古川雑貨店の婆ちゃん

霞 芯

第1話 歯磨き粉のおまけ

 昭和48年 石橋商店街


 鈴木智也と言う少年がいた。

智也は、4歳で母、香と二人で暮らしていた。

香は、離婚し、働いて智也を育てていた。

智也は、父の記憶など無く、なんでうちには父ちゃんがいないのだろう?と疑問に思い始める年頃であった。

 そんな、智也と香の親子は、〝石橋商店街〟と言う、どこにでもある商店街の近所のアパートで暮らしていた。


 ある日、香は智也にお使いを頼んだ。

智也は、石橋商店街に母と一緒に買い物は、行っていたが、1人でいくのは初めてだった。

 「智也〜、ママレモンが無くなっちゃった!

ちょっと、商店街の古川雑貨店に行って買ってきてくれない?行ける?ひとりで?」と台所で食事の後片付けをしていた香は、智也に頼んだ。

 智也は、「僕、大丈夫!ひとりでいけるよ」と見ていたテレビをそのままに、台所にいる香の元まで、駆け寄った。

香は、「じゃあ、お願いね、はい100円、お釣りは返してね!」と智也に100円玉を渡した。

「うん!行ってくるね!」と足早に玄関でウルトラマンの靴を履いた。

「車には、気をつけるのよ!」と急いでアパートの玄関から出た智也に声をかけた。


 石橋商店街 


 智也は、商店街の5軒目にある、古川雑貨店を目指した。

 古川雑貨店の手前には、クリーニング屋、ケーキ屋、洋品店、ラーメン屋と並び、古川雑貨店があった。

 智也は、おぼつかない足取りで、時折通る車に気をつけながら、古川雑貨店にたどり着いた。

 ガラス戸の前で智也は、大きく息を吸った。

そして、覚悟決めて、店のガラス戸を開けた。

「ごめんください!ママレモンありますか〜」と

大声をだした。

 暫くして、奥から、背の高く痩せてメガネをかけたお婆ちゃんが出てきた。

「おや、智也くん、きょうは1人かい?お母さんは?1人でお使い?」と尋ねた。

「うん!1人できた!ママレモンありますか?」と大きな声でお婆ちゃんに聞く。

お婆ちゃんは、「食器洗剤だね、あるよ、ちょっと待ってね」と店の中ほどにある棚を見ている。

智也は待っている間、店の入り口付近にある。

 〝オモチャのオマケ付きの歯磨き粉〟に気を取られていた。

 おくから、お婆ちゃんが、大きいママレモンと中ぐらいのママレモンを持ってやって来た。

 「智也くん、どっちだい?」と尋ねると、智也は迷った。

 「どっちかな〜」と暫く考え、「大きいのは、いくらしますか?」と尋ねた。

婆ちゃんは、「大きいのは、120円だよ、中ぐらいのは、80円」と答えた。

智也は、「これ!」と言って100円玉を婆ちゃんに見せた。

婆ちゃんは、「100円だね、じゃあ中ぐらいのだ」と言って100円玉を預かり奥のレジに向かった。

 ガチャン!ガチャン!とレジの音が響き渡った。

その間も、智也は、〝オマケ付きの歯磨き粉〟に夢中だった。

婆ちゃんは、袋に入れたママレモンとお釣りの20円とレシートを持って智也の前まで来た。

 オマケ付きの歯磨き粉を見つめる智也に気付き、「なんだい?それ欲しいのか?」と智也に尋ねた。

智也は、「オモチャが欲しい!」とオマケを指差した。

婆ちゃんは、イタズラ気な笑みを浮かべ、歯磨き粉からオモチャを一個取った!

 「皆んなには、内緒だよ!1人できたご褒美」と言いオモチャを智也に渡した。

智也は、「いいの!」と言い、もらったオマケのオモチャを持って小躍りした。

 「ありがとう!」と言い、そのまま走って店から出た。

「おい!ママレモンとお釣り!」とお婆ちゃんは

慌てて追いかけた。

お婆ちゃんは、息を切らせて智也に追いつき

 ママレモンとお釣りとレシートを渡し、

「車に気をつけるんだよ」と言い、智也の頭を撫でた。


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