第19話
「び、びっくりした……。」
リリーは自身の胸へ手を当てて、ドキドキとうるさい心臓を落ち着かせようと何度か深呼吸する。
「ごめんなさいね。座りもせずに集中しているようでしたから、少し驚かせたくなってしまいましたの。」
セレーネはにこにこと笑うと、改めてリリーの持っている本へ目を向ける。
「『厄災記録大全』、ですか? 随分古い本を見つけましたのね。」
「これ、知っているんですか?」
「ええ、お恥ずかしながら読んだことはないのですけれど。なにしろ最後に厄災が発生したのは約40年ほど前のことですから……魔法使いは皆、自分が生きている間に発生するか分からない厄災について研究するよりも、自身の魔法使いとしての実力を高めたいと考える者がほとんどなのですわ。もちろん、中にはそれに当て嵌まらない変わったお方もいらっしゃいますけれど。」
セレーネは一度言葉を区切ると良いことを思いついた、とばかりに顔を明るくする。
「せっかくこんなに熱心に調べていただいているんですもの、私から簡単に魔法や厄災について説明させていただきたいわ。リリーさんやアメリさんがよろしければ、ですけれど……。」
願ってもない提案にリリーは勢い良く頷くと、セレーネを連れてアメリの元へと向かう。アメリは二人が近付くと一度視線を向けたが、すぐに自身の持つ本へと目を落とした。(この愛想のない困ったちゃんときたら!)
「アメリ、セレーネ様が魔法や厄災について教えてくださるそうよ。貴女も一度本を閉じて、二人でお話を聞きましょうよ!」
リリーが傍に駆け寄ると、アメリは意外にも静かに本を閉じた。普段なら「必要ない」と断りそうなものだが……何か思うところがあるのだろうか?
リリーとアメリが話を聞く態勢に入ると、セレーネはゆっくりと話し始めた。
「まず魔法について。魔法は魔法使いが精霊の力を借りて行使するものというのは以前お話しましたわね。そして精霊の力を借りて、私たちは非常に多くのことが出来ますわ。炎を出したり、水を操ったり、風を発生させたり……。」
リリーはそこで、アメリが炎以外の魔法を使ったことはあっただろうか?と考え質問する。
「炎しか使えない魔法使いもいますか?」
それにセレーネは一度考え込むような素振りを見せた後、ゆっくりと答える。
「人である以上得意不得意はございますが、魔法使いはそもそも自然と調和する力が強いもの。炎に関する魔法が得意なために好んでそれしか使わない、ということはあるかもしれませんが、それでも特定の精霊以外の力を借りられないということは無いと思いますわ。少なくとも、私は聞いたことがございません。」
ならアメリは特別炎の魔法が得意で、炎の精霊の力を借りやすい性質なのだろうか? リリーは後でアメリに聞いてみよう、と考え、頷いてセレーネの話の続きを促した。
「そして魔法使いは精霊との対話が可能です。そうして精霊との繋がりを深めると、より強い魔法を使うことが出来るようになりますの。場合によっては、精霊と特別な契約を交わしたりもできますわね。私たちはそうして自身の魔法使いとしての実力を高めるべく日々学び、訓練しているのですわ。魔法に関する簡単な説明は以上ですが、何か質問はございますか?」
リリーはふるふる、と首を横に振る。魔法や魔法使いについて簡単に理解はできたが、まだまだ疑問を抱いたり質問できるレベルでは無かった。
だが一つだけ気になることがあり、リリーはセレーネへ尋ねる。
「あの、魔法に関する質問ではないのですけれど、女性の魔法使いが魔女と呼ばれることはありますか? さっきの本に魔女という言葉があって……魔法が使える女性のことだとは思うんですけど、私は聞いたことがないので気になったんです。」
「あら……。」
セレーネは意外そうに眉を上げると、リリーの持っていた本を静かに捲る。いくつかの記載に目を通した後、セレーネは顔を上げた。
「そうですわね……。魔女というのは蔑称のようなものですの。魔女というのは魔法が使える女性という意味ではなく、何らかの悪しき力を使い疑似的に魔法のような現象を起こす女性のこと。それは厄災の力であったり、生贄を捧げるような邪悪な儀式により得られるような力であったりしますが……。いずれにせよ、精霊の力とは相反するものと言えますわね。」
「魔女……そう、なんですね……。」
それを聞いたリリーは、(魔法が使える男性のことを
「では次に厄災についてですが、実は魔法使いになった際に教わる基礎的な知識以外にはあまり語ることがございませんの。これは人や物に宿った憎しみや悲しみ、絶望が実体を持って厄災と化し、世に甚大な被害を齎す。そのため厄災が発生した際には、早急に対処しなければならないのですわ。」
セレーネはため息をついて言葉を続ける。
「ただ、本来であれば厄災には、その大元……本体のようなものが存在しますから、それを破壊することで対処可能なのですが……今回はその本体が見つからないのです。これからどれだけ面倒なことになるか……。」
リリーはセレーネの憂鬱そうな表情に掛ける言葉が見つからず(何せ自分は魔法が使えない役立たずなので)、気まずそうな面持ちで彼女を見つめた。セレーネはそれに気付き安心させるように微笑む。
「とにかく、簡単な魔法と厄災についての説明は以上ですわ。これからお二人……特にアメリさんにはたくさんご協力いただくことになると思いますから、気になることがありましたらいつでも私に聞いてくださいね。」
そう言っていつもの様に笑みを浮かべると、セレーネは優雅に立ち去っていった。
そうしてリリーは終始無言だったアメリに向き直ると、開口一番先ほど聞こうとしたことを口にする。
「ねえ、そういえば私、アメリが炎の魔法しか使っているところを見たことがないわ。貴女って炎以外の魔法も使えるの?」
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