第5話「必ず生還する事。それが、当ギルドが課す絶対条件です」 By マリエル
ロビーにひとつだけの待合テーブルを囲んで「三人」が向かい合う。
滅多に出てこないと評判の幻のサービスドリンクは、マリエルの私物であるハーブティーである。
「ということで、まずはブリーフィングからです」
「ブリーフィングとはいっても、わたしが前衛でハズキが後衛、というだけだろう?」
訝し気に返すエストに、マリエルと名乗ったギルド嬢はため息で返す。
「やはりエスト様、本格的なパーティクエストの経験は浅いようですね。事前の綿密な打ち合わせは、基本中の基本ですよ?」
氷の貴公子に並ぶ肩書に、「孤高の美剣士」なんてものもあるが、単独行動が多いのはギルドの記録上でもまぎれもない事実だ。
必要に応じて臨時でパーティを組むことはあっても、それが長続きしたことはなかった。ひとえに、エストのもつ特殊事情によるものだが、しかしそんなことは安全第一なダンジョン探索をモットーとするギルドにとっては関係ない話である。
一期一会な野良パーティ、連携など微塵も期待できない状況であれば、エストの言う通り最低限のポジションの確認でも充分だが、長期的に行動することが前提ともなれば、互いの出来ることや出来ないこと、緊急時の対応などは事前に決めておくのが常識である。これを怠れば、要らぬ不和を招くことになるからだ。この辺りは、ギルドの初期講習では習わないことだが、冒険者として経験を積むうちに、自然と身につくものだ。
「こう見えてわたし、元中級冒険者ですので」
新進気鋭の魔道具使い、妨害・遅延のスペシャリストである「コンジャラー」として名をはせた彼女だったが、膝に矢を受けてしまい以下略。
「でも、今は名もなき恋する乙女。それで充分ですけどね」
魔道具使いと言えば、文字通り魔道具を駆使する者達であるが、通常は主力で用いる武装に由来する呼称で呼ばれる。曰く魔剣を用いるなら魔剣士、魔銃を用いるガンナーなどであるが、冒険者の職分を表す文脈で「魔道具使い」と言った場合意味が変わってくる。
「例えば、火や冷気を生み出す魔道具。これらは、少し裕福な家なら普通に持っているぐらい、比較的手に入りやすいものですね」
普段は暇つぶしに読んでいるという、最新魔道具カタログをめくりつつ、マリエルは主だった道具の効果をひとつひとつ説明していく。
「そして『ハズキ様の幻術』であれば、これらを代用できると、シャロン先輩は見立てたみたいでして。そのためコンジャラーのわたしに後衛支援職としての心得を叩き込んで欲しいということみたいです」
そんなマリエルの目の前で、葉月は一枚の木の葉(ロビーの観葉植物の鉢から拝借)を使って、カタログの中に見つけた小さな魔道具を生み出す。
短杖よりもさらに短い、金属質の棒。握りしめるとその先端が淡く光る。
「おや、ハンディライトですか。いいチョイスです。これはダンジョン探索にはほぼ必須アイテムですよ? でももっと明るいほうがいいですね。出来れば手を放しても点灯が続くように、また光度調節も段階的に出来たほうが……」
元々研究者気質であろうマリエルは、葉月の生み出した魔道具モドキに色々と改良点を提案し、その効果的な運用方法を提示する。
こんな風に、日常使いの魔道具に新たな使い道を見出したり、はたまた軽い改良を施すなどし、それを冒険者向けのサポートアイテム群として体系化させた者達を「魔道具使い・ガジェッター」と呼ぶ。
そして、ガジェッターが冒険者パーティ内で果たすべき役割である後方支援、その中でも敵対者の行動阻害に特化した者を「奇術師・コンジャラー」と呼んだ。
「なるほど、確かにこれはハズキ向きの技術だな」
模擬戦の時に見せた、果実を使った心理戦。それを思い出したエストは、感心しつつそう漏らす。
「高価な魔道具が葉っぱ一枚で作れるなんて、現役時代のわたしだったら是非とも側にいて欲しい逸材ですよ~!」
そう言って、葉月に抱き着いてなで繰り回す。魔剣や魔銃に比べれば安価とは言え、それでも高価なのが魔道具である。しかも魔道具使いの真価は、多種多様な魔道具を適宜組み合わせて運用する、手数の多彩さにある。パーティに一人いれば、間違いなく有用な何でも屋だが、相当な金食い虫であろうことは容易に想像がつく。
「あら、側にいて欲しいのは、現役時代だけなのですか?」
「そんなことありませんよ~。ハズキ様が妹だったら、毎日楽しいだろうなって」
あたかも姉妹のように甘える様子に若干の疎外感を覚えつつ、エストは手持ち無沙汰にハーブティに手を伸ばす。
なお、冒険者ギルドで扱うギルド証や通信設備も魔道具に分類されるが、あまりに機構が複雑で未解明な部分も多く、現代技術では再現不能である。そんな遺失技術によって作られた魔道具は、まとめて「古代遺産・アーティファクト」と呼ばれている。
