初詣に行ったら神様が直接願いを叶えようとしてくれた件

無月兄(無月夢)

第1話

 最近は、現金でなく電子マネーで支払うことも多い。

 それは、支払う相手が神様でもそうらしい。


 高校一年の冬。

 私、角野梨紗が初詣に来た神社では、賽銭箱にQRコードの描かれた板がくっついていて、それを使って支払いできるようになっていた。


「ちょうどいいや。初詣にきたのはいいけど、財布に小銭がなくてどうしようって思ってたんだ」


 お札を丸ごと入れるか両替をするかで迷ってたけど、電子マネーで支払えるなら問題解決。

 幸い、私のスマホはP○yP○yをたっぷりチャージしている。


 QRコードを読み取り、いざ支払い。

 けど、寒さのせいで手がかじかんでいたのかも。スマホを持つ手が、うっかり滑ってしまった。

 スマホはそのまま、下にある賽銭箱の中にスルリと入っていく。


「あっ、しまった!」


 こんなことになるなんて、新年早々ついてない。

 どうしよう。神社の人に事情を話して取り出してもらおうか。

 そう思った、その時だ。


「そこな娘よ、偉いぞ!」


 突然そんな声が聞こえてきて、神社の奥がピカーッと光る。

 なんだと驚く暇もなく、光の中から、変わった形の着物を着た女の子が現れた。


「ワシはこの神社の神様じゃ。チャージしている電子マネーをスマホごとお賽銭にするとは見上げたやつ。出血大サービスで、神様自らお礼に来てやったのじゃ」


 えっ、なに? 神様ってこんな軽いノリで出てくるものなの?

 見た目的にはとても神様って感じがしないんだけど、そこは最近の流行りに合わせたのかな?

 あと、『のじゃ』とか言うキャラなんだ。


 これには、周りの参拝客もびっくり。

 みんなスマホを向けて写真を撮っていた。


 まあ、神様うんぬんはとりあえず置いておこう。それより問題は、このままじゃせっかくチャージしたP○yP○yが、丸ごと神様にとられかねないってこと。


「あの。実はそのスマホ、間違って落としたんです」

「なんじゃ、そうなのか。じゃが安心せい。ちゃんと金額分のご利益は授けてしんぜよう」

「いや、ご利益はほどほどでいいから。スマホを返して。あとP○yP○yから抜き取る金額もほどほどにしてください」

「そう言うな。このP○yP○y徴収システムを導入するのも安くはなくての。ハッキリ言ってこの神社は赤字なのじゃ。このチャンスに少しでも稼いでおかなければ」

「知りませんよこの神社の事情なんて! だいたい、そうまでして叶えてほしい願いなんてないですから!」


 神様の力がなんぼのもんか知らないけど、願いを言わなければ叶えようがないでしょう。

 すると神様。賽銭箱に手をかざして「えいっ!」と声をあげる。すると、中から私のスマホがフワーッと浮き上がって神様の手の中に飛び込んできた。

 神様ならではのスーパーパワー的なやつ? 周りからは驚きの声があがり、スマホのシャッター音がますます激しくなる。


 私も思わず拍手するけど、感心していられるのはそれまでだった。


「娘よ。お主のスマホの中身を見れば、望む願いなんぞだいたい想像はつく」

「ふぁっ!?」


 神様、今なんと!?

 まさかまさか、うら若き乙女のスマホを見る気ですかあなたは!?

 そんなの絶対ダメーっ! これは、スマホを持つ人なら誰もが共感するだろうけど、その中にはとても人には言えないあーんな秘密やこーんな秘密が詰まってるの!


「神様、プライバシーの侵害ですよ! あと周りの人たち、どさくさに紛れて聞き耳立てない!」


 声をあげたおかげで、周りの人たちはわざとらしく咳払いしながら、そんなつもりじゃないんですよ感じで白々しく目を逸らす。

 ただし、神様はそうはいかない。


「我は神なので人間のルールの適用外じゃ」

「酷っ! 神は神でも、邪神の部類じゃないですか!」


 このままじゃ、P○yP○y全額とられるばかりか、私の誰にも言えない秘密の数々もバレてしまう!

 初詣客の中に、神殺しの剣的なものを持ってませんかーっ!


 大慌てになる私の目の前で、神通力みたいなスーパーパワーを使ってスマホのセキュリティロックを解除した神様が、いよいよ中身を見ようとする。

 やめてぇぇぇぇぇっ!


