あけおめぇ~

香久山 ゆみ

あけおめぇ~

「ねーこーさん、あーそーぼ」

 猫さん家に行くと、魔女さんが顔を出した。挨拶して、猫さんと出掛ける約束をしているんですって伝える。

「あらあら。あの子ったら、年賀状配達のお仕事で疲れて寝ちゃってるわ」

 マル! クロヤギくんが遊びに来たわよー。猫さんが起きるのを、玄関で待たせてもらう。おうちからは甘いにおいがする。魔女さんはお菓子作りが得意なんだって、うらやましい。今もお料理の途中みたいだったもの。

 しばらくして、うにゃうにゃ体を掻きながら、猫さんが出てきた。

「マル、少しだけでもごはん食べて行きなさい。お薬もまだでしょ」

「うるさいにゃー」

 寝起きでご機嫌斜めな猫さんは、引き留めようとした魔女さんを振り切って飛び出した。

「あっ!」

 ぶつかった拍子に、魔女さんが持っていたボウルからぼわっと煙幕みたいに小麦がこぼれた。その隙に、猫さんは僕の手を引いて家から脱出した。

「いいの?」

「いいにゃ、いいにゃ」

 郵便配達の時にはしっかり者の猫さんなのに、魔女さんといるとまるで甘えん坊みたいになっちゃうんだ。

「僕、べつに明日でもいいよ?」

 玄関中に小麦が散らばって魔女さん一人で大変そうって思った。

「……でも、今日じゃないとだめにゃんだもん」

 少し考えて、猫さんは答えた。それで、僕らはそのまま行くことにした。

 神様に会いに行く。

 新しい年が始まる今日、改めて神様にお願いする。

「猫と山羊も干支にしてください」って。「だって、十ぴったりなら分かるけど、十二って半端にゃ。そんなら、二匹増えて十四になったっていいにゃ」と猫さんは言う。

「ねーうしとらうーたつみーうまひつじさるとりいぬいーにゃーめー! ほら、ちょうどいいにゃ」

 そう言われればそんな気がして、僕らは「うまひつじさるとりにゃーめー!」って繰り返しながら神社まで行った。

 神社に着くと、境内に人が集まってざわざわしてる。何かイベントでもあるのかな。気になったけど、猫さんに急かされて本殿に参拝する。

「神様、あけましておめぇでとーございます!」

 ふたりで声を合わせて拍手を叩く。

「……」

 あれ? お返事がない。

 首を傾げていると、「神様はいま舞台の方よ。トラブルなの」と巫女さんに教えてもらった。それで舞台へ向かった。

『正午から 今年の干支・ゴーゴーうまさんショー』って看板が立っている。

 もう時間を過ぎているのに、舞台はカラで、舞台袖では大人達がなにやら揉めている。

「こうなったら、わしが歌うよりなかろう」

「いや、神様まじ勘弁してくださいって」

 気付いてくれそうになかったので、僕らは元気いっぱい挨拶した。良い子にしてれば干支にしてもらえるかもしれないからね。

「神様、あけましておめぇでとーございます!」

 振り返って僕らを見た神様の顔が瞬時に輝いた。

「おお! おお! お前達、よいところに来た! 手伝ってくれんか」

 舞台に立つはずの馬さんが、どこにもいないんだって。どっかで寝とるんじゃないかって、神様はやきもき。新年の舞台だから白馬じゃないとだめなんだって。

「ほれ、お前さんなら四足歩行で蹄もある。白布を被ればいけるじゃろ」

「ええっ、でも、僕、馬さんほど首が長くないです」

「任せるにゃ!」

 猫さんが僕の肩に跨って、白布で覆う。猫さんの体がちょうど馬の首みたいなシルエットを作り出す。獅子舞みたいな馬面の被り物をすれば、もう馬、のように見えなくも……ない、かも?