そんなアーティファクトの管理運用に長けたマリエルのような存在は、当然あちこちから引っ張りだこであり、さらに出張所ながらも近場にダンジョンを擁する重要拠点をワンオペで回しきる手腕により、上層部では将来的な幹部候補とみなされている逸材である。もっとも彼女は、出世よりも恋を選ぶ性質なのだが。
そのあたりは余禄として。
半時ほどのブリーフィングの末に、エストは葉月と共にパーティとしてダンジョンに挑むことを了承。
「必ず生還する事。それが、当ギルドが課す絶対条件です」
隣合う二人の名前が記されたクエスト申請書に、マリエルは承認印を施す。そして新米パーティは、意気揚々と「風鳴りの洞窟」へと向かっていったのだ。
そして、時は巻きで進み、現在はダンジョンの「最下層」である。
事前の打ち合わせ通り、「斥候・スカウト」として先行する葉月を、エストは感心した表情で見守る。
もちろん、後方からの不意の奇襲に備えるために気は張ったままだが、エスト一人であればその両方を一人でこなさなければならない。
「たしかこういうの、師匠は『蛇の道は蛇』って言ってたな」
スカウトとしての心得なら、そのエキスパートであるオボロから叩き込まれているため、多少の真似事なら出来る。しかし、駆け出しと言えども、その資質は明らかに葉月のほうが上なのだ。いつも一人で行動している時に比べて、余計な事を考えるぐらいには余裕があることに心底驚いている。
たった三層程度の低級ダンジョン、フロア自体も手狭で、回廊も複雑でもなくトラップも少ない。魔物だって上層なら地上に現れるウサギモドキがまばらに居る程度と、確かに初級冒険者にとっては絶好の狩場である。第二層以降は少々難易度が上がるものの、それらも難なくクリアして、あっという間にここまでこれたのは、ひとえに葉月のおかげだとエストは素直に認めていた。
「確かに、『僕』は過保護すぎたのかもしれないな」
その過保護さの原因が、サブクエストの依頼者である「第七王子」へのちょっとした対抗心だとは、まだ自覚はないようだ。そしていつもの偽装が緩みかけていることすら全く気づいていない。
「ふむ、なにかあったかな?」
薄暗い最下層の回廊を先行する葉月からのハンドサインを受け取って、エストは足早に彼女の元に駆け付ける。
「この先から、怪しい気配がしますわ」
「さっきまで出て来た雑魚、という感じじゃなさそうだね」
真剣な表情でうなづき返す葉月には、濃い疲労の色が見てとれる。初めてのダンジョン探索で、ずっと気を張ったままではそれも仕方ない。
ある程度慣れてくれば、仲間に任せられる部分を任せて、力を抜くことを覚えるのだろうが、最初のうちはこのぐらいのほうがいい。自分の限界を知ることは、大事な事なのだとの師匠の言葉がよみがえる。まだ安全なうちならば、猶更経験しておくべきだとも。
そして葉月の示す先を目を凝らしてみれば、エストの感覚としても、強い淀みの気配が近いことが分かった。
「となると、そこが例のボス部屋ってことかな」
「マリエルさんに頂いた、ダンジョンマップとも一致しますわね。ただ……」
「なにか、気になることでも?」
何かを言いよどむ葉月に、エストは続きを促す。
「なんというか、子猫が怯えているような気配なのですわ」
本職ではないエストには、さすがにそんな細かなところまでは分からない。
けれど葉月がそう感じたのなら、そこには何か意味があるのだろうと判断する。
「子猫か。案外ボスは、例の『珍獣』ってヤツなのかもね」
「あら、それでしたら一石二鳥ですわね」
サブクエストの達成も視野に見えて、葉月が少し元気を取り戻す。水筒の水で軽く喉を潤すと、通路の奥へとゆっくり進んでいく。
そして到達したダンジョンの最奥部。奥まで見渡せない程度に広い空間に、二人が見たものは。
「黒い、お饅頭?」
暗闇に慣れた目でも、しっかり凝らさなければ輪郭も見えないそれは、いつかの畑でみた麦わらの山を思わせる。
そこに気配は確かに一つだけ。今は距離も充分にある。
ならばと、葉月は提案する。
「ハンディライトを使ってみますわ。何か反応があるかもしれませんし、相手の正体を確認する意味もあります」
「うん、それで行こう。ただし、余計なところを照らさず、一気に相手を照らしてくれ」
スカートのポケットから取り出したのは、マリエルの意見を取り入れた改良品。
強い光で、一定の範囲を真っすぐに照らす。予め決めておいた操作と動作ならば、イメージを作り出すのは一瞬である。
そして葉月の狙い通りに、真っ白な光は暗闇の中に潜む影を照らし出す。
(目? それも沢山の!?)
