やじるし商店街の国境

@iroak

第一章

1-1.燃えるゴミの日

友人たちから見て、何か前世でよほど悪いことをしたの?と笑われてしまう程度には、この数年のわたしは散々だった。


人から言われて気が付くというのも情けない話だけれど、人は渦中にあると、自分の体感はどこかに忘れてしまうものらしい。


「今ですらそうだもの。」


最近ため息と白髪がどうにも多くて困る、とつぶやきながら、まだ朝5時だというのに、本日何度目かの大きなため息をつき、ゴミ袋に「やじるし町3丁目」とマジックで書き込む。


今日は、燃えるゴミの日。わたしがこの間まで住んでいた街では、燃やせるゴミとして、燃やせるものはおおらかにゴミ袋に投げ込んでも許される鷹揚さがあったけれど、ここはそうでは無いらしい。


生まれてから、学生を終えるまで住んでいた土地。「ふるさと」、「地元」と聞いたら真っ先にこの街を思い出す。しかしそこを離れてからも同じだけ年月が経ってしまった今では、そうしたローカルルールはもはや、知らない街と変わらない。


燃やしてしまいたいものは、沢山ある。


社会に出て初めて働いた職場で、若い時にうっかり成果をあげた。


そこからずっと、成果を出すのは当たり前、リスクと責任はわたし一人に。前方の敵に対処していたら、横から矢を射られ、後方から切りつけられた、あの職場。


失敗した角煮みたいな、脂だらけのあの管理職は燃やすだけでは気が済まない。結局、あの脂身を燃やす前に、わたしのほうが心身を壊して、逃げるようにして、やめた。


10年前に結婚した相手とは、結構上手くやっていたと思う、最初は。


周りの目や声や評価を気にしがちなわたしと正反対の、ルールや成果や社会のしがらみを気にしない人。同期の中で、彼はいつも自由で、飲み会の集合時間や、みんなでこうしましょうという暗黙の了解を気にしてなくて、それに憧れたところもあった気がする。


はみ出した部分をわたしがフォローしているうちに、彼は気がついたらうちに住み着いていた。


年月が経つとどうしても、優先順位をずっと夫にしたままにはできないことが増えていく。夫は、わたしのフォローが得られない状況では、社会の中に収まり続けることが難しい人になっていた。


3年ごとに職場を変えることを繰り返し、その苛立ちをわたしに向けた。それでもおさまらず、最後は自分の存在を知らしめ、後悔させたいと、車で線路に突っ込もうとまでした。病気だった。


関わろうとすればするほど積み重なるすれ違い。わたしを無視し続ける彼と、それでも更に数年暮らし、何年か前に買った家のローンと、家族の生活費を必死で働いて賄った。


何度か体調を崩し、入院をしたりもした。それでも、休んでいる場合ではなかった。


あの家も、夫も、燃やせるものなら、燃やしてしまいたい。燃えるゴミの日に、よく頭の中でシミュレーションをした、実行するなら確実に、完全に。


「そんなことも、あったような気がする。」


人間は、そこを離れると、その時の記憶は薄れるのだ。

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