少年は駆ける。

詩川

少年は駆ける。

 少年は駆ける。

 夏空の下、熱いアスファルトの上を裸足で駆ける。

 落ちていた鋭利な何かで足を切ろうとも構わずに。

 道行く人にぶつかるのも構わずに。

 怒号を浴びせられながら、少年はただ駆ける。


 少年は懸ける。

 道中スッた大量の財布に大金が入っているよう、願を懸ける。

 目の前で山積みになった財布を、祈りながらひとつひとつ開けていく。

 押し寄せる罪悪感に吐き気を催しながら、少年はただ懸ける。


 少年は賭ける。

 スリで得た大金を手に、裏の賭博にすべてを賭ける。

 病に伏せる妹を救うために。

 有り金がじわじわと減っていくのに汗をかきながら。

 後には引けないところまでやってきた。

 震える手を抑えて、少年はただ賭ける。


 少年は欠ける。

 すべてを失った少年の体は欠ける。

 無情にも神は味方しなかった。

 少年の手元には一銭も残っていやしなかった。

 だが臓器は高く売れる。

 目を瞑る少年はただ、欠けていく。

 広い大地を駆ける妹の姿を夢見て、少年は欠けていく。


 少年は翔ける。

 しがらみから解き放たれた少年は大空を翔ける。

 もはやしがらみが何だったのかはもう思い出せない。

 眼下を駆ける少女と目が合った。

 だがそれは遥か遠くへと流れていく。

 少年はどこまでも翔けていく。

 どこまでも、翔けていく。

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少年は駆ける。 詩川 @nin1732

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