第18話

 荷物を少し整理した後、リリーは伸びをして立ち上がる。

 着いて初日ということもあってか、セレーネから具体的な頼み事はされていなかったが(また頼みごとをされるとしても自分ではなくアメリだろうが)、調査に協力するという名目でここにおいてもらう以上、何かしなければならない。

 働かざる者食うべからず、だ。


 まずは図書館へ向かおうと部屋を出ると、何故かアメリもついてくる。

「……アメリは休んでいてもいいのよ?」

「必要ない。」

 ……まあ、これから調査に協力することになるのはアメリになるだろうし、色々見たり調べたりするのは良いことだろうと考え、リリーは二人で図書館へ向かう。


 先ほどセレーネに案内された時にも少し中を見学したが、見るのが二度目でも圧倒されるほど凄まじい量の本が並んでいる。流石は魔法使い達のための図書館だ。


「何から読んでみるべきかしら? やはり、魔法に関する本? 厄災に関する本もどこかにあるのかしら。」

 リリーが何を読もうと迷いながらウロウロしていると、アメリは既に一冊の本を持ち、リリーの後ろを歩きながらペラペラと頁を捲っている。


(『人体構造とその機能について』? 一体何を学ぼうとしているのよ……。いや、アメリのことだから、実はその本が調査に役立つものだと判断しているのかも?)

 リリーの目にはアメリが日々積極的に本を読む姿が勤勉なものとして映っていたために誤解しているが、アメリは厄災の調査になど全く興味がないため、これは単に興味本位で選んでいるにすぎなかった。


 リリーはいくつか目ぼしい本を抱えると、椅子に座り気合を入れて読み始める。

『魔法使いの誕生に関する考察』、『精霊との対話』、『自然と人工物の融合 魔法との相互作用について』……。


「うう~ん……。もうダメ、難しすぎるわ……。」

 数時間に渡り目を通したが、リリーには難しすぎた。そもそも魔法が使えないのだから、精霊がどうの、大地や海がどうのといった話を読んでも、何一つ理解できない。

 ちらりと隣のアメリを見ると、気付かぬうちにまた別の本を読んでいるようだ。

 題名は『人間と昆虫の生活様式の類似点』。……また変な本を……。


 リリーが諦めて本を元の場所に戻しアメリのところへ戻ろうした時、ふと一冊の本が目に入る。

 余り分厚い本ではないが随分古びていて、少し力を入れて触れば崩れてしまいそうだ。


(『厄災記録大全』?)

 リリーはそっと慎重に本を抜き取ると、その場で頁を捲り始める。


 建国元年 ■月■日 厄災名称【捨てられた墓地】

 アルビダ王国建国の際の戦争で亡くなった亡国の兵士達の無念が厄災と化す。

 戦争の跡地に放置された兵士達の死体が進軍を始め、近隣の住民数百人が死傷。

 厄災の発生源は騎兵隊長の遺体。ダル・ダナ騎士団隊長Tにより対象を破壊。

 ■月■日 厄災解除。

 ―厄災なんてクソくらえだ。戦争の尻拭いまで俺たちにさせるとはな。国の貴族どもの暢気な顔を蹴っ飛ばしてやりたい。 隊長T

 ―本書に暴言を記す事を厳に禁ずる。 司書O

 ―この■■■■■(検閲済み)が。 隊長T


 建国84年 ■月■日 厄災名称【緋色のオパール】

 婚約者や身内から長年に渡り虐げられ続けた貴族令嬢の悲哀が厄災と化す。

 令嬢が自ら命を絶った後数年に渡り貴族間での不審死が相次ぎ、その共通点として生前令嬢が肌身離さず身に着けていたある宝石を所持していたことから厄災が発覚。

 厄災発覚現場に居合わせた鍛冶職人Gにより対象を破壊。

 ■月■日 厄災解除。

 ―宝石が破壊される瞬間、血のような緋色の中から淡く優しい光が放たれるのを見ました。令嬢へ追悼の意を表します。 鍛冶職人G


 建国151年 ■月■日 厄災名称【■■(検閲済み)】

 遥か昔に討伐された■■(検閲済み)の憎しみが厄災と化す。

 対象はアルビダ王国南方の森にて突如出現し、国に甚大な被害を齎す。死傷者数不明。

 出現付近の村出身の魔法使いの少女Dと、少女Dと心を通わせた精霊がその身を持って森の奥深くへ封印。

 ■月■日 厄災解除。

 ―どうか彼女達の犠牲を、皆がいつまでも忘れませんように。 少女Dの友人


 建国230年 ■月■日 厄災名称【協会の魔女】

 友人の裏切りにより我が子を失った女性Jの恨みが厄災と化す。

 子を失った後協会のシスターとして生活していたが女性Jが友人の裏切りを知ったその日、一夜にして町一つを破壊。 死傷者数不明。子供の負傷者、死傷者は無し。

 彼女は厄災そのものの力を自在に操ったが、その力に耐えられず自ら崩壊。

 ■月■日 厄災解除。

 ……』


「これは……。」

 今は建国863年であるため、これは数百年前から記録されていたことになる。厄災は凡そ数十年~数百年単位で発生しているようだ。

 もしかすると、これは本当に厄災の調査に役に立つかもしれないと思い、リリーは夢中で目を通す。


 その時リリーの後ろへ何者かが近付き、耳元でそっと話しかける。

「何を読んでおりますの?」

「きゃあああ!?」

 飛び上がって叫んだリリーが素早く振り向くと、そこには悪戯っぽく微笑むセレーネがいた。彼女は唇へ人差し指を添えると、わざとらしく小さな声で呟く。

「あら、いけませんわ。図書館ではお静かに。」

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