「いいぞ!」

 神様がバッチグーのサインを出す。

「神様、僕たち良い子ですか?」

「良い子じゃ!」

 安心したのか御屠蘇に口を付けている神様に送り出されて、僕らは舞台に立った。

 わあっと歓声が上がる。

「右に行くにゃ」「左にゃ」「前脚を上げるにゃ」猫さんの耳打ちで舞台の上を動く。猫さんも、馬の首をしなやかに動かしているようで、進むたびに拍手が起こる。どんどん自信が沸いてきた。

「大技いくにゃ」

 ダンダンダンッ、と櫓の上まで一気に駆け上がり、カンカンと鐘を鳴らして、ザザザンッとまた一気に駆け下りる。ダンッ! と見事に舞台中央に着地した瞬間、しんと皆が息を呑むのが分かった。

 万雷の拍手喝采を期待した。

 けれど、向けられたのは、落胆の声だった。

「あの脚、見てみろ」

「脚が黒い!」

「白馬じゃねえぞ!」

 一生懸命に動くうちに、体中に浴びた小麦粉が取れてしまったようで、真っ白だった僕の体は、また元のクロヤギに戻っていた。

 落胆の声はじきに誹謗中傷に変わる。

 首にしがみつく猫さんの手足が震えているのが分かる。逃げなきゃ。そう思うのに、怖くて体が動かない。

 その時、舞台の上に颯爽と白い閃光が走った。

「待たせたな!」

 振り返って白い歯を見せたのは、白馬さんだ!

 白馬さんは、「盛り上げてくれてありがとう」と僕らを舞台から下ろした後、「悪いものが憑いているな」と野次客の頭をコツンコツンと叩いていく。縁起が良さそうだということで、「私も」「私も」とみんな次々に頭を下げる。僕らも下げたけれど、白馬さんは大きな蹄でよしよしと撫でてくれたのだった。

 僕も猫さんも、うっとりと白馬さんの舞台を最後まで堪能した。

「やっぱり、干支の動物ってめぇ~っちゃすごいんだねぇ」

「そうだにゃあ」

 白馬さんは、迷子を保護していたために舞台に遅れてしまったらしい。

 あとで神様のところへ挨拶に行ったら、ぐーぐー大いびきをかいて全然起きてくれなかった。

「干支になったらママを喜ばせてあげられると思ったのににゃあ……」

 がっくり肩を落とす。

「猫さんったら。魔女さんを喜ばせるなら、まずお片付けを手伝わなきゃ」

 猫さんの家に帰ると、すでに玄関はきれいに片付けられていた。

「おかえり。干支にちなんでニンジンケーキを作ったのよ」

 ふわふわ甘いにおいのするケーキをお土産にもらって、僕もうちに帰る。

「おかえり」

 こたつで寝転ぶ悪魔さんが頭を上げる。

「寒かったろ。おいで」

 ぺろんとこたつ布団をめくってもらって、中に入る。

 悪魔さんの体はぬくぬくだ。

 そのままぐっすり眠ってしまうかと思ったけれど、眠れなかった。

 ……かゆい。かゆい、かゆいかゆいかゆいかゆいかゆい……。

 リンリン、魔女さんから電話が掛かってきた。

「マルったら、薬をさぼってノミがついたみたいで。今日クロヤギくんに肩車してもらったようたけど、大丈夫かしら?」

 全然大丈夫じゃない! かゆい!

 魔女さんが薬を届けてくれたけど、明日までかゆみは続くらしい。

 お蔭でへんな夢を見た。

 僕と猫さんは、白馬さんの大きな背中に乗っていた。

「かゆい」

 白馬さんが言う。肩のところが無性にかゆいって、頼まれて僕と猫さんで白馬さんの肩甲骨の辺りを掻いてあげる。ぽこっとコブみたいになっている。

 かゆい、かゆい。と言うから、一生懸命ボリボリ掻いてあげる。

 そのうちに、白馬さんの皮膚が剥がれて、ぽろぽろと落ちてくる。けど、まだかゆい。かゆい、かゆい。どんどん皮膚がめくれていく。

 めくれた肉のうちに白いものが見える。

「骨かにゃ」

「骨かも」

 それでも、かゆいかゆい、まだかく。かく、かく。

 すると、中からばさあっと白いものが飛び出した。骨じゃなかった。白馬さんの肩に大きな翼が生えた。

「生える前は、どうもかゆくて困るね」

 ありがとう、と言って、白馬さんは僕らを背に乗せて、空をどこまでも自由に飛んだ。体をなでる風が気持ちいい。

 目が覚めると、僕も悪魔さんもすっかりかゆみは引いていた。

「今日はおとなしくトランプでもするか」

 それで、ケーキを食べながらのんびりお正月を過ごした。

「トランプってどうして1~13までなのかな。どうせならジョーカーも入れて14でいいのに」

 ふとそう呟くと、悪魔さんはウインクして手札を出した。

「数に入らないからこそ、切り札なのさ」

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