だが
何にせよ、ルビィは言葉にはしないものの
ロウドは己の価値観を大きく変えた、ムカつきつつも居心地のいい対象である。
「・・・ルビィ様?」
「───いいのよ、そんなことは。
それにアタシは、アンタのアレを聞きに来たの」
ロウドとその母親から、要領を得ない一言が漏れたルビィに疑問符を浮かべたが
ルビィは強引に話を変える。
ルビィがロウドを送迎する理由の一つでもある。
そのアレを、ルビィは要求する。
「・・・ええ、勿論。それで少しでもルビィ様にお返し出来るなら、喜んで」
ロウドの母親は微笑む。
これも、いつもの事なのだろう。
これもまた、当たり前のように引き受けた。
とある一室、そこでは安らかなピアノの音が響く。
それを弾くのは、ロウドの母親。
ソファーにはロウドとルビィが並んで座り、紅茶を飲みながら、その音楽を楽しむ。
知らない曲だった。
カミシロ内外問わず、ルビィはこの音楽について知らない。
この一家にのみ伝わる曲だった。
この曲は不思議だ。
知らないのに、何故か懐かしさを覚える。
心地よくて、眠りにいつも誘われる。
けれどもっと不思議なのは
その曲はいつも、続きを匂わせて終わる。
曲の締めが中途半端、というべきだろうか。
ロウドの母親の腕ありきなのだが、それを差っ引いてもかなり勿体ない曲だった。
ウトウトと夢に落ちそうになったタイミングで、中途半端に終わり目が覚める。
人の家でソファーで寝落ちずに済むのは良いが、どうも消化不良になったルビィは一度尋ねた事がある。
『なんでその曲、終わりが中途半端なのよ』
あまりの違和感から、終わりが中途半端だと断定した口ぶりに
思わず困ったように笑みを浮かべたロウドの母は楽譜を見せた。
『・・・この楽譜、途中までしかないのです。
たった一つの楽譜だったのに、最後のページが無い。
なのでいつも、アレンジして終わらせてるのです』
ルビィは音楽による知識もあり、確かにこの曲には
簡単なアレンジだったので、どのように締めたのかも直ぐに理解出来た。
そしてロウドの母親はピアノが上手い。
どうせなら記憶を頼りに、最後の部分を作曲してつなげればいいのにと思ったが
先回りして彼女は、憂いの顔を浮かべて語る。
『・・・このたった一つ受け継いだ楽譜を、汚したくないのです』
ルビィは、何も言えなかった。
ロウドと出会う前・・・もっといえば、島が呪われていた頃なら無遠慮に、無慈悲に何か言ったかもしれないが
とかく今のルビィには、自分が言いたいことは野暮になると
ハッキリ心で理解してしまった。
(・・・・・・あ、今日はちょっとヤバいかも)
そんなことを思い出しながら聞いていると
ルビィはいつも以上に眠くなってきた。
ロウドはとっくに寝落ちている。
盲目な彼はただの少年であり、歩き疲れもあってか直ぐに寝てしまう。
ルビィは曲の中途半端な終わりに助けられて、その場はルビィは起きて解散となるのがいつもの流れなのだが───
(ホン ト に ね む い )
思考が鈍り、意識が沈む。
抗おうという心すら呑まれる。
その日、はじめてルビィは
中途半端な曲の終わりにたどり着く前に
ロウドの家のソファーで寝落ちた。
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