第2話 仮釈放
仮釈放の説明は、短かった。
刑務官は感情のない声で、
いくつかの注意事項を読み上げ、
それが終わると、机の横に置かれた荷物を指差した。
「以上です。
こちらが、被告人の私物になります」
私物、と呼ぶには軽すぎる。
スーツケースはひとつ。
妙に大きく、妙に派手だった。
光沢のある素材に、無駄に目立つ色。
遠くからでも分かるように作られている。
威を殺す、という目的に
一切の遠慮がない。
「服装は、そのままでお願いします」
刑務官の視線が、私の全身をなぞる。
理解の出来ない衣装だ。
給仕にも向かない。
実用性がない。
露出が多く、装飾ばかりが目につく。
最近の流行だと説明された、
派手なメイド服。
フリルが多く、
丈は短く、
動くたびに余計な音が鳴る。
これで生活をしろ、というのは
正気の沙汰ではない。
だが、それが刑罰だ。
「移動先は、指定された地域のみです。
逸脱が確認された場合、
即時、措置が取られます」
はい、と返事をする。
『はぁい〜♡』
自分の声が、
やけに明るく響いた。
刑務官は、それ以上何も言わない。
慣れているのだろう。
こういう声にも、
こういう姿にも。
「では、行ってください」
扉が、開く。
私はスーツケースを引き、
一歩、外に出た。
空気が変わる。
刑務所の中とは違う。
温度も、匂いも、
音の量も違う。
それだけで、
少しだけ肩が軽くなる。
――黒霜は、降っていない。
指定された髪型が、
視界の端で揺れる。
高い位置で結ばれた
サイドポニーテール。
地毛の黒髪だ。
切ることも、染めることも許されていない。
ただ、こうして結え、と言われただけだ。
y2k風、と説明された。
意味は分からない。
分かる必要もない。
目立つ、という効果だけが
はっきりしている。
『……はぁ〜♡
心配だなっ♡』
口から、勝手に言葉が出る。
語尾を上げ、
声を軽くし、
間を詰める。
無害で、無意味で、
相手に何も考えさせない形。
私は、問題ない。
そう思う。
指定された交通機関に乗り、
指定された経路を進む。
誰も、私を止めない。
視線は、多少集まる。
だがそれは、好奇の類だ。
恐怖ではない。
恐怖でなければ、
威は生まれない。
それでいい。
スーツケースの車輪が、
規則正しい音を立てる。
私は、その音に合わせて歩く。
『大丈夫だよ〜♡
ちゃんと行けるよっ♡』
独り言は、
誰に向けるでもなく、
空気に溶ける。
内心は、静かだ。
判断は鈍っていない。
視界も、澄んでいる。
黒霜は、
もう外には出ていない。
それでいい。
指定された地域まで、
まだ時間はある。
私は歩き続ける。
問題は、起きていない。
――問題は、ない。
そう、何度も確認しながら。
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