大きさとしては、報告に合った通りの中型。道中でであった可愛い牛さんを二回りほど大きくしたようなサイズ。
しかし問題は、「目」だ。
黒い体毛のあちこちで、目のような青白い光が浮かび上がるのが見てとれる。
(ボスは一体ではなかったのか? いや、しかし気配は一つのままだ)
冷静に様子をうかがう中、黒い山が蠢く。よく見れば、目のように見えた青白い光は体毛を彩る文様で、身体の動きに合わせて移動している。
それは擬態の類。
冒険者定番アイテムのオイルランタンのように、中途半端な明るさの光源に照らされたことで、体毛の一部を顔だと誤認したのだろう。
見当違いの方向に注意を払ったことで、思わぬ奇襲を食らったのだろうとエストは推測する。
その上で葉月は、もうひとつ先の可能性に気づく。
(「擬態」を必要とするということは、もしかして――)
その先を考えるまもなく、巣穴に入り込んだ闖入者に気づいたのであろう、こちらを伺うよう「片目」をゆっくりと見開くと、文様の光よりも明らかに鋭く、青白く光る瞳があらわになる。その中で、縦長なアーモンド形の瞳孔が、収縮するのが見て取れる。
ゴロゴロと喉を鳴らす音が広い洞窟内に響き渡る。そして、所々に光る体毛をちりばめた黒い獣は、ゆっくりをその身を起こした。
「来るぞ! 気をつけろ」
うっとおしい光から逃れるよう、黒い獣は地を蹴って暗闇の奥へと素早く移動する。
(思いのほか、早い!)
目では追いきれないと判断して、エストは気配察知による対応に切り替える。オボロ相手の訓練に比べれば、まだまだ可愛いものだと細剣の柄に手をかけ迎撃態勢をとる。
「エストさん、避けて!」
抜刀と共に右側へと振り抜けようとしたが、葉月の声を聴いてとっさの判断で取りやめる。己の直感に従い、身をかがめることで「それ」を躱す。
「尻尾っ!?」
頭上をかすめる長く黒い尻尾は、先端が二つに分かれていることもあって、攻撃範囲は広い。
気づかずに突っ込んでいたならば、軽装のエストでは小さくないダメージを受けていただろう。ましてや装備が充分でない初級冒険者であるなら、一発退場したっておかしくはない。
いつの間にか部屋の中央まで移動し、距離をとっていた葉月をちらりと確認。エストは改めて、黒い獣と対峙する。
背後の葉月を庇いつつ、相手の出方を伺う。
「照らしますわ!」
葉月の合図とともに、先ほどよりも広い範囲が明るく照らされる。光量は減ったものの、広範囲が照らされたことで黒い獣の全容があらわになる。
真っ黒だと思われていた体毛が、のど元から腹部にかけて真っ白な柔毛に覆われていることに気づくと、エストは僅かに顔をしかめる。
「……なにかの間違いであって欲しいとは思っていたが」
件の手配書に書かれた文言通り、「三種の毛色を持つ、四つ足の獣」となれば、目の前のそれは条件はぴったりである。
そのしなやかな体躯は、ネコ科の動物のそれを思わせるが。
「予想より、大きな三毛猫ちゃんですわねえ」
「あんな猫が居てたまるか!」
当然、手配書の可愛らしいそれとは似ても似つかない。あれを基準にしていたのでは、見つかるわけもない。
「ハズキは光源を維持! わたしの後ろで、必ず十分な距離をとれ!」
「わかりましたわ!」
普通の光源であるなら、葉月の手前に居るエストの背を照らすことになり、その陰が前方に伸びる形になる。
しかしどういうわけか、エストの影は見えない。視界良好である。
「相変わらず幻術はなんでもありだな! でも都合がいい」
抜剣して一気に詰め寄り、推定三毛猫相手に切り結ぶ。
元々奇襲に特化していたのだろう、真正面から相対した場合の魔獣としての格は、本気を出したエストには遠く及ばない。