 けどその瞬間、そんな神様の頭に、勢いよく拳が振り下ろされた。


「痛っ! なんじゃいきなり!」


 殴られた頭を押さえながら、拳を振り下ろした相手を睨む神様。

 そんな、恐れ多くも神様を殴ったのは、一人のイケメンな男の子だった。私の、知っている人だった。


「えっ? 桐原くん? どうしてここに?」


 彼は、私と同じクラスの桐原圭介くん。

 イケメンで優しくて、女子の間では人気のある男子だ。

 かくいう私も、桐原くんを好きな女子の一人。クラスの係や学校行事で一緒にいる機会が多くて、気がつけば好きになっていた。


 神様の持ってるスマホの中にある、あーんな秘密やこーんな秘密も、桐原くんに対する思いがほとんど。もしかしてこれが、神様のご利益!?


 と思ったけど、神様は頭を抑えて痛がってるし、なんか違うかも?


 すると桐原くん。私に向かって大きく頭を下げてきた。


「角野、うちの神様が迷惑かけて悪かった」

「な、なんで桐原くんが謝るの? それに、うちの神様って?」

「この神社、俺の家なんだ。つまりこの神様は、俺の家の関係者ってこと。時々こうして現世に現れては人の願いを叶えようとするけど、とんでもなくズレていて、面倒事を引き起こすこともあるんだ」


 そんな神様、大丈夫なの?

 というか、時々現世に現れるって、神様ってそんなにフットワークが軽いものだっけ?


「なんじゃ圭介。せっかくの金ヅル──いや、大量のお賽銭をくれた奇特な者の願いを叶えてやろうというのに」

「いいから、さっさと角野のスマホを返せ。それから、参拝客のことを金ヅル言うな」


 そうして桐原くんは、神様からスマホを取り返し、私に返してくれた。

 とりあえず、私にとってはこれで一件落着。

 なんだけど、桐原くんはスマホを返してそれで終わりってわけにはいかなかったみたい。


「角野、本当にゴメンな。お詫びと言っちゃなんだけど、屋台に並んでいるもの、なんでも奢るから」


 そう言って、神社の周りに並んでいる屋台を指差す。この神社、お正月期間は、色んな食べ物の屋台が並ぶんだよね。


「す、スマホも返してもらったし、そこまでしてくれなくてもいいよ」

「いや。それじゃ俺の気が収まらない。頼む、何かさせてくれ」


 そうして、結局私は桐原くんに屋台のところまで連れていかれ、焼き鳥とフライドポテトとたい焼きをご馳走になった。

 ここまでしてもらっていいの?


 すると桐原くん。ポツリと、こんなことを言う。


「本当に、迷惑かけたな」

「えっ? いやいや、桐原くんが謝ることじゃないし、こんなにしてもらうなんて、むしろありがとうだよ!」


 スマホを落とした時は新年早々ついてないって思ってたけど、好きな人にこんなことしてもらうなんて、最高なんだけど!


「いや。実は……神様が角野にあんなことしたの、俺のせいかもしれないんだ。俺、神様の前でポロッと言ったんだよ。今年は角野ともっと仲良くなれたらいいなって。多分神様は、その願いを叶えてくれようとしてたんだ」

「へっ……?」


 それって、いったいどういうこと? 私と仲良くなれたらって、いったいどうして?

 ごめんと言う桐原くんの顔は、なぜか真っ赤で、とても恥ずかしそう。


 その時、私のスマホがピロンと鳴って、メッセージが送られてきた。


『どうじゃ。言った通り、ご利益を授けてやったぞ。お主と圭介、二人分のな。圭介は奥手じゃから、最後のひと押しはお主がせい。神様より』


 神様、私たちの会話、聞いてるの? 私の連絡先、いつの間に知ったの!?

 いやいや。そんなことより、せっかく神様がくれたチャンス。逃すわけにはいかない。


「え……ええと、桐原くん。神様が叶えてくれようとした願いは、桐原くんのものだけじゃないと思う」


 そうして私は、桐原くんに、自分の願いを告げる。

 再びスマホが鳴って、神様からお祝いのメッセージが送られてきたけど、それを見るのはもう少し先の話だった。

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初詣に行ったら神様が直接願いを叶えようとしてくれた件 無月兄(無月夢) @tukuyomimutuki

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