『身体強化』の魔法を得たので魔法少女狩りに勤しみます
@dashisoup
第1話
風が強い夜だった。
空気を裂くような唸りとともに、腹部に鈍い衝撃が突き刺さる。息が止まり、視界が白く弾けた。そのあまりの苦痛に気が狂いそうだ。
魔法でもなんでもない、ただの暴力。
込み上げてきた胃酸と吐瀉物が、ロリータファッションのようなきらびやかな衣装を汚す。ジャージ姿の魔法少女なんて聞いたことがない!
しかもステッキじゃなくてただの木の棒を持っているなんて...理解が追いつかない。
歯を食いしばりながら浮き上がり、悲鳴をあげるように問いかける。
「どうして!あなたも魔法少女なんでしょう!私と戦って一体何になるって言うのよ!?私たちの敵は魔物でしょう!」
そんな問いかけも虚しく、ジャージ姿の少女は異常なスピードでこちらへ掛けてくる。
「風邪が強くて聞こえねーよバーカ!」
ジャンプの予備動作だろうか。力を溜めるように膝を大きく曲げている。私には確信があった。こいつを跳ばせた時に私は死ぬ。
「クソッタレが!」
震える手を掲げ、あらん限りの力を振り絞って叫ぶ。
「ランド・スライド!」
ぱっくりと地面が割れ、大きな脅威―粗雑な棒を持った少女―はなすすべなくその隙間へと落ちていく。すぐに大袈裟な素振りでステッキを振り下ろした刹那、凄まじい地響きとともに地面が移動し、勢いよくぶつかる。
「やったか!?」
そんな独白は砂埃の中に吸い込まれていく。およそ普通の人間が穴に落ちていたらひとたまりもなかったが、生憎あいつは普通の人間ではなかった。
「...!」
ぜえぜえと肩で息をしながら地上に降り立った瞬間、アスファルトを蹴り割って真下から突き出た爪先に顎を蹴られ、私の世界はぐるんと反転した。
「死ねよ、クソロリ」
バキッ!と。棍棒が視界を埋めつくしたと思った瞬間に頭が潰されていた。
「ホームラーン!」
首なし死体になったドレスの少女に、さらに追撃を入れようとした瞬間
「よしなよ。」
と声をかけられた。
「コスチュームも回収するんだから、血で汚しちゃあ面倒じゃないか。」
軽薄そうな笑みをたたえ、少女の方へ歩いてくる長身の男。夜なのに墨汁で塗りつぶしたかのような真っ黒いサングラスを掛け、シワひとつないスーツを着こなしている。
「あなたの言う通り、『地ならし』
両腕をだらりと垂らしながら、まるでそれが日常茶飯事であるかのように言う彼女を見て、
「やるじゃないか。やはり君は最高の魔法少女だ。かくも平気な顔をして殺せるなんて本当に稀な才能だよ?こんな失敗作とは違う、最高傑作と言ってもいいだろう。やはり君に頼んで正解だった。僕の目に狂いは無かったね。」と男がまくし立てる。ニヒルな笑みを浮かべながら饒舌に話す彼は、悪趣味なサングラスの奥にある目を細めて、ねぶるように少女を見つめる。
「えぇと...すまない。私は君たち魔法少女を星の数ほど監督していてね。もちろん君がいちばんのホープなのだが...もう一度名前を聞いてもいいかな?」
「はぁ。坂岡のぼりです。」
「そうだそうだ。ありがとうのぼりチャン。私の名前は
「それこの前聞きました。」
そんな会話をしながらも、2人はテキパキ死体の処理に取り掛かる。まるでこんなものは児戯かのように。
「しかし、どうしてあなたは私に魔法少女を殺させようとするのですか?」
理由も分からずに、同じ年頃の子を殺せるというのはやはり異常だな...と思いつつも、立原は答える。
「そうだね。もっともな疑問だ。簡潔に言うと、彼女たちには世界を救う力がないからだ。元を辿れば彼女たちは、魔物から世界を救うために生まれた戦士だ。秘密裏に、日の目を浴びることなく戦い続ける戦士。しかし計算違いだったのが、魔物は成長し続け脅威は大きくなる一方だが、魔法少女は限界が決まっていてもう魔物に立ち向かうのも難しいということだった。」
「いまいちピンと来ませんね。ソシャゲで敵の強さがインフレしたことによって初期キャラではクリアできなくなってきた、みたいなことですか?」
「...概ねそんな理解で構わないよ。魔物に殺された魔法少女はその力を取り込まれ、さらに魔物を強化してしまう。そうなる前にその力を『回収』するのが君の役目ってわけだ。私もなかなか任せられる人がいなくて困っていたが、君に任せてよかった。これからも頼むよ。」
行通がぽんぽんと肩を叩くのを、のぼりは無表情で見つめていた。自分に白羽の矢がたった理由はわからなくもなかったが、この人はどこから嗅ぎつけたのだろう、などと考えながら。
「もうひとついいですか?」
「なんだい?」
ゴミ袋に死体を詰め終わり、着せていたコスチュームとステッキを回収し終わったので、お互いが向き合うような形になった。
「行通さんが私にくれた魔法の話なんですけど、どうして『身体能力強化』なんていう魔法っぽくない魔法なんですか?」
欲を言えばビーム砲や派手な炎などを操りたいものなのだが、その答えは
「君がアンチヒーローだからさ。」
という至極シンプルなものだった。
「魔法少女を狩る魔法少女...そんな特別な存在が、彼女たちと同じ魔法を使ってどうするんだい?鍔迫り合いになるだけだよ。なにより君に、自分がアンチヒーローだという自覚を持ってもらわないと困る。きらびやかな衣装に身をつつみ、キュートなステッキを操るのではなく...棍棒を振り回すというスタイルは、君に魔法少女を殺すクレバーな仕事人というコンセプトをわかってもらうためだよ」
「はぁ...そうですか。」
よくわかっていないが、既存の魔法では魔法少女狩りに適さないということだろう。考えても無駄だと判断し、ビニール袋を担ぐ。
「コレ、どこに廃棄しましょうか?」
「ああ、今回も私が預るよ。こっちで処理しておくから、今日はもう休みなさい。」
さすがに人一人分というのはかなりの重量で、魔法がなければ担げないほどだったが...体ががっしりした成人男性の行通が運んでくれるのならば問題ない。
「そうですか。わかりました。それではおやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
しかし今夜は、風が強い夜だった。
「もしもし、こちら行通です。」
用意しておいた車のトランクに死体を詰め込み、ボストンバッグの中にコスチュームとステッキをしまう。何度目かの死体とのドライブにも慣れた。
「ただいまプロトタイプNo.39、地ならし所有者の殺害及びコスチュームとステッキの回収を完了しました。」
何かを促すような沈黙。心の中で舌打ちをし、
「プロトタイプは残り12個です。可及的速やかに処理いたします。それでは失礼致します。」
と早口に言い切った。
これで三人目。
やはり、あの少女に目をつけた判断は正しかった。街の灯りを横目に車を走らせながら、行通立原は次の標的のことを考える。
残り十二の、失敗作を。
『身体強化』の魔法を得たので魔法少女狩りに勤しみます @dashisoup
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