光を嫌う傾向があるらしい、葉月の巧みな誘導によって、魔獣は徐々に追い詰められる。
「その手は喰わないよ!」
破れかぶれに振り回した長い尾は、エストの細剣によって切り飛ばされる。
本体から切り離された尻尾は、地面に着く前に霧散して消える。部位破壊しても剥ぎ取りは出来ないシステムである。
もはや勝ち目がないと知っているだろうに、ボスとしての矜持か、決して背を向けようとせず果敢に立ち向かう。
尻尾に続いて爪も牙も折られ、片目すらも潰されながらも、最後の一撃とばかりに全身で飛びかかる。
倒すべき敵ではあるが、その誇り高さに敬意を表し、エストはあえて大技で一気に決める。
「エスタリア流奥義、閃光穿刺ルミナス・スラスト!」
気配察知で捉えた魔獣の核、魔石の位置に向け、銀の切っ先で一気に刺し貫く。
御大層な技名ではあるが、やってることは「鋭い突き」である。
あと何気に出身地を叫んでいるのだが、そこも気にしてはいけない。男の子のロマンだから仕方ない。
一度びくりと身体を震わせ、低くうめく。それに合わせて、エストは細剣を薙いでその胴体を切り裂いた。
もはや反撃する力などあろうはずもなく、推定三毛猫はエストの横をかすめるようにして倒れ伏す。
「ああ、猫ちゃんが!」
勝利の余韻に浸るまもなく、葉月の悲痛な叫びが洞窟内に響く。
「ざ……残念だけど、魔獣だからね。あとは魔石になるだけだよ」
そして足もとを見下ろしたエストは、そこにあってはならないモノを見つける。
「猫ちゃん、しっかり! 傷は浅いですわ!」
そこに居たのは、「黒い子猫」を抱きかかえ、必死に呼びかける葉月だった。
よく見れば、体毛の色といい模様といい、先まで死闘を繰り広げていたあの魔獣とうりふたつ。
違うのは、尻尾がすっかり短くなったことで、ますます手配書のそれに似て来たが、それはどうでもいい。
「ハズキ、離れるんだ! 小さくても魔獣だぞ!?」
「違いますわ! この子は『魔獣』ではありません!」
何を世迷言をと思ったエストだが、葉月が示した先、斬られた尻尾の先端から流れる真っ赤な血を見て愕然とする。
それも当然、魔獣は切られようが潰されようが、血など流すはずもない。そして弱弱しいものの、心臓の鼓動だってある。
魔獣の実体を構成するのは、「淀み」の塊であり、ある種のエネルギー体である。世界観に合わせて言うならば「精霊」に類する存在だ。
「いったい、どういうことだ?」
エストが切り飛ばした尻尾が、霧散して消えたのを確認している。
しかし目の前の小さな獣は、葉月の言う通り血を流す生き物なのだ。
「今は考えても仕方ないか。とにかく、町に戻ろう」
エストの言葉に頷いて、葉月は子猫を抱えたまま立ち上がった。
こうして葉月の初めてダンジョン探索は、ひとつの謎を残して終結する。
偶然にもサブクエストの目的である珍獣「三毛猫」を無事捕獲した葉月たち御一行。
「さあ、町に着きましたよ『たま』♪」
「まさか 『たま』って、そいつの名前か?」
「だって玉のようにコロコロして可愛らしいのですもの!」
葉月の必死の看護?が功を奏したのか、ぐったりとしていた三毛猫は葉月の腕の中で身じろぎする。
意識を取り戻したらまた巨大化するのではないかと気が気ではなかったエストだが、今のところそんな兆候は見えない。
まあいいかと、気を緩めるエストだが、はたととあることに気づく。
「いや、ちょっとまてハズキ! そいつはギルドに引きわたすんだぞ? 名前なんか付けて愛着が湧いたらどうする!」
「愛着も何も、この子はとっくにうちの子ですわ!」
「いやいや、それはダメだろう!」
