第5話
アメリの焼畑農業事件以来、彼女は異常な速度で成長した。
僅か数日のうちに、リリーよりも頭一つ低かった身長は少し見上げる必要があるほどに高くなり、体つきも……とても女性的で魅惑的になった。出るところは出て、引っ込むところは引っ込み、四肢はすらりと長く……アメリが見たことのある人間の体はリリーのものだけのはずなのに、この差は何なのか? アメリは自主的に入浴することを好まないため、未だにリリーが風呂に入れているが、その度に彼女は自らの貧相な体つきを気にせずにはいられないのだった。
言語能力にも向上が見られ、以前は単語を機械的に真似するだけだったが、現在は拙いながらも意思の疎通ができるようになっていた。これはきっと自分の献身的な語りかけや読み聞かせのおかげだろうとリリーは素直に喜んでいる。ただ、変な学習の仕方をしてしまったのか、あるいは彼女の生来の性格なのか、尊大な物言いを好んでいることだけは、困りものだが……。
本来人間であればあり得ない成長速度に、恐怖や不安、不気味さを感じないと言えば嘘になるが、今のところ殺されるような気配もないし、成長するのは喜ばしいことだとリリーは捉えている。彼女は生まれつき妙に図太いところがあった。
「アメリ、そろそろ貴女に私の服を着せるのも限界になってきたわね。お直しは得意だけど、いくら何でも限度があるってものよ。」
「我はきにしない。」
「貴女その我って言うのやめなさいよ……。今日日そんな一人称の人は見たことがないもの、ヘンよ! 王様でもあるまいし。」
「我は……。」
「はいはい、高貴で大きなワガママ王様のアメリちゃん、今日は貴女の服を買いに行くわよ。」
「ひつようない」
必要ないことはない。実際問題、もしこれ以上アメリが大きくなることがあれば本当に着せられる服がなくなる。今の……以前よりもより人間的な体つきになった彼女を裸でうろつかせるわけにはいかない。彼女に新しい服を買うことは、人としての道徳的な義務であるとリリーは感じていた。
とはいえ服を買うならちゃんと本人の体格に見合ったものが良いだろうし、そろそろアメリも村の様子を見たり他の人とも会話してみるべきだろう、という考えでリリーはアメリを村へ同行させると決めていた。
真っ白な髪は染粉で黒にして、肌の異様な白さも化粧で何とか誤魔化せたものの、アメリの瞳の尋常ではない輝きとその容貌の美しさはだけは隠し切れなそうもなかった。リリーは苦肉の策としてアメリにフード付きのローブを着せ、村へ出発する。
(どう見ても不審者だけれど、体が弱くて日の光を長時間浴びていられないという設定にしましょう。大丈夫、何事もなく服だけ買って、他の人ともちょっと会話だけして、問題なく帰ってこられるはずよ。)
道中、アメリがローブも嫌がらず大人しいことに安堵しつつ、久しぶりにディルカ村の中心部の服屋へ向かう。ここの店主の女性は親しみやすい性格で、村のはずれで貧しい生活をするリリーのことを心配して度々服の修繕の依頼やアクセサリー等の小物を買ってくれる親切な人だ。ここでなら、仮にアメリが変なことを言っても問題ないだろうと安心しきって店のドアを開ける。
「あら! リリーちゃん久しぶりねえ。元気にしてた? そちらのお客さんは? 見たことない顔だねえ」
「サラさん、お久しぶりです! おかげさまで何とか……。ええっと、今日は彼女の服を買いに来たんです。名前はアメリで、恰好はその、日の光に弱くてこんな感じに」
「そうなのねえ、お洋服を買いに来てあげるなんて、二人はどういう間柄なの?」
そこでリリーは思わず言葉に詰まってしまう。アメリの不審者のような装いへの言い訳は考えていても、自分たちの関係を聞かれることは想定していなかった。詰めが甘い。
友達? 友達に態々普段着を買ってあげたりはしないだろう。知り合いの子供や妹? 少し前ならともかく、今のアメリは明らかにリリーと同い年か少し年上くらいに見える。無理があるだろう。
居候、同居人……やはり違和感がある。確かに実態としては同居状態だが、常識的に考えてあの立地が悪い上にボロい小屋のような家で同居しようとする人間などいるわけがないからだ。
親族……親戚の従姉妹あたりが無難かも、と考えリリーが発言しようとしたところ、そこまで黙っていたアメリが突然口を開く。
「リリーは我とともにせいかつし、ともに生きるものである。」
嗚呼……。
リリーもサラも思わず絶句してその場に沈黙が訪れる。我という一人称、尊大な物言い、大仰な発言。言い訳しなければならないことがあまりにも多すぎたが、今後の円滑な人間関係のためにもここで黙り込むわけにはいかない。リリーは慌てて脳をフル回転させる。
「あの、つまり、今の発言はですね……彼女と私は今訳あって一緒に暮らしているので、同居しているってことが言いたかったんです! アメリはちょっと王様ごっこ? のようなものにハマっていて、そういう設定で話しているだけなんです。どうか気にしないでください。」
「アハハ、そうなのかい。仲良しでいいじゃないか。」
流石に接客のプロであり、サラもリリーの咄嗟の発言に同意して話を流そうとしてくれていたが、彼女の眼は隠し切れない同情が浮かんでいた。彼女の中では、関係性はともかく、リリーは明らかに性格または精神(または……頭)に問題を抱えている人物の面倒を見る羽目になっている可哀想な人物になっているのだろう。
リリーは居た堪れなさに身を焼かれながらも、サラの優しさに感謝し辛うじて笑顔を作った。
唯一アメリだけが、当然のことを言ったまでと言わんばかりに、場の空気など一切気にせず無表情で佇んでいた。
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