「なあんて、さすがに冗談ですわ。でも、名前くらいいいではありませんか。きっと王子様もぴったりの名だって気にいってくれますわ」
「……だといいがな」
下手すれば王国の学術研究機関の発展の礎として、尊い犠牲になる未来もあり得るのだが、今それを指摘するのも忍びない。
そうして向かったギルドの出張所、その入り口にはマリエルが出迎えに来ていた。
ギルド証の通知機能が使えるということは、ギルド側でもそれを察知するシステムがあるということである。
「お帰りなさいませ、皆様!」
「ただいま戻りましたわ、お師匠様!」
子猫を抱えたまま、葉月は元気に片手を振り返す。
二人はいつの間にか、師弟関係を結んでいたのである。
「面倒くさい弟子で、大変ではありませんか?」
「いえいえ。わたしも初めての弟子ですので、至らぬことがあるかもしれません。それに自分の技術や知識を継承できる相手がいるのって、とても嬉しいことです」
そしてギルドカウンターにてクエスト完了報告を済ませ、捕獲した「珍獣」運搬の手配を終える。
涙ながらに別れを惜しむ葉月であったが、当の「たま」は運搬ケージの中で丸くなってガン無視である。
苦手な「光」で散々追い回されたのを覚えているのだろう。葉月の腕の中で、居心地悪そうにしていたのを思い出してエストは苦笑する。
そして夕方近く、クエストから戻って来た常連の冒険者パーティが一組、二組と姿を現す。
閑散としていたギルドも徐々に賑わってきて、非常勤の若いギルド嬢が狭いギルドのロビーを右往左往している。
それを遠巻きに眺めながら、二人して屋台飯で早めの夕食を済ませる。
食べ終えてしまった肉串に、名残惜しそうな視線を向けつつ、ハンカチで口元をぬぐった葉月は、ぽつりとエストに尋ねる。
「わたし、エストさんの役に立ちましたわよね?」
「ああ、もちろん」
なんの衒いもなく素直に答えるエストに、葉月は嬉しそうにほほ笑み返す。
「あとは、索敵時におけるペース配分が課題だね。今回は小規模なダンジョンだったからいいけれど、長丁場になったら、あの調子ではすぐに潰れてしまうよ?」
「確かに、その通りですわね」
ちょっとした反省会になって、葉月はあれこれと考えを巡らせる。
スカウトは、探索におけるパーティの命綱である。
今後も葉月がその道を往くなら、今の自分にも教えることは多いだろう。そんな風にエストが考えていると、葉月が爆弾を落とす。
「でしたら、エストさんも『師匠』ということですわね!」
そう宣う葉月だが、師匠という響きにオボロの顔がちらついて、エストはなんとも苦い表情を浮かべる。
なにしろ癇癪を起して、修行を途中で投げ出した身である。
葉月に対するマリエルの言葉を思い出しながら、ならば彼はどんな気持ちで自分に修業をつけてくれたのだろうと、改めて思いをはせる。
「あら、お気に召しませんか?」
「ああごめん、『わたし』もまだ修行中の身だからね」
言い訳のようにそう答える。
それに対し、うーんとうなりながら葉月が出した答えはこうだった。
「それじゃあ、これからは『お姉さま』とお呼びしますわね!」
「お姉さまって……」
「だめ、ですか?」
「いや、その……」
今後も女性二人のパーティとして行動する以上、対外的にもメリットがあるなと言い訳しながら、しぶしぶ受けれいる。
けれど、それがまた新たな仮面であることに、少し複雑な気持ちになる。
葉月の隣立つお姉さまは、意外と面倒くさいヤツなのであった。
あやかしタヌ姫の婚活冒険記! 天月 椎 @alt-nate
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